※PDF版よりピックアップして掲載しています。
 
 
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<速報>フィリピン渡航者からのD9型麻しんウイルスの検出―福岡市

(掲載日 2014/4/1) (IASR Vol. 35 p. 132: 2014年5月号)

 

今回、フィリピン渡航者からD9型麻しんウイルスを検出したので、その概要を報告する。

症例は29歳、男性。ワクチン接種歴は不明。2月17日~20日にかけてフィリピン(セブ島)に渡航。2月27日より発熱、咳、鼻汁、結膜充血を認め、3月4日より発疹が出現した。3月5日に近医を受診し、3月6日に福岡大学病院を受診、麻しんと診断され3月7日から同大学病院に入院した。

3月7日にPCR検査用の検体が採取された。検体は、尿・咽頭ぬぐい液・血漿・末梢血単核球細胞で、病原体検出マニュアル記載のRT-PCR法により麻しんウイルスのHA遺伝子およびN遺伝子の検査を行った。その結果、HA遺伝子は尿・咽頭ぬぐい液・血漿が陽性、N遺伝子はすべての検体が陽性であった。さらにN遺伝子の RT-PCR増幅産物を使用し、ダイレクトシークエンス法により塩基配列(450塩基)を決定した。それぞれの検体から得られた塩基配列は100%一致し、系統樹解析を行ったところ、D9型麻しんウイルスであることがわかった(図1)。

日本では、2013年12月からフィリピン渡航歴がある麻しん症例でのB3型ウイルスの検出が増加しているが1)、今回のフィリピン渡航者からはD9型が検出された。D9型は2010~2011年に、フィリピンで流行した遺伝子型である2)。その当時、日本でもフィリピンからの輸入例と考えられる症例が報告されていたが3)、2012年第3週以降はフィリピンと明らかな疫学的リンクをもつD9型ウイルスによる麻疹の報告はない4)。しかし、今回の症例では、フィリピン渡航から発症までの期間は7~10日間であるため、渡航中に感染を受けた可能性が高く、フィリピンにおいてはB3型ウイルスによる麻しんとともにD9型ウイルスによる麻しんが継続している可能性もある。

今後も海外での流行状況について情報収集を行うとともに、麻しんウイルスの遺伝子解析を継続していく必要があると考えられた。

 

参考文献
1) http://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles/2084-infectious-diseases/disease-based/ma/measles/idsc/iasr-measles/4349-iasr-measles-140203.html
2) http://www.wpro.who.int/immunization/documents/MRBulletin_Vol5Issue8.pdf
3) http://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2248-related-articles/related-articles-396/3169-dj3967.html
4) http://www.niid.go.jp/niid/ja/measles-m/idennsi/3069-idennsigata12-52.html

 

福岡市保健環境研究所  古川英臣 梶山桂子 宮代 守 佐藤正雄
福岡市城南区保健福祉センター 伊藤孝子 酒井由美子
福岡市早良区保健福祉センター  井手瑶子
福岡市保健福祉局保健予防課  植山 誠 眞野理恵子 衣笠有紀
福岡大学病院 腫瘍・血液・感染症内科  高田 徹 猪狩洋介
国立感染症研究所ウイルス第三部第1室  駒瀬勝啓

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<速報>成田空港検疫所で確定診断されたデング熱・チクングニア熱症例(2013)

(掲載日 2014/4/1) (IASR Vol. 35 p. 112- 114: 2014年4月号)

 

はじめに:検疫所では感染症法および検疫法の改正〔1998(平成10)年および2011(平成23)年〕により検疫法第13条に基づいて、検疫感染症としてのデング熱、チクングニア熱、マラリアに対する診察および血液検査が実施されている。成田空港検疫所で2013年にこれらの血液検査において陽性と確認された症例についてまとめたので報告する。

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<速報>呼吸器症状を呈した乳幼児から検出されたヒトボカウイルスの遺伝子系統樹解析および流行疫学(2011~2013年)―三重県

(掲載日 2014/4/1) (IASR Vol. 35 p. 111- 112: 2014年4月号)

 

ヒトボカウイルス(human bocavirus:HBoV)は、パルボウイルス科パルボウイルス亜科ボカウイルス属に分類されており、急性呼吸器感染症(acute respiratory infection: ARI)の起因ウイルスの一つである。HBoVは、2005年にスウェーデンの呼吸器感染症患者から初めて発見され1)、国内においても、近年、HBoV検出報告2-3)がされているが、患者臨床情報等の報告は少なく、いまだに疫学的に不明な点が多い(臨床的意義は明らかではない)。そこで我々は、三重県内のHBoV流行疫学を把握するために、2011年1月~2013年12月の検出状況(検出時期、臨床診断名等)および遺伝子系統樹解析を実施したので報告する。

上記調査期間に、三重県感染症発生動向調査事業において県内の定点医療機関を受診した小児呼吸器系疾患患者675名の患者検体(鼻汁、咽頭ぬぐい液、気管吸引液)を対象とした。HBoV遺伝子検査はAllander1)らのConventional-PCR法にて実施した。検出された一部のHBoVについてVP1/ VP2領域の遺伝子系統樹解析4)を行った。

675名中21名(3.1%)の患児からHBoVが検出された(表1)。年別検出数は2011年5名、2012年9名、2013年7名であった。HBoV陽性者の年齢構成は0歳3名(14%)、1歳15名(71%)、2歳3名(14%)であり、検出月は2月1名(4.8%)、3月1名(4.8%)、4月4名(19%)、5月8名(38%)、6月4名(19%)、7月1名(4.8%)、8月1名(4.8%)、11月1名(4.8%)と春から初夏に多数検出される傾向であった。

HBoV陽性者の臨床診断名は気管支炎9名(43%)、咽頭炎6名(29%)、細気管支炎3名(14%)等で、12名(57%)の患児は、下気道炎症状からの検出であった。HBoV陽性者の受診時における発熱者(37.5℃以上)は16名(76%)で、このうち9名(43%)は38.5℃以上であった。

VP1/ VP2領域の遺伝子系統樹解析を実施したHBoV株(17名)は、3つのGroupに分類された(図1)。採取年別のGroup分類(内訳)は、Group1は4名(2011年2名、2012年1名、2013年1名)から検出された。Group2は12名(2011年1名、2012年7名、2013年4名)から検出されたが、Group3は1名(2011年)のみであった。

他のウイルスとの重複検出については、human metapneumovirus(hMPV)4名、respiratory syncytial virus(RSV)1名の計5名(24%)であった。すべての呼吸器感染症起因病原体の検索には至っていないが、HBoVの検出における臨床的意義を含め依然として不明な点が多いと思われる。今後、さらにHBoVの疫学を解明するためには、積極的かつ継続的なモニタリングを実施し、全国規模のHBoV流行疫学および患者臨床情報の蓄積が必要であると思われる。 

謝辞:本稿を終えるにあたり、三重県発生動向調査事業における検体採取を担当された医療機関の諸先生方および関係各位にお礼申し上げます。

 

参考文献
1) Allander T,Tammi MT,Eriksson M,et al., Cloning of a human parvovirus by molecular screening of respiratory tract samples, Proc Natl Acad Sci 102: 12891-12896, 2005
2) 国立感染症研究所感染症疫学センター:年別ウイルス検出状況,由来ヒト,ヘルペス群 &その他のウイルス, 2009~2013年 https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data95j.pdf
3) 改田厚,久保英幸,入谷展弘,他, 乳幼児呼吸器感染症患者からのヒトボカウイルスの検出―大阪市, IASR 29: 161-162, 2008
4) Chieochansin T,Chutinimitkul S,Payungporn S,et al., Complete coding sequences and phylogenetic analysis of Human Bocavirus (HBoV), Virus Res 129(1): 54-57, 2007

 

三重県保健環境研究所
 矢野拓弥 前田千恵 赤地重宏 山寺基子 松野由香里 永井佑樹 小林章人 楠原 一 小林隆司 福田美和 中川由美子 高橋裕明 奈良谷性子 山内昭則 天野秀臣 西中隆道
落合小児科医院 落合 仁
すずかこどもクリニック 渡辺正博
独立行政法人国立病院機構三重病院 庵原俊昭

 

 

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フィリピンからのB3型麻疹ウイルスによる輸入症例―沖縄県

(IASR Vol. 35 p. 103-105: 2014年4月号)

 

はじめに
沖縄県では麻疹を排除するための対策の一つとして、麻疹全数把握のためのサーベイランスシステムを2003年1月より実施している(IASR 25: 64-66, 2004)。その後、麻疹確定例は減少し、2009年9月のD8型麻疹ウイルス症例(IASR 30: 299-300, 2009)を最後に、2010~2013年まで4年連続で麻疹確定患者ゼロの状態を維持していた。しかし、2014年1月にフィリピンからのB3型麻疹ウイルス輸入症例が確認され、その後3月24日現在まで二次感染者の発生をみずに終息したので、その概要を報告する。

