国立感染症研究所

(2019年03月27日改訂)

エボラ出血熱はエボラウイルスによる感染症であり、ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱等とともに、ウイルス性出血熱(viral hemorrhagic fever:VHF)に分類される一疾患である。エボラ出血熱患者が必ずしも出血症状を呈するわけではないことから、国際的にエボラ出血熱に代わってエボラウイルス病(Ebola virus disease: EVD)と呼称されている。以後、EVDと略する。

EVDの公衆衛生学上の重要な特徴は、致命率が高いこと、血液や体液との接触によりヒトからヒトへ感染すること、条件が整うと比較的大きな流行に発展することがあることである。そのため、EVDの流行は、しばしば注目を浴びてきた。2018年5月にコンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo:DRC)北西部の赤道州において同国9回目の集団発生があり、54例(死亡33例)が報告され7月に終息した。しかし、同年8月に北東部の北キブ州において同国10回目の新たな流行が発生し、2019年3月現在も続いており長期化している。なお、WHOは本流行の発生を受けて、2018年10月17日に国際保健規則(IHR)緊急委員会を開催したが、現時点では本流行は国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern:PHEIC)には該当しないと結論づけられた。一方で、WHOは引き続きEVD患者発生状況に対して懸念を示し、対応の強化や継続的な警戒が必要であることを指摘している。

 *旧版の「エボラ出血熱とは」(2002年現在までの情報や図表を中心に解説)はこちら

疫学

1976年から2019年3月時点に至るまで、30回を超えるEVDのアウトブレイクが報告されてきた( https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/ebola-virus-disease)。エボラウイルスの自然宿主は、複数種のオオコウモリと考えられている。

<主なアウトブレイク>

2018年~2019年コンゴ民主共和国(2019年3月12日現在):2018年7月31日、北キブ州において4人のEVD患者が確認された。8月1日にDRC保健省は第10回目のEVDアウトブレイクを宣言した。なお、次項に示す赤道州のアウトブレイクとは、流行の原因となるエボラウイルスの遺伝子塩基配列の違いから関連はないとされている。発生地域は、国連の平和維持活動(PKO)が以前から介入している紛争地帯でもある。本流行でも度々武装集団が治療センターや公衆衛生担当者を襲撃するなど、治療や感染拡大予防の対策に大きな影響を与えている。2019年3月12日現在、北キブ州およびイトゥリ州における20のヘルスゾーンから、疑い例を含め927例(死亡584例、致命率63%)EVD患者が報告されている。そのうち女性は525例(57%)、18歳未満子どもは280例(30%)に及ぶ。過去のアウトブレイクに比較して、女性や小児の割合が高い。流行地域はウガンダと南スーダンと国境を接しており、これらの国では、Port of Entry(PoE)でのスクリーニングを強化している。さらにウガンダでは、特に流行地域との往来が多い地域の医療従事者や公衆衛生担当者(front-line workers)が、2019年3月1日現在で計4,400人以上を対象に、Ebola-rV5V ワクチンを接種している。本事例に関連した、他国への輸出例は確認されていない。

2018年コンゴ民主共和国:2018年5月3日、首都キンシャサから約700kmに位置する赤道州において出血熱症状の患者21例のうち17例の死亡が確認され、5例の検体を検査したところ2例の検体からエボラウイルスが検出された。これらの探知により、5月8日DRC保健省は第9回目のEVDアウトブレイクを宣言した。DRC政府は国連機関等と協同し、遺伝子検査による迅速な確定診断によるEVD患者の早期発見、サーベイランス(接触者調査を含む)強化、流行地でのエボラ治療センター(Ebola Treatment Center:ETC)の設立、抗エボラウイルス薬、ワクチンの使用などで対応した。さらに、コンゴ川を経由しての赤道州から近隣地域への往来に対して検疫を強化した。5月28日、WHOはIHR緊急委員会を開催したが、これらのDRC政府や国連機関等の対応が効果的に機能していると判断し、PHEICに該当しないと判断した。なお、日本はDRC保健省からの要請を受け、国際緊急援助隊を派遣し、検査診断や検疫強化を支援した。7月24日の終息までに計54例(死亡33例、致命率61%)が報告された。

2014~2016年西アフリカ:2014年3月にギニアでEVD流行が確認され、患者・感染者が国境を越えて移動することにより隣国のリベリア、シエラレオネへと流行地が拡大した。WHOは2014年8月8日に本流行をPHEICと宣言し、国際社会に対して更なる対応の強化を求めた。EVD患者の発生は約2年間が続いた。2016年3月29日にPHEICが解除された。EVD患者は、疑い例を含み合計28,616例・致命率40%(ギニア3,814例・致命率67%、リベリア10,666例・致命率45%、シエラレオネ14,122例・致命率28%)(http://apps.who.int/gho/data/view.ebola-sitrep.ebola-summary-20160511?lang=en)が報告された。これまで知られているEVDの流行のうち最も大きな流行となった。

2003~2007年:コンゴ共和国(2回)及びウガンダで、100名を超える患者発生の報告があった。詳細についてはWHOの情報などを参照されたい。(http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs103/en/)

(以下の1976年までのアウトブレイクの情報は旧版の「エボラ出血熱とは」より抜粋)

2001〜2002 年ガボンとコンゴ共和国:2001 年12 月にガボンとコンゴ共和国の国境地帯で発生し、2002 年4 月までにガボンで65 例(死亡者数53 名)、コンゴで32 名(死亡者数20 名)の流行があった(致命率は両方で75%)。

2000〜2001年ウガンダ:スーダンとの国境に接する北方地域のグルで10月に始まり、南のマシンデイ(27例)や遠く離れたムバララ(5名)でも発生し、計425名の患者と225名の死亡者(53%)を出して過去最大の流行となった。他地域への感染の拡大は、グル地区 で行われた葬式に参加して感染した者や家族間で感染した者が国内移動したことによる。死者の清拭や、葬儀の際の死者とのお別れの儀式による血液や体液との接触が感染拡大の原因である。そのため女性感染者が269名(63.3%)を占めたが、患者の平均年齢は27歳で、最低年齢は3日齢、最高齢は72歳であった。ま た、しばしば問題となる医療従事者の感染は29 例であった。この時の アウトブレイク時では、WHO を主体に全世界から23のチーム、104名の人材が派遣され、国際的な対策チームが組織され対応した。日本人専門家は計5名が参加し、臨床例の対応にあたった(IASR 2001,vol 22,57-59 ;https://idsc.niid.go.jp/iasr/22/253/fr2531.html )。

1994年コートジボアール、1996 年ガボン:この2カ所での発生にはいずれもチンパンジーが関与しているが、チンパンジーはヒトと同様終末宿主であり、自然界の宿主ではないとされている。前者は、死亡したチンパンジーの解剖に携わっていたスイス人女性が感染したもので、後者では、森で死亡していたチンパンジーに子供たちが接触し、感染発症したことが発端である。1996年10月のガボンでの発生では、原因・経路は不明である。ヒトの抗体保有調査は発生があったときその周辺でなされてきたが、不顕性感染者が数%(男女とも)いることもわかっている。

コンゴ民主共和国(旧ザイール)(1976、1977、1995):1976年のスーダンでの発生から2カ月後、北部のヤンブク教会病院を舞台として大発生が起こった。病院とそこに出入りしていた患者と家族、医療関係者の間で感染拡大が生じたものである。初めは、ヤンブク教会学校の教師(44歳男性)がマラリアの疑いで注射を受け、その同じ注射器で他の注射を受けた9人全員が感染し、全員死亡した。それらの患者との接触、医療を通じ伝播が起こった。マスク、手袋、ガウン、注射器等の基本的不足による。約2カ月の間に318名の患者 中280名(88%)が死亡した。結局、米国CDC、WHO、ベルギーのチームが入り、終焉した。ヒトからヒトへの伝播は急性期の患者との直接接触によるものである。ヤンブクでは病院のスタッフ17名中13名が発症し、11 名が死亡し、病院は閉鎖された。それから 18年後の1995年、遠く離れたザイール中央部のキクウイットで、町の総合病院を中心に4月初め患者が発生した。244名の死亡者中100名以上は医療関係者であった。この際もガウン、手袋、長靴、注射器等の不足が感染拡大の最大の理由であった。発生の1カ月後に情報が米国に入り、その10日後エボラウイルスによることが判明し、直ちに米国、WHO、ベルギー等のチームが入り、6月20日に終焉した。なお、このときに分離されたウイルスの遺伝子配列は、19年前のヤンブクでの流行時に分離されたウイルスのそれとほとんど同じであった。

スーダン(1976、1979):1976年6月末、ス―ダン南部のヌザラ、マリディを中心に284名が感染し、151名(53%)が死亡した。ヌザラの町の綿工場で倉庫番の男性が発症し、次々と家族、医療関係 者等に伝播したもので、さらに独立した2例から家族内、院内感染として感染拡大が生じた。1979年にはヤンピオで5家族34名が発症し、22名が死亡した。

病原体

エボラウイルスはマールブルグウイルスと共にフィロウイルス科(Filoviridae)に分類される。短径が80〜100nm 、長径が700〜1,500nm で、U 字状、ひも状、ぜんまい状等多形性を示す(旧版「エボラ出血熱とは」図2を参照)。組織内では棒状を示し、長径が700nm 前後のサイズが最も感染性が高い。スーダン株とザイール株との間には、抗原性等において生物学的特徴違いがある。

たとえば、ザイール株細胞培養(Vero 細胞)で増殖すると細胞が変性・壊死するのに対して,スーダン株感染細胞はあまり強い変性を示さない。また、in vivo でもマウス、サル類での病原性は異なる。ザイール株はスーダン株よりも強い病原性を示し、速やかに死に至らしめる。病原体は他のVHF ウイルスと同様にBSL-4病原体に分類されており、ウイルス増殖を伴う作業は最高度安全実験施設(BSL-4施設)でなされる必要がある。フィリピンでカニクイサルが発症したときの原因であるレストン株は、ヒトへの病原性はないとされるが、その結論を得るにはさらなる研究が必要である。

日本では国立感染症研究所村山庁舎にグローブボックス式BSL-4施設が1981年に設置され、BSL-3施設として使用されてきたが、平成27年8月からBSL-4施設として使用されている。世界的にはBSL-4施設は30カ所以上で設置されている。アフリカではガボン及び南アフリカ共和国にBSL-4施設がある。

他のウイルス学的所見

EVDを引き起こすエボラウイルスには5つの亜属(ザイール、スーダン,ブンディブギョ、タイフォレスト、レストン)が存在し,レストンエボラウイルス以外はサハラ砂漠以南の熱帯雨林地域で発生したEVD流行の原因となっている。5つの種の中でザイールエボラウイルスは最も強い病原性を示す。2014年に西アフリカで発生しているエボラウイルスについては、ギニアで発生した流行時のエボラウイルスの遺伝子情報から系統樹解析が行われている(Dudas and Rambaut, PLoS CURRENTS OUTBREAKS, May 2, 2014. Phylogenetic analysis of Guinea 2014 EBOV ebolavirus outbreak)。それによると、このウイルスはアフリカ中央部のコンゴ民主共和国・コンゴ共和国・ガボンで発生した流行時に原因となったザイールエボラウイルスに分類されたが、異なるアフリカ中央部で発生したザイールエボラウイルスとは異なるグループ(クラスター)を形成することが明らかにされた。この結果は西アフリカで発生したEVD流行は、アフリカ中央部に由来するウイルスによる可能性、または、そもそも西アフリカに存在していたザイールエボラウイルスに分類されるウイルスによる可能性を示唆する。

臨床症状

EVDの一般的な症状は、突然の発熱、強い脱力感、筋肉痛、頭痛、喉の痛みなどに始まり、その後、嘔吐、下痢、発疹が出現する。肝機能および腎機能の異常も伴う。さらに症状が増悪すると出血傾向や意識障害が出現する。結膜充血などの急性眼症状は発熱などの他の徴候と併せて特定された場合、EVDの早期診断に寄与する可能性がある。検査所見としては白血球数や血小板数の減少、および肝酵素値の上昇が認められる。潜伏期間は2日から最長3週間といわれており、汚染注射器を通した感染では短く、接触感染では長くなる傾向がある。致命率が90%に達することがある。2000 年のウガンダでの流行では上記症状に加えて、衰弱のほか下痢等の消化器症状が目立ち、出血症状が認められたのは約10%であった。肝臓でのウイルス増殖(旧版「エボラ出血熱とは」図3を参照)による肝腫脹により、右季肋部の圧痛や叩打痛が特徴的である。

病原診断

血液、咽頭拭い液、尿がウイルス学的検査材料である。ウイルスゲノムのRT-PCRもしくはリアルタイムRT-PCRによる検出法、ウイルス抗原検出ELISAによる検出法がある。抗体検出法としてIgG-ELISA、IgM-捕捉ELISA、間接蛍光抗体法がある。血液、体液等からウイルスを分離する検査法も重要な検査法であるが、通常1週間以上を要する。国立感染症研究所ウイルス第一部第一室(村山庁舎)がEVDを含むウイルス性出血熱の検査を担当している。次のいずれかが満たされた場合、「エボラウイルス病(EVD)」とする。

  • 被験検体からエボラウイルスが分離された。
  • 被験検体からRT-PCR法でエボラウイルスゲノムが検出された。
  • 被験検体から抗原検出ELISA法で,エボラウイルス抗原[核タンパク質(EBOV-NP)]が検出された。
  • 間接蛍光抗体法またはIgG ELISAで判定された急性期と回復期に採取されたペア血清のエボラウイルスの核蛋白に対する抗体価が,4倍以上の有意に上昇した。 次の場合、「エボラウイルス病(EVD)」を疑う。
  • IgM-捕捉ELISAで,EBOV-NPに対する特異的IgM抗体が検出された。

感染経路と感染予防

発症前のEVD感染者は感染源になることはほとんどない。EVD患者またはエボラウイルス感染動物の血液などの体液と直接接触した場合に感染する。ヒトへの感染の発端が、アフリカでは熱帯雨林の中で発見された、感染して発症または死亡した野生動物(チンパンジー、ゴリラ、オオコウモリ、サル、レイヨウ、ヤマアラシなど)をヒトが触れたことによると示唆される事例が報告されている。EVDを発症した患者の体液(血液、唾液、分泌物等)に、直接的接触することにより、またはそのような体液で汚染された環境への間接的接触で創傷のある皮膚や粘膜を介してヒト-ヒト感染が起こる。免疫応答や炎症反応などが起こりにくい、いわゆる免疫回避組織である、精巣、眼球内部、中枢神経系において、EVDの回復後にもウイルスが存在し続けることがある。発症3か月後の男性精液からRT-PCR法でエボラウイルスが検出された事例がある。EVD感染後の性行為は発症後12か月まで又はRT-PCR法で2回陰性の結果が得られるまで、コンドームを装着することが推奨されている。またEVD治療9か月後にエボラウイルスが原因で遅発性の急性脳髄膜炎を発症した症例も報告されている。EVD流行では地域で行われていた葬式の風習も(会葬者が遺体に直接触ること)、EVDの地域伝播に寄与する。接触感染予防対策が適切になされないこと、適切に実施できない環境にあることが、医療従事者のエボラウイルス感染リスクとなる。エボラウイルスに感染しないようにするためには、流行地域に行かない(そのための情報をあらかじめ収集する)、野生動物に直接触れない、その肉を生で食さないことが重要である。流行地では患者(感染者)の体液(排泄物を含む)や、患者が触れた可能性のある物品に触れないようにすることが重要である。

治療

現時点で承認されたワクチンや治療薬はないが、DRCにおける集団発生を受けて、研究段階にあるいくつかの薬剤がヒトへ投与されている。ワクチンはFDA未承認のrVSV-ZEBOVを感染拡大予防のために使用され、治療薬はZmapp、Remdesivir、REGN、mAb114、Favipiravirが使用されている。現時点では、科学的に治療効果が証明されている薬剤はなく対症療法が基本となり、特に輸液管理が重要である。

感染症法における取り扱い(2019年3月現在)

全数報告対象(1類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
届出基準はこちら

エボラ出血熱(エボラウイルス病)の国内初症例が発生した場合の情報の公表基準について(厚生労働省)

2019年3月6日に開催された「第5回一類感染症に関する検討会」において国内でEVD患者の初発例が発生した場合の公表基準について検討が行われた。 (https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03840.html

学校保健安全法における取り扱い(2019年3月現在)

第1種の感染症に定められており、治癒するまで出席停止とされている。
また、以下の場合も出席停止期間となる。
・患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
・発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
・流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

 

(国立感染症研究所 ウイルス第一部/感染症疫学センター)

 

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