※PDF版よりピックアップして掲載しています。
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<速報>増加しつつある梅毒   
     ―感染症発生動向調査からみた梅毒の動向―

(掲載日 2014/2/27)

 

梅毒は多くの先進諸国同様、日本でも減少傾向にあったため、昔の病気と考えられていた。しかし近年、欧米では男性と性交をする男性(Men who have sex with men: MSM)を中心に感染が広がっていることが報告されている1-3)。そこで、日本における近年の梅毒の発生動向を調べることにした。

2001~2013年までの感染症発生動向調査年報と人口動態統計を用いて、近年の梅毒の動向を調べた。感染症発生動向調査に関しては、2012年までのデータは年報を用い、2013年のデータは2014年1月10日現在の暫定集計を用いた。人口は厚生労働省の人口動態統計(各年の10月1日現在の人口、2013年は推定値)を用いた。

2013年の梅毒総報告数は1,226例であり、前年2012年の総報告数875例に対して1.4倍に増加していた(図1)。人口10万当たり発生率は2012年が0.7であったのに対し、2013年は1.0であった(図2)。なお、感染症発生動向調査における梅毒の捕捉率について、年次変動を示すデータはない。

性別は男性が989例(80.7%)と多数を占めており、男性の人口10万当たり発生率は1.6であった(女性は0.4)。年齢群別の人口10万人当たり発生率をみると、男性では25~29歳が3.9で最も高く、次いで35~39歳の3.4であった。男性の20~50代の発生率はいずれも2012年より増加していた(図3)。女性では20~24歳が1.3で最も高く、次いで25~29歳の0.9であった。

症状は無症候が473例(38.6%)、早期顕症Ⅰ期が220例(17.9%)、早期顕症Ⅱ期が469例(38.3%)、晩期顕症が60例(4.9%)、先天梅毒が4例(0.3%)であった。2012年と比べると男女ともに無症候と早期顕症Ⅱ期の増加が目立った。

感染経路は、男性では861例(87.1%)が性的接触と報告されており、同性間または異性/同性間性的接触が443例(51.5%)と過半数を占め、そのうち同性間性的接触が432例(50.2%)、異性/同性間性的接触11例(1.3%)、異性間性的接触は309例(35.9%)であった(図4)。女性は160例(67.5%)が性的接触と報告されており、異性間性的接触が141例(88.1%)と多くを占めた。

梅毒は近年、10~40代の男性同性間性的接触感染が急増してきている。これは異性間性的接触による感染者が多くを占めるとされる性器クラミジア感染症や淋菌感染症が増加していないこととは対照的である4)。同じくMSMが感染者の多くを占めるHIV感染症の新規報告数が横ばいとなっているが5)、現行の報告制度では各疾患の報告同士の関連が不明なため、梅毒との関係は把握が困難である。女性も増加傾向にあり、MSM間での感染の流行が波及している可能性がある。また、小児の先天梅毒は、妊娠中の性感染対策の不備に起因していると考えられる。妊婦の梅毒検査の実施状況、妊婦の梅毒感染率、適切な治療と治療効果判定の有無、など、先天梅毒に関する疫学情報の把握を行い、適切な対策を行っていく必要がある。梅毒は診断が下れば治療は比較的容易だが、診断の遅れから神経梅毒などを発症し後遺症が残ることも稀ではない。梅毒の予防には、100%ではないもののコンドームに効果が認められている6)。増加傾向にある梅毒の国内外での動向を把握し、医療関係者や罹患率が高い層に対して予防の重要性を含めて情報提供していくことが必要である。

 

参考文献
1) 2012 Sexually Transmitted Disease Surveillance, Centers for Disease Control and Prevention (http://www.cdc.gov/std/stats12/syphilis.htm, 閲覧2014年2月14日)
2) Savage EJ, Marsh K, Duffell S, et al., Rapid increase in gonorrhea and syphilis diagnoses in England in 2011, Euro Surveill. 2012;17(29):pii20224
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20224
3) Bremer V, Marcus U, Hamouda O, Syphilis on the rise again in Germany-results from surveillance data for 2011, Euro Surveill.2012;17(29):pii20222
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20222
4) IASR 29: 239-241, 2008
5) IASR 34: 251-252, 2013
6) Kamali A, Quigley M, Nakiyingi J, et al., Syndromic management of sexually-transmitted infections and behaviour change interventions on transmission of HIV-1 in rural Uganda: a community randomised trial, Lancet 361: 645-652, 2003
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2803%2912598-6/abstract

