国立感染症研究所

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日本国民のジカウイルス感染症の知識に関する調査

(IASR Vol. 38 p.65-66: 2017年3月号)

中南米や南太平洋などでジカウイルス感染症(ジカ熱)の流行が発生しており, 日本から流行地域への渡航者にとっても十分な予防対策の実施が求められている。また, 今後, 国内流行が発生する事態に備えた国民への情報提供も必要である。そこで, 日本国民にジカ熱予防のための適切な情報提供を行うことを目的に, ジカ熱の知識状況に関するアンケート調査を行ったので報告する。

方 法

インターネット調査会社(楽天リサーチ社)の成人調査モニター (20代~60代) のうち, 「ジカ熱という病気を聞いたことがある」と回答した者を対象に, 無記名のアンケート調査への回答を依頼した。本調査では「各年代同数」, 「男女比率同数」を条件に, 調査対象者の総数を1,000人とした。調査期間は2016年7月29日~31日である。なお, 本調査は東京医科大学・倫理委員会の承認を得ている(No2016-020)。

結 果

調査対象者のうち, 「ジカ熱を詳しく知っている者」は9%, 「ある程度知っている者」は44.9%, 「名前を聞いたことがある者」は46.1%だった。居住する都道府県は, 東京都(22.7%), 神奈川県(15.7%), 埼玉県(10.4%)など首都圏が多かった。

「ジカ熱の流行を心配しているか?」の質問では, 「心配している」が18.9%, 「やや心配している」が45.3%で, 半数以上が心配していると回答した(表1)。「蚊が媒介することを知っているか?」の質問では, 「知っている」と回答した者が83.6%で, 年代別では20代~30代でその割合が低かった(表1)。「性行為感染することを知っているか?」では, 「知っている」が34.0%と全体的に低かったが, とくに20代で28.0%と低い結果だった。「感染が胎児に影響を及ぼすことを知っているか?」では, 「知っている」が69.6%で, 20代~30代でその割合が低かった。

「日頃から蚊に刺されない対策をとっているか?」を質問したところ, 「対策をとっていない」との回答は21.5%で, この割合は20代でとくに高かった(表2)。対策をとっている者に具体的な対策を聴取すると, 「窓に網戸を張る」, 「蚊取り線香や殺虫剤を使用する」, 「昆虫忌避剤を使用する」の実施率が高く, 「蚊を増やさない」は14.6%と低かった。男女別では女性で各対策の実施率が高く, 年代別では年齢が高くなるほど各対策の実施率が高い傾向だった。

考 察

ジカウイルス感染症は2007年から南太平洋で流行が拡大し, 2015年以降は中南米や東南アジアで流行がみられている1)。日本でも現在までに海外の流行地域で感染した輸入症例が15例報告されており, 流行地域に滞在する際には十分な予防対策が求められる。また, 国内に生息するヒトスジシマカにも媒介能力があるため, 国内流行が発生する可能性も懸念されている。さらにジカウイルスは性行為による感染が明らかになっており, これを予防するため, 世界保健機関の勧告に従って国立感染症研究所は, 流行地域から帰国した男女は感染の有無にかかわらず, 最低6カ月間は安全な性行為に努めるようにとの勧告を出した1,2)

今回の調査は「ジカ熱という病気を聞いたことがある」と回答した一般国民を対象に行ったものであるが, 「ジカ熱の流行を心配している」と回答した者は6割以上にのぼり, 関心の高さがうかがわれた。ジカ熱に関する知識としては, 「蚊が媒介すること」を知っている者は8割以上いたが, 「性行為感染すること」を知っている者は3割と低かった。とくに性的活動性の高い20代でこの割合が低かったことは憂慮すべき点である。また, 「感染が胎児に影響を及ぼすこと」を知っている者は7割近くいたが, その割合は20代, 30代で低かった。以上の結果から, 日本国民の中でも特に若い世代で, ジカ熱が性行為感染することや, 妊娠中の感染が胎児に影響を及ぼすなどの情報が知られておらず, 若い世代にも受け入れやすい動画やアニメなどの手法を用いた情報提供方法を検討する必要がある。

今回の調査では 「日頃から行っている蚊の対策」も聴取したが, 性別では男性, 年代では20代で対策を実施している者が少なかった。なお, 2016年9月に内閣府も「ジカウイルス感染症に関する世論調査」を行っているが, ジカ熱の予防対策としては「皮膚を露出しない」(72.9%), 「昆虫忌避剤を使用」(54.1%) が多く, 「蚊を増やさない対策」も51.7%で我々の調査よりいずれも高い実施率だった3)

今後, 日本国民を対象に, ジカ熱流行地域に滞在する際の予防対策や, 国内流行の拡大を未然に防ぐための啓発を行うためには, 若い世代を中心に情報提供を強化する必要があるものと考える。

謝辞:本研究は平成28年度の日本医療研究開発機構新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 「国内侵入・流行が危惧される昆虫媒介性ウイルス感染症に対する総合的対策の確立に関する研究」の助成を受けたものである。

  

参考文献
  1. 国立感染症研究所, ジカウイルス感染症のリスクアセスメント第10版 2016年12月14日
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/id/2358-disease-based/sa/zika-fever/6936-zikara-10-161214.html
  2. WHO, Information for travellers visiting Zika affected countries, 2016 October 3
    http://www.who.int/csr/disease/zika/information-for-travelers/en/
  3. 内閣府大臣官房政府広報室, ジカウイルス感染症に関する世論調査
    http://survey.gov-online.go.jp/tokubetu/h28/h28-zika.html

東京医科大学病院渡航者医療センター
 濱田篤郎 多田有希 栗田 直 福島慎二
京都大学学際融合教育研究推進センター
 吉川みな子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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