注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆ 腸管出血性大腸菌感染症 2014年第16週(2014年4月22日現在)
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、溶血性尿毒症症候群(HUS)など重篤な合併症を引き起こすことがある注目すべき疾患である。HUSは特に5歳未満の小児に発症のリスクが高いことが報告され、HUS発症者の致命率は5%程度と報告されている1, 2, 3)。 2014年第1~ 16週( 4月22日現在)のEHEC O157 VT1・VT2またはO157 VT不明(EHEC O157)感染症の報告数は、無症状病原体保有者を含み、第1~13週までは毎週5例以下であったが第14週以降増加し、例年を上回る報告数で推移している。本年第16週(4月22日現在)までの累積報告数は126例で、2009年以降の各年同時期のEHEC O157感染症の累積報告数と比較すると、2010年に次ぐ2番目に多い報告数である(2009年102例、2010年178例、2011年66例、2012年66例、2013年67例)。2009年以降の同時期と比較すると、EHEC O157感染症の発生報告のうち、HUS発症数は2009年3例(HUS発症率2.9%)、2010年5例(同2.8%)、2011年1例(同1.5%)、2012年1例(同1.5%)、2013年3例(同4.5%)、2014年3例(同2.4%)であった。本年の発症率は例年並みの約2%であるが、発症数は2010年に次ぎ2009年及び2013年とともに2番目に多かった。EHEC O157感染症報告数のうち約半数(52例)が「馬刺し」と関連した記述のある症例であり(図1)、そのうち1例のHUSが確認されている(発症率1.9%)。
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国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室
全国地方衛生研究所 |
・ | ペラミビル治療患者からのH275Y耐性ウイルス検出事例報告 |
・ | 新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)オセルタミビル耐性株(H275Y)の国内発生状況 [第2報] |
・ | 新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)オセルタミビル耐性株(H275Y)の国内発生状況 [第1報] |
・ | 2008/09インフルエンザシーズンにおけるインフルエンザ(A/H1N1)オセルタミビル耐性株(H275Y)の国内発生状況 [第2報] |
・ | 2008/09シーズンにおける季節性インフルエンザ(A/H1N1)オセルタミビル耐性株検出情報 |
・ | 2007/08シーズンにおけるインフルエンザ(A/H1N1)オセルタミビル耐性株(H275Y)の国内発生状況 [第2報] |
国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室
全国地方衛生研究所 |
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・ | ペラミビル治療患者からのH275Y耐性ウイルス検出事例報告 |
・ | 新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)オセルタミビル耐性株(H275Y)の国内発生状況 [第2報] |
・ | 新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)オセルタミビル耐性株(H275Y)の国内発生状況 [第1報] |
・ | 2008/09インフルエンザシーズンにおけるインフルエンザ(A/H1N1)オセルタミビル耐性株(H275Y)の国内発生状況 [第2報] |
・ | 2008/09シーズンにおける季節性インフルエンザ(A/H1N1)オセルタミビル耐性株検出情報 |
・ | 2007/08シーズンにおけるインフルエンザ(A/H1N1)オセルタミビル耐性株(H275Y)の国内発生状況 [第2報] |
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A型(ワクチンタイプ)の検出は除く |
(掲載日 2014/4/28) (IASR Vol. 35 p. 151-152: 2014年6月号)
熱帯熱マラリアは免疫のない旅行者では予後が悪く1)、渡航関連感染症の中で最も注意を要する疾患に位置づけられている。2013年には、ケニア・ニャンザ州へのツアー参加者2名が熱帯熱マラリアと診断された事例がIASRで報告され2)、マラリアリスク地域への出発前の準備不足や予防に関する渡航者の誤解についての注意喚起が行われた。残念ながら、その後も一般市民における渡航時の感染症の予防等への意識も高いとは言えない状況が続いている。
国のグローバル人材戦略のもと、学生や職員を海外に派遣する高等教育機関が増えるなか、大学内の活動で渡航をした学生2名が熱帯熱マラリアを発症した。1名は脳マラリアを含む合併症を伴い重症化している。