症例および診断
患者は50代男性、1月24日から発熱があり1月28日に医療機関を受診した。受診時の体温は38.4℃、発疹(紅斑)があることを医師が確認した。ワクチン接種歴はあるが接種年月日は不明、2013年11月24日~2014年1月23日にかけてフィリピンへの渡航歴があり、滞在中に麻疹患者と濃厚接触していた。

沖縄県衛生環境研究所において、1月28日に採取された咽頭ぬぐい液を用いて麻疹ウイルスNおよびHA遺伝子のRT-PCRを実施した。その結果、麻疹N遺伝子陽性、HA遺伝子陰性であった。N遺伝子の増幅産物を使用し、ダイレクトシークエンス法により部分塩基配列(456bp)について系統樹解析を行ったところ、B3型麻疹ウイルスであることが確認された(図1)。本症例は、渡航先における麻疹患者との接触状況や潜伏期間により、フィリピンで感染し帰国後に発症した輸入症例と判断した。

各機関の対応
患者を診断した医療機関では、事前に麻疹疑い症例に対する対応マニュアルが策定されており、感染症担当医師および感染管理認定看護師の主導により、具体的な指示が窓口や各担当まで速やかに伝わるよう、院内での体制が構築されていた。そのため、1月28日に患者が受診した際は、窓口における問診時に臨床症状および患者の疫学情報により麻疹疑いが濃厚と判断し、速やかに患者を個室に移した。結果として、窓口での問診で麻疹を疑い隔離対応をしたことが大幅に接触者を減らすことができた大きな要因であった。

医療機関を管轄する沖縄県中部保健所では、1月28日に当該医療機関からの麻疹疑い症例の届出を受理した後、速やかに個室にて患者の疫学調査を開始し、採取された検体を衛生環境研究所に搬送した。当日中に麻疹PCR陽性の結果を受け、保健所職員が医療従事者のワクチン接種歴および外来における接触者状況について確認したところ、医療従事者は入職時に麻疹抗体価検査をしており、陰性の職員に対して全員MRワクチン接種済みであった。また、外来における麻疹患者との接触の可能性は低いと考えられ、曝露後発症予防のための72時間以内のMRワクチン接種の必要性は低いと判断した。保健所と医療機関との協議により、潜伏期間を考慮して患者発生から約2週間は二次感染の麻疹疑い患者の来院を想定し、疑い患者が来院した際は駐車場で待機させ、携帯電話等で問診を実施し、診察にあたっては、一般の診察室とは別の個室にあらかじめ指定した経路を通って入り診察を行うよう調整した。保健所は、接触者である家族および同僚の健康観察を行い、二次感染者が発生していないことを確認した。

沖縄県福祉保健部健康増進課では、1月29日にマスコミを通じ麻疹の発生について県民に対し注意喚起を促した。また、沖縄県はしか“0”プロジェクト委員会をはじめとする各関係機関に対し速やかに情報提供し、互いに情報を共有することができた。その後、県内では3月24日現在まで麻疹確定例の報告はなく、二次感染者の発生をみずに封じ込めができたと考えられる。

まとめ
今年に入り、国内では昨年同時期を大幅に上回る麻疹患者が報告されており、特にフィリピンでの感染が疑われる症例が多くみられている1)。国内での土着株による麻疹症例が減少している中、今後は海外の麻疹流行地域からの渡航者による輸入麻疹症例の増加が危惧されており、国内での二次感染予防対策が重要となっている。「麻しんに関する特定感染症予防指針」で目標としている、2015年度までに国内における麻疹排除に向け、高いワクチン接種率(95%以上)を目標に実施し、症例ごとに疫学解析およびウイルス遺伝子解析を丁寧に実施していくことが重要である。

 

参考文献
1) IASR 麻疹ウイルス分離・検出状況 2014年  
  http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-measles.html

 

沖縄県衛生環境研究所
  加藤峰史 仁平 稔 喜屋武向子 新垣絵理 髙良武俊 岡野 祥 久高 潤
沖縄県中部保健所
  照屋 忍 髙嶺明菜 金城恵子 小林孝暢 山川宗貞 伊禮壬紀夫
沖縄県福祉保健部健康増進課
  平良勝也 大野 惇 糸数 公
ちばなクリニック・中頭病院  
  新里 敬 渡辺蔵人 伊波千恵子
沖縄県はしか“0”プロジェクト委員会 
  知念正雄

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan