国立感染症研究所

ジカウイルス感染症のリスクアセスメント 第4版

2016年2月16日更新
国立感染症研究所albopictus06

背景

ジカウイルス感染症は、フラビウイルス科フラビウイルス属のジカウイルスによる蚊媒介感染症である。ジカウイルスは、1947年にウガンダのZika forest(ジカ森林)のアカゲザルから初めて分離された。ジカウイルス感染症は、2月5日に感染症法上の4類感染症に指定され、ジカウイルス病と先天性ジカウイルス感染症に病型分類されている(本更新より疾患名を感染症法上の届出疾患名に統一した)

ジカウイルス病は、2007年にはミクロネシア連邦のヤップ島での流行、2013年には領ポリネシアで約1万人の感染が報告され、2014年にはチリのイースター島、2015年にはブラジルおよびコロンビアを含む南アメリカ大陸での流行が発生し、地理的な拡大を見せている。一方、本邦においては、現在までのところ、2013年12月に領ポリネシア、ボラボラ島の滞在歴のある男性(27歳)、女性(33歳)の2症例[1]、および2014年7月に、タイのサムイ島に滞在歴のある男性(41歳)の1症例[2]の、計3例が確認されている。

2016年8、9月にはブラジルのリオデジャネイロでオリンピックとパラリンピックが開催され、多くの邦人が渡航することが予測される。また、妊娠中のジカウイルス感染と胎児の小頭症の関連が考えられていることもあり、流行地への渡航等に関するリスクを評価した。

 

疫学的所見

 米国CDC、ECDCによると、2015年以降2016年第5週までに、中央および南アメリカ大陸、カリブ海地域では26の国や地域(バルバドス、ボリビア、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、キュラソー島、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、領ギアナ、グアドループ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジュラス、ジャマイカ、マルティニーク、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、プエルトリコ、セント・マーティン島、スリナム、領バージョン諸島、ベネズエラ)、アジア・西太平洋地域ではか国(領サモア、フィジー、ニューカレドニア、サモア、ソロモン諸島、タイ、トンガ、バヌアツ)、インド洋地域ではモルジブ、アフリカではカーボベルデから症例が報告されている。

領ポリネシアでのジカウイルス病の流行時、ギラン・バレー症候群の症例数の増加が報告された[3]。2015年7月にはブラジル、12月にはエルサルバドル、2016年以降にはコロンビア、スリナム、ベネズエラからも同様の報告を認め[4,5,26]、ジカウイルス感染とギラン・バレー症候群との関連が疑われている。マルティニーク、グアドループからはギラン・バレー症候群を含む神経症状を合併したジカウイルス病の症例が報告され[18]、フランスとニュージーランドは同様に神経症状を合併した輸入症例を報告している。[19, 20]

また、ブラジルでは、今回の流行において、妊娠中のジカウイルス感染による胎児の小頭症との関連が疑われている。2015年11月17日、胎児が小頭症と確認された妊婦の羊水からジカウイルス遺伝子が検出され、11月28日には出産後まもなく死亡した小頭症の新生児の血液および組織からジカウイルス遺伝子が検出された[4]。ブラジル保健省(Ministério da Saúde)はジカウイルス感染と小頭症の流行に関連があると発表し、また同時にジカウイルス病に関連した死亡例が報告されたことを発表した[6,7]。2015年10月から2016年1月30日までの間に4,783人の小頭症が疑われる胎児または新生児が報告されている[8]ブラジルでは、ジカウイルスとの関連が疑われる小頭症児において眼所見の異常が報告されている[24]

領ポリネシアにおいてもジカウイルス病流行時、胎児・乳児の大脳奇形や脳幹機能障害の増加がみられていたことをECDCが報告し[9]、これらのジカウイルス感染とギラン・バレー症候群および小頭症との関連について調査が行われている。

 

臨床所見

 ジカウイルス病の潜伏期は2〜12日(多くは2-7日)とされている[10,11]。発症者は主として軽度の発熱(<38.5℃)、頭痛、関節痛、筋肉痛、斑丘疹、結膜炎、疲労感、倦怠感などを呈し、血小板減少などが認められることもあるが、一般的に他の蚊媒介感染症であるデング熱、チクングニア熱より軽症といわれている。また、不顕性感染が感染者の約8割を占めるとされている[10,12,13]
また、上述のようにジカウイルス病流行時と同時期にギラン・バレー症候群の症例数の増加が報告されている。情報が得られた症例の半数以上が発症前にジカウイルス病と考えられる症状を呈していた。それらの関連性については現在調査中である。

 

感染経路

主たる感染経路は蚊によるジカウイルスの媒介であり、ヤブカ(Aedes)属のAe. aegypti(ネッタイシマカ)、 Ae. hensilliAe. polynesiensisAe. albopictus(ヒトスジシマカ)が媒介蚊として確認されているが、特に、ネッタイシマカはしばしば流行を引き起こしている。ヤップ島での流行ではAe. hensilliが、仏領ポリネシアでの流行では Ae. polynesiensisとネッタイシマカがそれぞれ媒介蚊と考えられている[14]。またシンガポールおよびガボンの研究報告から、ヒトスジシマがジカウイルスの媒介蚊としてその役割を果たすことができると推定されている[15,16]。日本国内に広く分布するヒトスジシマカがデングウイルスと同様にジカウイルスにも感受性があることは、研究班で確認されている。

その他の感染経路として、胎内感染の発生が複数認められており、また輸血、性行為による感染が疑われる事例が報告されている。性行為による感染が疑われる事例においては、発症前の性行為により流行地から帰国した男性から流行地への渡航歴のない女性のパートナーへ感染したとされている[17]。また、ベネズエラから帰国した男性から性行為により感染した事例が報告されている[21]。精液中のジカウイルスに関しては、発症62日後にPCR法によりウイルス遺伝子が検出されたとの報告がみられるが[22]、この結果は感染性を直接的に示すものではない。性行為による感染がどの程度の頻度で発生し、精液中にどの程度の期間残存するかについては、明らかな知見は得られていない。

 

診断方法

特異的な臨床症状・検査所見に乏しいことから、実験室内診断が重要となる。主要な検査方法は遺伝子検査法によるウイルスRNAの検出(血液、尿)である。ジカウイルス特異的IgM/IgGのELISAによる検出法も報告されているが、デングウイルスIgMとの交差反応が認められる症例もあるため、結果の解釈には注意が必要である。また、中和抗体価を測定すればデングウイルス感染とジカウイルス感染は血清学的に鑑別できる。また、急性期と回復期のペア血清での測定が重要である。

 

WHOおよび諸外国の対応

2016年2月12日現在、米国CDCは、より詳細な調査結果が得られるまでは現在流行している30の国や地域(バルバドス、ボリビア、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、キュラソー島、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、仏領ギアナ、グアドループ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジュラス、ジャマイカ、マルティニーク、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、プエルトリコ、セント・マーティン島、スリナム、領バージン諸島、ベネズエラ、米領サモア、サモア、トンガ、カーボベルデ)への妊婦の渡航を控えるように警告している。妊娠予定の女性に対しても主治医と相談の上で、厳密な防蚊対策が推奨された。また、ECDCは妊婦および妊娠予定の女性に対してジカウイルス病の流行地(バルバドス、ブラジル、カーボベルデ、コロンビア、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、仏領ギニア、グアドループ、グアテマラ、ハイチ、ホンジュラス、マルティニーク、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、プエルトリコ、スリナム、ベネズエラ、トンガ、米領サモア、ボリビア、コスタリカ、キュラソー島、ガイアナ、ジャマイカ、セント・マーティン島、サモア、タイ、米領バージン諸島)への渡航を控えることを推奨している[18]また、免疫不全や重度の慢性疾患を有する渡航者は、渡航前に主治医に相談し、防蚊対策のアドバイスを受けるべきであるとしている[18]

WHOは、ジカウイルス感染症を理由とする流行地への渡航や貿易を制限することは推奨していないが、妊婦は主治医と相談し、渡航を延期すべきであると発表した(2016年2月12日)[23]。同時に流行地への全ての渡航者に防蚊対策を遵守すべきであるとしている。性行為感染については、エビデンスが充分でないながら、現時点では、ジカウイルス病が流行している地域に居住しているもしくは滞在歴のあるすべての男女(特に妊娠中の女性とそのパートナー)はより安全な性行動(正しいコンドーム使用を含む)をとることを推奨している[25]

また、WHOはギラン・バレー症候群を含む神経症状に対して注意喚起を行い、ジカウイルス感染症患者に対する神経症状のモニタリング推奨し、ギラン・バレー症候群を合併した場合の臨床的な対応方法も発出している。このような事態を鑑み、WHOは、2016年2月1日に緊急委員会を開催し、小頭症及びその他の神経障害の集団発生に関して「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」を宣言している。

 

リスクアセスメント

中央および南アメリカ大陸、カリブ海地域では今後もしばらくはジカウイルス病の発生が続くことが予想され、またさらなる地理的な拡大も懸念されるところから、今後、流行地からの帰国者が国内でジカウイルス感染症と診断される症例が発生すると考えられる。流行国とされている国々のうち特にアジアや南太平洋の国々については、現在得られている情報から発生状況を評価することは困難であり、輸入例から得られる知見等から総合的に判断することが重要である。

ジカウイルス病は大半が軽症例であることから輸入孤発例の公衆衛生上のインパクトは概して低いが、母子感染による胎児の小頭症との関連性について、詳細な調査結果が得られるまで、可能な限り妊婦及び妊娠の可能性がある人の流行地への渡航は控えた方が良いと考える。また、ギラン・バレー症候群との関連性は現在調査中ではあるが、国内での症例の発生に備え、神経症状の合併の可能性について臨床医が認識していることが望ましい。

国内のヒトスジシマカがジカウイルスの媒介蚊となり、2014年のデング熱の国内流行と同様に輸入例を発端としたジカウイルス病の国内流行が発生する可能性は否定できない。ただし、2015年4月に告示された「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針」に則り、平常時から媒介蚊の対策が進められておりジカウイルスの伝播防止にも効果が期待される。加えて、国内の蚊の活動期においては、ジカウイルス病流行地からの帰国者は症状の有無に関わらず帰国日から10日間程度、忌避剤の使用など蚊に刺されないための対策を行うことが必要である。なお、不顕性感染の患者が感染源となりうるかどうかや、不顕性感染者の血中ウイルス量およびウイルス血症期間等について、今後の知見が待たれる。

今後、諸外国と連携し、ジカウイルス感染症の臨床症状・検査所見の知見を収集していく必要がある。また、妊婦がジカウイルス病を疑われた場合の対応について国内の体制を整備しておくこと、わが国における小頭症の発生状況のモニタリングとその病因検索支援が必要である。なお、輸血による感染伝播を予防するため、海外からの帰国日から4週間以内の献血自粛を遵守することが重要である。

性行為感染の予防については、特に、流行地から帰国した男性で妊娠中のパートナーがいる場合は、パートナーの妊娠期間中は、症状の有無に関わらず、性行為を行う場合はコンドームを使用することが推奨される。

以上のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいている。事態の展開と得られる新たな知見に基づき、リスクアセスメントを更新していく予定である。

 

参考

性交渉による感染リスクについては、イギリス公衆衛生庁は、極めて低いとしながらも、妊娠中、あるいは妊娠の可能性のある女性のパートナーがいる男性は、ジカウイルス病の症状がない場合でも流行地から帰国後28日間のコンドームの使用を勧めている。また、ジカウイルス病に合致する臨床症状を認めたか、ジカウイルス病と確定診断した場合は、6か月間のコンドームの使用を推奨している。米国CDCは、流行地の滞在中、もしくは滞在歴のある男性について、パートナーが妊娠している場合は、性交渉を控えるかコンドームを使用することを勧めている。

 

参考文献

1. IASR (2014年2月号). フランス領ポリネシア・ボラボラ島帰国後にZika feverと診断された日本人旅行者の2例.

2. IASR (2014年10月号). タイ・サムイ島から帰国後にジカ熱と診断された日本人旅行者の1例.

3. Oehler E, Watrin L, Larre P et al; Zika virus infection complicated by Guillain-Barre syndrome--case report, French Polynesia, December 2013. Euro Surveill. 2014;19(9): pii=20720.

4. PAHO/WHO. Epidemiological Alert-Neurological syndrome, congenital anomalies, and Zika virus infection. 1 December 2015.

5. PAHO/WHO. Epidemiological Update-Neurological syndrome, congenital anomalies, and Zika virus infection. 17 January 2016.

6. ブラジル保健省(Ministério da Saúde)2015年11月19日.

7. ブラジル保健省(Ministério da Saúde)2015年12月1日.

8.  ブラジル保健省(Ministério da Saúde)2016年2月2日.

9. ECDC. Rapid Risk Assessment-Microcephaly in Brazil potentially linked to the Zika virus epidemic. 24 November 2015.

10. 米国CDC. Zika virus Disease Q & A.

11. Ioos S, Mallet HP, Leparc Goffart I et all; Current Zika virus epidemiology and recent epidemics. Med Mal Infect. 2014;44(7):302-7.

12. Musso D, Nhan T, Robin E et al; Potential for Zika virus transmission through blood transfusion demonstrated during an outbreak in French Polynesia, November 2013 to February 2014. Euro Surveill. 2014;19(14): pii=20761.

13. Duffy MR, Chen TH, Hancock WT et al; Zika virus outbreak on Yap Island, Federated States of Micronesia. N Engl J Med. 2009;360(24):2536-43.

14. ECDC. Rapid Risk Assessment-Zika virus infection outbreak, Brazil and the Pacific region. 25 May 2015.

15. Wong PS, Li MZ, Chong CS et al; Aedes (Stegomyia) albopictus (Skuse): a potential vector of Zika virus in Singapore. PLoS Negl Trop Dis. 2013;7(8):e2348.

16. Grard G, Caron M, Mombo I et all; Zika virus in Gabon (central Africa) – 2007: a new threat from Aedes albopictus? PLoS Negl Trop Dis. 2014;8(2):e2681.

17. Foy BD, Kobylinski KC, Chilson Foy JL et al; Probable non-vector-borne transmission of Zika virus, Colorado, USA. Emerg Infect Dis. 2011;17(5):880-2.

18. ECDC. Rapid Risk Assessment-Zika virus epidemic in the Americas: potential association with microcephaly and Guillain-Barré syndrome (second update). 21 January 2016.

19. Ministry of Health (New Zealand). Media release: Zika virus update. 29 January 2016 [Internet].

20. Cire Antilles Guyane. Emergence du virus Zika aux Antilles Guyane. Point épidémiologique du 4 février 2016. Le point épidémio [Internet]

21. WHO. Information for travelers visiting Zika affected countries. 12 February 2016.

22. Atkinson B, Hearn P, Afrough B, Lumley S, Carter D, Aarons EJ, et al. Detection of Zika virus in semen [letter]. Emerg Infect Dis. 2016; 22(5) [ahead of print]. DOI: 0.3201/eid2205.160107.

23. WHO. Information for travelers visiting Zika affected countries. 12 February 2016.

24. de Paula Freitas B, de Oliveira Dias JR, Prazeres J et al; Ocular Findings in Infants With Microcephaly Associated With Presumed Zika Virus Congenital Infection in Salvador, Brazil. JAMA Ophthalmol. 2016 Feb 9. doi: 10.1001/jamaophthalmol.2016.0267.25.

25. WHO. Women in the context of microcephaly and Zika virus disease. 10 February 2016.

26. WHO. Zika Situation Report – Zika and Potential Complications. 12 February 2016.

更新履歴

  • 2016年1月20日 初版
  • 2016年1月26日 第二版 
  • 2016年2月5日 第三版
  • 2016年2月16日 第四版(第三版からの更新点を下線で示した)

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