教育機関および医療機関の協力により同様の症例を防ぐことが可能との見地から共有したい。
症例は20代の生来健康な男性、大学サークル活動で3月中旬から12日間、ケニア・ニャンザ州キスム(高度1,000m台、ケニア第3位の規模の都市)に滞在した。検疫所で黄熱ワクチンは接種していたが、マラリア予防内服はしていなかった。現地民の家で寝袋を使って寝泊りし、蚊帳や忌避剤の使用はしていたが、蚊に刺されることは多かった。帰国13日後に悪寒戦慄を伴う発熱、頭痛、食思不振を自覚し、翌日に近医Aを受診して解熱剤の処方を受けた。しかし、症状が改善しないため同日近医Bを受診し、第3病日に近医Bに入院となった。血液検査を施行し、細菌感染症としてミノサイクリンの投与を受けたが、症状は改善せず、水様便や血尿も出現した。同行者の1名が別の医療機関で熱帯熱マラリアと診断されたとの情報を得て、第5病日に精査加療のため当院に転院となり、抗原迅速検査および塗抹鏡検にて熱帯熱マラリアと診断された。当院来院時のバイタルサインは体温37.2℃、心拍数80/分、呼吸数27/分、血圧111/62 mmHgと多呼吸を認めたが呼吸苦はなく、意識清明で食事も少量摂取が可能であった。黄疸も著明ではなく、顔面浮腫および肝叩打痛と脾腫大を認めるのみであった。血液検査では腎障害もなく、乳酸値も4.3 mmol/Lと重症マラリアの基準3)を満たす項目は少なかったが、寄生率は21.7%RBCと非常に高度であった。寄生率の高さより重症マラリアとして*グルコン酸キニーネ静注(16 mg/kgでloading、以降8 mg/kg q8hrで投与)を開始した。投与翌日より昏睡状態となり、脳マラリアの診断に至った。
第9病日には原虫消失を認めたが、意識障害は遷延している。ただし、改善傾向にはあり、第13病日において呼びかけに対して開眼閉眼が可能となった。
ケニアは標高1,000~1,800mの高地が多く、赤道直下の国としては比較的熱帯熱マラリアの感染リスクが低い国といえるが、ヴィクトリア湖沿岸の西部州やこのたび渡航したニャンザ州などの地域は高リスク地域に分類される4)。マラリアリスク地域渡航前には、マラリアの病態や症状についての教育、予防内服についての検討、適切な防蚊対策および体調不良時の迅速な対応についての説明が不可欠である。とりわけ帰国後の発熱に対する迅速な医療機関受診についての教育が重要であり、熱帯熱マラリアによる死亡者の初回医療受診は第4~8.5病日(中央値)とされており、発症から診断までのタイムラグが致命的な結果につながると報告されている1)。渡航者に対するマラリアについての教育は、“受診の遅れ(Patient’s delay)”やマラリア診療歴の少ない医師の多い日本での“診断の遅れ(Doctor’s delay)”の減少に大きく寄与する。本症例においては、“帰国後1カ月以内の発熱は熱帯熱マラリアの可能性がある”、“治療の遅れが重症化につながる”、“マラリア予防内服が利用できる”といった情報を得られておらず、重篤な状況に陥ったものと考えられる。
海外研修の準備の段階において、しばしば“周囲の人間が何もしなくても大丈夫だった”、“今まで問題がなかったから何もしなくて大丈夫”といった誤った認識も散見される。グローバル化の中、準備不足によって本来避けうるリスクにさらされることがないよう、大学における渡航前教育の実施や、渡航前後の医療機関受診の支援を行うことが重要である。
*国内未承認のキニーネは熱帯病治療薬研究班により入手、本人の同意を得て使用
参考文献
1) Checkley AM, et al., Risk factors for mortality from imported falciparum malaria in the United Kingdom over 20 years: an observational study, BMJ 2012; 344: e2116
2) 中村ら, 熱帯熱マラリアの2例―同一グループ内での複数発症事例, IASR 34: 235, 2013 [2014/4/19アクセス] http://www.niid.go.jp/niid/ja/malaria-m/malaria-iasrd.html
3) WHO, Guidelines for the treatment of malaria, Second edition [2014/4/19アクセス] http://whqlibdoc.who.int/publications/2010/9789241547925_eng.pdf?ua=1
4) Malaria Atlas Project, The spatial distribution of Plasmodium falciparum malaria endemicity map in 2010 in Kenya [2014/4/19 アクセス]
http://www.map.ox.ac.uk/browse-resources/endemicity/Pf_mean/KEN/
国立国際医療研究センター国際感染症センター
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