新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2023年5月8日から感染症法上の2類相当全数報告疾患から5類定点報告疾患に変更され, 感染症発生動向調査上は流行のトレンドとレベルの把握が中心となった。沖縄県では2023年4月後半から定点医療機関当たり報告数の増加がみられ, 5月には10人を超え, 第26週(6月26日~7月2日)には48.39人に達した。一方, 同週の日本全体の定点当たり報告数では7.24人と, 大きな隔たりがあり, 沖縄県は定点化変更後, 最も早くCOVID-19の大きな流行を認めた自治体であった。県内医療施設ではひっ迫状況を来しており, その背景情報の収集解析は保健行政・医療機関がCOVID-19対策を構築するうえで重要と考えられた。なお本報告は2023年7月末時点の情報に基づく。
国立感染症研究所
2023年11月16日時点
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背景
検出状況
科学的知見
各国、各機関による評価
参考文献
注意事項
迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。
注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)がヒトに感染すると、その侵入部位や組織によって様々な症状を起こす。また、時に稀ながら劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因となることがある。本項では、主に小児の間で急性咽頭炎として発生する疾患であるA群溶血性レンサ球菌咽頭炎について述べる。
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の潜伏期間は2~5日であり、突然の発熱、咽頭痛、全身倦怠感によって発症し、しばしば嘔吐を伴う。通常発熱は3~5日以内に下がり、主症状は1週間以内に消失する予後良好の疾患であるが、猩紅熱や急性糸球体腎炎に発展する場合がある。治療にはペニシリン系抗菌薬が第1選択薬とされている。いずれの年齢でも起こり得るが、幼児期から学童期の小児に多い。
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、感染症発生動向調査の小児科定点把握の5類感染症であり、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から毎週報告されている(届出基準:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-17.html)。新型コロナウイルス感染症流行前の2019年までの感染症発生動向調査のデータでは冬季および春から初夏にかけての2つの報告数のピークが認められていた。2020年春以降は大きな流行はなく推移していたが、2023年は第19週頃から3年ぶりの流行を認めた。
2023年は、春先までは明らかな報告数の増加はみられなかったが、第19週(2023年5月8~14日)頃から増加に転じ、第23週(2023年6月5~11日:定点当たり報告数1.67)にピークとなった。その後は第33週(2023年8月14~20日)にかけて一度減少傾向となったが、その後再度増加傾向となり、第39週(2023年9月25日~10月1日:定点当たり報告数1.97)から第43週(2023年10月23~29日:定点当たり報告数3.05)にかけては、過去10年の当該週の定点当たり報告数よりも多い報告数となっている(以下、報告数等は集計時点暫定値)。なお、2023年第18週はゴールデンウィーク、第33週がお盆にあたり、届出数の解釈には注意が必要である。
2023年第1週(2023年1月2~8日)〜第43週(2023年10月23~29日)の年齢別・男女別・都道府県別累積報告数の特徴を以下に示す。年齢別では、5歳(22,001例.定点当たり累積報告数7.01)をピークに、3歳(14,446例.定点当たり累積報告数4.60)から7歳(15,309例.定点当たり累積報告数4.88)において報告数が多かった(表1)。男女別では、男性が82,324例(54.5%)、女性が68,864例(45.5%)であり、男性に多かった。都道府県別では、福岡県(定点当たり累積報告数114.78)、鳥取県(定点当たり累積報告数114.53)、長崎県(定点当たり累積報告数76.64)の順に報告数が多かった(表2)。なお、本疾患の発生動向調査は小児科定点医療機関のみからの報告であることから、成人における本疾患の動向の評価は困難である。
本疾患は通常、患者との接触を介して伝播するため、ヒトとヒトとの接触の機会が増加するときに起こりやすく、家庭、学校、保育施設などでの集団感染が多い。予防としては、患者との濃厚接触を避けることが重要であるため、職員を含め体調不良者は出勤・登園を控える必要がある。また、手洗いや手指消毒の励行や、マスクを用いた咳エチケット(咳やくしゃみを発する者が周囲への感染予防のためにマスクを着用すること)も効果が期待できる。
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の感染症発生動向調査に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●IASR 溶血性レンサ球菌感染症 2012年~2015年6月
https://www.niid.go.jp/niid/ja/mdrp-m/mdrp-iasrtpc/5843-tpc426-j.html
●A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html
