感染源の究明という観点からは、医療機関、保健所、地方衛生研究所等においては、連携して患者の喫食や行動に関する情報を収集・整理することが重要である。特に、共通した食材・食品の広域流通的な曝露という観点からの聞き取りや遺伝子配列解析の実施が自治体の連携により行われることが、原因究明の上でより有効であると考えられる。 【参考文献】 2. Nordic Outbreak Investigation Team. Joint Analysis by the Nordic Countries of a hepatitis A outbreak, October 2012 to June 2013: Frozen Strawberries Suspected. Eurosurveillance, Volume 18, Issue 27, 04 July 2013 3. Petrignani M, Harms M, Verhoef L, et al. Update: a food-borne outbreak of hepatitis A in the Netherlands related to semi-dried tomatoes in oil, January-February 2010. Eurosurveillance, Volume 15, Issue 20, 20 May 2010. 4. 病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎ウイルスによる食中毒事例-千葉市」 5. 病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎ウイルスによる食中毒事例-新潟市・新潟県」 6. 病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎ウイルス(HAV)による食中毒2事例について-東京都」 7. 病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎患者(寿司店主)が感染源と思われるA型肝炎ウイルスによる食中毒-岐阜県」 8. 病原微生物検出情報(IASR)「大アサリの喫食を原因とするノーウォーク様ウイルスとA型肝炎ウイルスによる食中毒事例-浜松市」 9. Klevens M et al. Hepatitis. In: Heymann DL, ed. Control of communicable diseases manual. 19th ed. Washington DC: American Public Health Association, 2008;278-300.
注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆ A型肝炎の発生動向(2014年第22週)
2014年の全国におけるA型肝炎の報告数は第3週以降増加し、第9~10週にピークを形成した。その後減少したものの、過去4年間の報告数から算定されたベースラインを大きく超える値で推移しており、第12週以降は平均10例程度報告されている(図1)。第22週までに37都府県からの累積報告数は342例となり、20例以上を報告したのは福岡県(36例)、大阪府(33例)、鹿児島県(29例)、広島県(27例)、東京都(24例)、兵庫県(22例)、神奈川県(21例)であった。感染症発生届に記載されていた感染経路は、経口感染が全体の80%程度であった。
2014年第22週までに報告された342例の年齢中央値は51歳(範囲:0~97歳)で、年齢階級別では60~69歳が82例(24%)で最も多く、次いで50~59歳が69例(20%)、40~49歳が59例(17%)であった。性別は男性が201例(59%)、女性が141例(41%)であった。国内が推定または確定感染地域として報告された症例は309例(90%)であった。国外が推定感染地域として報告された症例は33例(フィリピン、韓国、タイ、ネパール、パキスタンの順)であった。診断方法は337例が血清IgM抗体によるもので、PCR法によるウイルス検出は5例であった。
A型肝炎の発生報告は2014年第8週で東北地方に限局的な流行が見られた(https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/idwr/IDWR2014/idwr2014-10.pdf)。その後、西日本を中心に報告が多くなり、全国のピークであった第9~10週において九州地方及び瀬戸内地方から約7割が報告された。第22週まで、九州地方と瀬戸内地方で約6割を占めている(九州地方:29%、瀬戸内地方:28%)。九州地方では第20週前後の増加傾向が注目される(図1)。
図1. A型肝炎の全国・地方別の週別報告数(2014年第1~22週)
図2. A型肝炎の遺伝子配列ⅠA(広域型)の都道府県別検出状況(2014年第1~22週)
これまでに報告された症例のうち、159例で遺伝子配列解析を行い、ⅠA(広域型)が21府県で103例、ⅠA(広域型以外)が34例、ⅢAが18例、ⅠBが4例検出された(図2)。ⅠA(広域型)は遺伝子配列解析を行った領域の配列がほぼ完全に同一であった(http://www.niid.go.jp/niid/images/idwr/douko/2014d/img22/chumoku03.gif 参照)。ⅠA(広域型)のうち10例以上検出したのは鹿児島県が15例、福岡県と宮崎県がともに12例、兵庫県が11例であった。第5~11週にはⅢAを中心とした限局的な流行が宮城県及び山形県においてみられた。第7週以降には、ⅠA(広域型)が検出された症例が、宮城県から鹿児島県まで全国から広く報告されていたものの、九州地方及び瀬戸内地方からの検出が全体の74%を占めた。このことから、ⅠA(広域型)の全国的な流行は、これらの地域に広域に流通した共通の感染源によるものである可能性が考えられた。感染源については現在まで不明である。過去に食中毒と判断されたケースにおいては、国内では海産物が報告され、海外ではセミドライトマトなどが関与した広域事例が報告されたことがある1-8)。
A型肝炎は一般的に潜伏期が平均28~30日(範囲:15~50日)9)と長いことから、食材などの感染源についての聞き取り調査は困難である。感染源の共通性の検討には、遺伝子配列解析などの分子疫学的手法が非常に有用である。しかしながら、ウイルス株の遺伝子配列解析については、自治体により実施体制が異なっている。地方衛生研究所より国立感染症研究所ウイルス第二部へ行政検査によるウイルス解析の依頼とともに検体送付があれば遺伝子配列解析の実施は可能である。
1. DePaola A, Jones JL, Woods J, et al. Bacterial and viral pathogens in live oysters: 2007 United States market survey. Appl. Environ. Microbiol. May 2010 vol. 76 no. 9 2754-2768
http://aem.asm.org/content/76/9/2754.full.pdf+html
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20520
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19572
https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/373/pr3733.html
https://idsc.niid.go.jp/iasr/27/317/pr3171.html
https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/273/dj2731.html
https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/268/kj2683.html
https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/267/kj2672.html
国立感染症研究所
感染症疫学センター
河端邦夫 金山敦宏 八幡裕一郎 山岸拓也 松井珠乃 高橋琢理 有馬雄三
木下一美 齊藤剛仁 大石和徳 砂川富正
ウイルス第二部
石井孝司 清原知子 脇田隆字
(掲載日 2014/6/10) (IASR Vol. 35 p. 177-178: 2014年7月号)
2014年5月28日現在、全国の麻疹患者累積報告数(第1週~21週)は既に343例に達しており、2012年と2013年の年間報告数をすでに上回っている1)。これらの多くはフィリピンからの輸入麻疹もしくは関連事例で、遺伝子型は主にB3型である。愛知県(名古屋市を除く)では2014年1~5月までに12例の検体から麻疹ウイルス遺伝子を検出し、その内訳はB3型が10例とH1型が2例だった。B3型10例のうち3例にはフィリピンへの渡航歴があった。H1型の2例はベトナムから帰国した患者とその家族であったため、ウイルス遺伝子検査およびウイルス分離の概要を報告する。
患者1:39歳男性、麻疹含有ワクチン(MCV)接種歴なし。前月より滞在していたベトナムから帰国した5月6日に発熱、5月9日に発疹出現。5月12日に検体採取。
患者2:1歳男児、MCV接種歴なし。患者1の同居家族。5月17日に発熱し、5月20日発疹出現およびコプリック斑陽性。5月17日と5月20日に検体採取。
患者1と2より採取された血液(全血)、尿、咽頭ぬぐい液を検体として、RT-nested PCR法による麻疹ウイルス遺伝子検出およびVero/hSLAM細胞を用いたウイルス分離を試みた。PCRの結果、すべての検体より麻疹ウイルスNおよびH遺伝子が増幅され、N遺伝子増幅産物の塩基配列を決定した。N遺伝子の部分塩基配列(456bp)は患者1と2で同一であり、系統樹解析の結果、H1型に分類された(図)。この塩基配列は2013年ベトナムから報告された配列Mvs/Lao Cai.VNM/28.13(450bp)と100%相同であったが、2013年2月と3月に本県で決定された中国からの輸入症例由来H1型とは異なっていた(図)。また、患者1の1検体(尿)、患者2の5月17日に採取された尿検体を除く5検体の計6検体より麻疹ウイルスが分離された。
4月20日現在、世界保健機関西太平洋地域からの2014年累積確定麻疹患者数は中国、フィリピン、ベトナムの順に多く、ベトナムからは936人の報告がある2)。遺伝子型をみると、中国はH1型、フィリピンはB3型が多いが、ベトナムからはD8型、B3型、H1型が報告されている2)。2012年以降国内からは、福島県による台湾からの輸入例を発端としたアウトブレイク3)や千葉県(中国渡航歴)・東京都(渡航歴なし)4)、大阪府(中国渡航歴)5)の散発例にH1型の報告がある。さらに2014年3月には静岡県でベトナムからの輸入例も報告されている6)。今回本県で検出されたH1型は以前国内で報告された中国輸入例などと異なる塩基配列であること、ベトナムから帰国した日に発症していることからベトナムからの輸入麻疹と考えられる。
本県で2014年に海外渡航歴を有した麻疹患者4名のうち3名はMCV接種歴なし、1名は不明であった。2013年12月以降、本県のみならず全国でフィリピンやベトナムなど東南アジアで麻疹ウイルスに感染した人による輸入麻疹のリスクが高まっており、今後も輸入麻疹への備えが必要である。2015年の麻疹排除に向けて輸入麻疹との関連や感染経路の特定に有用な分子疫学的解析の重要性が、ますます高まると思われる。
愛知県衛生研究所
安井善宏 尾内彩乃 伊藤 雅 安達啓一 中村範子 廣瀬絵美 小林慎一 山下照夫
皆川洋子
豊田市保健所
荒ケ田智子 浅井康浩 加藤勝子 竹内清美
国立感染症研究所・感染症情報センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報が含まれる(参考図)。 |
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*2013/14シーズンは2013年第36週/9月~2014年第35週/8月(検体採取週)。 図の元データは、以下の速報グラフ(病原体個票による報告)。 データは、土日祝日を除く2日前に地研から報告された情報。過去の週に遡っての追加報告もある。現在報告数は、地研より報告された日を表す。 |
国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報事務局 |
2014年6月9日
国立感染症研究所
2012年9月22日に英国よりWHOに対し、中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から後にMiddle East Respiratory Syndrome Coronavirus(MERSコロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルス(以下、MERS-CoV)が分離されたとの報告があって以来、中東地域に居住または渡航歴のある者、あるいはMERS患者との接触歴のある者において、このウイルスによる中東呼吸器症候群(MERS)の症例が継続的に報告され、医療施設や家族内等において限定的なヒト-ヒト感染が確認されている。
以上のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいており、症例情報は、基本的に世界保健機関(WHO)からの公式情報(http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/MERS_CoV_Update_09_May_2014.pdf)を参照してまとめている。なお、事態の展開にあわせて、リスクアセスメントを更新していく予定である。
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国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報事務局 |
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国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報事務局 |