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 
  高橋琢理 山岸拓也 齊藤剛仁 有馬雄三 砂川富正 大石和徳
同細菌第一部 中山周一 大西 真
川崎市健康安全研究所 岡部信彦

 

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国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室

 

全国地方衛生研究所

 日本は世界最大の抗インフルエンザ薬使用国であり、薬剤耐性株の検出状況を迅速に把握し、自治体および医療機関に情報提供することは公衆衛生上重要である。そこで全国地方衛生研究所(地研)と国立感染症研究所(感染研)では、オセルタミビル(商品名タミフル)、ザナミビル(商品名リレンザ)、ペラミビル(商品名ラピアクタ)およびラニナミビル(商品名イナビル)に対する薬剤耐性株サーベイランスを実施している。

下記のグラフおよび表に、地研が遺伝子解析により耐性マーカーH275Yを検出した結果および感染研においてオセルタミビル、ザナミビル、ペラミビルおよびラニナミビルに対する薬剤感受性試験を行った結果の集計を示す。集計結果は毎月更新される。

2013/2014シーズン  (データ更新日:2014年2月25日)NEW

dr13-14j20140218-1s
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 

2012/2013シーズン  (データ更新日:2013年12月26日)

表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2011/2012シーズン  (データ更新日:2013年4月11日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2010/2011シーズン  (データ更新日:2013年2月6日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 検体採取週別
表4.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別
 
2009/2010シーズン  (データ更新日:2013年2月6日)
表1.抗インフルエンザ薬耐性株検出情報 [A(H1N1)pdm09, A(H3N2), B]
表2.抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09株検出情報 報告機関別
表3.抗インフルエンザ薬耐性A(H3N2), B型株検出情報 報告機関別

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<速報>重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布調査結果(第二報)

(掲載日 2014/2/25)

 

マダニ媒介性の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、2013年1月に国内の患者が初めて確認された新興ウイルス感染症である。これまでに患者の発生した自治体は、九州・四国・中国・近畿地方の13県(兵庫、島根、岡山、広島、山口、徳島、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、宮崎及び鹿児島県)である。

SFTSウイルス(SFTSV)が分布する地域では、マダニとマダニに吸血される動物との間でSFTSVが循環・保持される仕組みが成立している。ヒトはSFTSVを保有するマダニに咬まれることで感染する。動物はSFTSVに感染しても発症しないが、感染すると抗体ができる。日本国内には、47種のマダニが生息する。SFTSVの国内分布状況を把握し、その自然界での生活環を明らかにすることは、 SFTS患者発生のリスクを評価し、効果的な感染予防対策を立てる上で非常に重要である。

2013年5月から開始された厚生労働科学研究「SFTSの制圧に向けた総合的研究(研究代表者 倉田 毅)」において、マダニからのSFTSV遺伝子検出法および動物のSFTSV抗体測定法が開発された。これらの検査法により、既に患者が発生している地域だけでなく、患者の発生のない地域も含めて、これまでに入手できたマダニや動物血清の検体を用いて調査を実施したところ、以下のことが明らかになった。

1)マダニについて:九州から北海道の26自治体において、植生マダニ(植物に付着し、動物やヒトを待ち構えているマダニ)とシカに付着しているマダニ(18種4,000匹以上)を調査したところ、複数のマダニ種(タカサゴキララマダニ、フタトゲチマダニ、キチマダニ、オオトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ等)から、SFTSV遺伝子が検出されたが、保有率は5~15%程度とマダニの種類により違いがあった。また、これらのSFTSV保有マダニは、既に患者が確認されている地域(宮崎、鹿児島、徳島、愛媛、高知、岡山、島根、山口、兵庫県)だけではなく、患者が報告されていない地域(三重、滋賀、京都、和歌山、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、栃木、群馬、岩手、宮城県、北海道)においても確認された。調査できたマダニ数が数匹と少なかったため、現時点では判断できなかった3自治体(福岡、熊本、福島県)を除くと、調査した全ての自治体でSFTSV遺伝子を持つマダニがみつかったことから、SFTSV保有マダニは調査していない自治体を含めて国内に広く分布していると考えられる。