●感染症発生動向調査(IDWR)過去10年間との比較グラフ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html
●IASR小児科定点疾患としてのA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の動向(2011年~2016年第21週)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcusiasrs/6643-439p01.html
国立感染症研究所 感染症疫学センター
国立感染症研究所インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター第一室
全国地方衛生研究所 |
複数国で報告されているエムポックスについて
(第6報)
2023年11月8日時点
国立感染症研究所
概要
第5報からの変更点
国内外での発生状況の更新
治療薬、ワクチンに関する知見の更新
国内における対策の更新
目次
従来のエムポックスについて
国外の状況
国内の状況
国内における対策
ワクチンについて
治療薬について
動物におけるエムポックス
注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆咽頭結膜熱
咽頭結膜熱(pharyngoconjunctival fever)は発熱、咽頭発赤、結膜充血などの症状・所見を伴う、小児に多い急性ウイルス性感染症である。5月頃から徐々に増加しはじめ、6~7月にピークを形成する夏期に多い感染症であるが、一年を通して感染する恐れがある。咽頭結膜熱はアデノウイルスが原因病原体であり、流行を起こすのは多くが3型であるが、2型、4型、7型、11型なども本症を起こす。潜伏期間は5~7日で、発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎が3主症状である。まれに肺炎など重症化する場合がある。感染症法に基づく医師の届出においては、発熱、咽頭発赤、結膜充血の3つの臨床症状を全て満たす必要がある。感染経路は、接触感染、飛沫感染、経口(糞口)感染である。特異的治療法はなく、対症療法が中心となる。また、感染対策を検討するうえで、アデノウイルスがアルコールに対して抵抗性を示すことにも留意が必要である。
咽頭結膜熱は、感染症発生動向調査の小児科定点把握の5類感染症であり、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から毎週報告されている。2023年は、例年、患者報告数が減少する第33週(2023年8月14~20日)頃から増加に転じ、第42週(2023年10月16~22日)は過去10年の定点当たり報告数の中で最も多い報告数(定点当たり報告数2.16)となっている(以下、報告数等は集計時点暫定値)。年齢群別にみた2019年第1週(2018年12月31日~2019年1月6日)~第42週(2019年10月14~20日)の累積報告数との比較では、特に2歳から8歳までの小児において増加がみられる(表1)。2023年第1〜42週の男女別累積報告数は、男性が42,888例(54.5%)、女性が35,798例(45.5%)であり、男性に多かった。更に、2023年第1〜42週の定点当たり累積報告数を都道府県別にみると、福岡県で最も多く(定点当たり報告数64.88)、2019年第1~42週との比較では、福岡県のほか関西地域において顕著な増加がみられる(表2)。
病原体検出情報(IASR)速報では、2023年の第1〜42週に咽頭結膜熱と診断された患者から検出されたアデノウイルス(総検出報告数105:2023年10月30日現在)は、アデノウイルス2型34.3%(検出報告数36)、3型28.6%(検出報告数30)、1型18.1%(検出報告数19)の順となっている。第1〜26週(2023年6月26日~7月2日)は、2型および1型が大半の割合を占めていたが(1型28.8%、2型49.2%、計78.0%) 、第27〜42週においては3型の割合が多い(65.2%)。
小児の集団生活の中では感染が拡大しやすいことから、保育施設などでは、職員を含め体調不良者は出勤・登園を控えることや、流水・石鹸による手洗いや手指消毒の励行、タオルを共有しないこと、手すりやドアノブ、おもちゃなど多くの人が接触する場所や物の消毒、排泄物の適切な処理等が感染予防策として大切である。
咽頭結膜熱の感染症発生動向調査に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●IASR アデノウイルス感染症 2008~2020年
https://www.niid.go.jp/niid/ja/adeno-pfc-m/adeno-pfc-iasrtpc/10290-494t.html
●咽頭結膜熱とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/323-pcf-intro.html
●感染症発生動向調査週報(IDWR)過去10年間との比較グラフ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html
●IASR アデノウイルス
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1532-iasrgv.html
●厚生労働省 咽頭結膜熱について
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/01.html
国立感染症研究所 感染症疫学センター