2)動物のSFTSV抗体保有状況について:保存血清等を用いて調査した前回の調査[SFTSウイルスの国内分布調査結果(第一報)http://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/sfts-iasrs/3864-pr4043.html]に加えて、平成25年度にシカ(16自治体)、イヌ(2自治体)のSFTSV抗体調査を行った。その結果、シカでは、前回の調査と併せて検体が得られた地域(27自治体)のうち、17自治体(福岡、熊本、宮崎、鹿児島、島根、広島、山口、徳島、愛媛、三重、滋賀、京都、兵庫、和歌山、長野、静岡、宮城県)でSFTSV抗体陽性のシカが確認されたが、その他の10自治体(大分、高知、岐阜、山梨、栃木、群馬、千葉、岩手、福島県、北海道;ただし大分、高知、千葉、福島県は、それぞれ3、1、5、4頭しか調査されていない)では陽性のシカは今回の調査ではみつからなかった。また、シカにおける抗体陽性率は、0%(抗体陽性動物みつからず)から最大で90%と地域差が大きく(陽性シカがみつかった地域での平均は31%)、特にSFTS患者発生地域およびその近隣地域で抗体陽性率が高い傾向がみられた。イヌでは、検体が得られた地域(19自治体)のうち、九州(熊本、宮崎、鹿児島県)、四国(徳島、香川、愛媛、高知県)以外に、患者が報告されていない自治体(三重、富山、岐阜県)でも抗体保有動物が存在した。一方、9自治体(沖縄、長崎、広島、滋賀、愛知、静岡、長野、新潟県、北海道)では陽性のイヌはみつからなかった。

本病の発生が先に報告された中国では、SFTSVの主な媒介マダニはフタトゲチマダニとされ、また、ヤギ、ヒツジ、ウシ、イヌ等の動物がSFTSVの抗体を高率に保有していることから、フタトゲチマダニとこれらの動物との間でSFTSVの生活環ができていると考えられている。一方、日本では、少なくともフタトゲチマダニとタカサゴキララマダニがSFTSVを媒介すると考えられている。今回の調査結果から、これら2種のマダニ以外にもSFTSVを保有するマダニ(特にチマダニ属)が複数種存在することが分かった。今回の調査は、前回の調査[SFTSウイルスの国内分布調査結果(第一報)http://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/sfts-iasrs/3864-pr4043.html]をさらに拡大して実施されたものであり、より多くの地域を対象とした。未だ、マダニ、動物とも全国を網羅的に調査されてはいないが、SFTSV保有マダニは調査していない自治体を含めて国内に広く分布していると考えられる。

今後、研究班としては、各自治体や関係者の協力を得ながら、対象地域や検体採取地点、動物の種類・頭数を広げて調査を実施することにより、マダニと動物におけるSFTSVの生活環をより詳細に解明したい。

なお、今回の調査にあたって御協力をいただいた、大日本猟友会ならびに徳島県他多くの自治体関係者の皆様に深謝申し上げます。

 

国立感染症研究所 獣医科学部  
  森川 茂 宇田晶彦 木村昌伸 藤田 修 加来義浩 今岡浩一
同 昆虫医科学部 澤辺京子
同 細菌第一部 川端寛樹
同 ウイルス第一部 安藤秀二 西條政幸
山口大学共同獣医学部 前田 健 高野 愛
岐阜大学応用生物科学部 柳井徳磨
馬原アカリ医学研究所 藤田博己
福井大学医学部 高田伸弘
厚生労働省結核感染症課 中嶋建介 福島和子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan