国立感染症研究所

2023年6月30日現在
国立感染症研究所
(2023年6月30日 更新)

マールブルグ病はマールブルグウイルスを原因とするウイルス性出血熱のひとつであり、別名ミドリザル出血熱(Vervet monkey hemorrhagic fever)とも呼ばれる。1967年、西ドイツ(現ドイツ)のマールブルグとフランクフルトおよびユーゴスラビア(現セルビア)のベオグラードで、ポリオワクチン製造用および実験用としてウガンダから輸入されたアフリカミドリザルの解剖にかかわった研究職員、清掃員および患者に接触した医療従事者や家族など合わせて32名が熱性疾患を発症し、7名が死亡した。この疾患は、最初に症例が確認された地名からマールブルグ病(Marburg disease)と称されるようになった。その後、アフリカのケニア、南ローデシア(現ジンバブエ)、コンゴ民主共和国、アンゴラ、ウガンダ、ギニアなどの国で症例が確認されている。自然界での宿主はオオコウモリと考えられており、洞窟などでオオコウモリの糞などに曝露した場合に感染すると推測される。

疫 学

マールブルグ病は1967年に欧州で確認されて以降、実験室での曝露を除くとサハラ以南のアフリカでのみ発生している(図、表)。このうち、1998~2000年のコンゴ民主共和国で100例以上、2004~2005年のアンゴラでは200例以上の症例が確認され、致命率は80%以上と報告されている。2008年には米国とオランダからウガンダに渡航した各1名が別々に感染、帰国後に頭痛、倦怠感、消化器症状、発疹、発熱などの症状を発症しマールブルグ病と診断され、うち1例が死亡している。

2022年8月にガーナで発生したほか、2023年2月に赤道ギニア、3月にタンザニアで症例が探知され、それぞれの国で初の報告となった。2023年6月2日にタンザニア、6月8日に赤道ギニアで流行の終息が宣言され、タンザニアでは8例の確定例(うち5例が死亡)と1例の可能性例(死亡)が、赤道ギニアでは17例の確定例(うち12例が死亡)と23例の可能性例(全例死亡)が報告された。

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図. 2022年までに報告されたマールブルグ病の発生国とオオコウモリの分布(紫点線)(WHO, 2023)

 

表. 主要なマールブルグ病の事例とその症例数、死亡者数 (国名は当時の呼称)

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※1)実験室曝露による
※2)可能性例を含む

病原体

マールブルグウイルスはエボラウイルスと同じフィロウイルス科(Filoviridae)に分類される。上記の2種のウイルスは電子顕微鏡での観察上の形態は酷似しているが、抗原性が異なり免疫学的に交差しない。マールブルグウイルスは、エンベロープを持つ桿菌状の1本鎖マイナス鎖RNAウイルスで、平均長径が790nm 、短径は80〜90nmであるが、長径は1,500〜2,300nm にも達する事もある。粒子は非対称でひも状、ゼンマイ状等多形性を示す。ウイルスはVero 細胞などで細胞変性効果が確認される。実験的にはアカゲザル、ミドリザルなど一部の霊長類では100%感染を起こし、致命的となることが知られている。2007年12月にウガンダでオオコウモリが生息する洞窟を訪れ2008年1月に発症した旅行者の症例が報告され、オオコウモリからウイルスが検出されたことで、自然界におけるマールブルグウイルスの宿主がオオコウモリであることが示唆された。

臨床症状

感染した者のうち発症する者の割合はよく分かっていない。潜伏期間は通常3〜10日(2日~21日)で、症状はエボラウイルス病(感染症法における名称はエボラ出血熱) に似ており、発症は突発的である。発熱、頭痛、筋肉痛、背部痛、皮膚粘膜発疹、咽頭痛などが初期症状としてみられる。激しい嘔吐が繰り返され、その後1〜2日で水様性下痢がみられる。発症後5〜7日で境界明瞭な暗赤色の斑状丘疹性発疹が体幹、上肢外側などに現れることがある。重症化すると、散在性の暗赤色紅斑が顔面、躯幹、四肢にみられ、中枢神経症状、出血症状、ショックを伴うことがある。発症後8~9日程度で死亡することがあり、過去のアウトブレイク事例での発症者における致命率は24%から88%と報告されており、ウイルス株や治療状況により異なる。

病原体診断

マールブルグウイルスは、国民の生命及び健康に影響を与えるおそれがある感染症の病原体として感染症法で一種病原体に指定されており、所持や輸入の禁止、許可、届出、基準の遵守等の規制が設けられている(厚生労働省「感染症法に基づく特定病原体等の管理規制について」)。マールブルグ病の病原体診断のためには、血液等からウイルス分離を行う。迅速診断にはPCR 法等でウイルス遺伝子を検出する。ELISA法や免疫蛍光法で抗体を検出する診断法もある。検体は血液、咽頭ぬぐい液、尿である。発症後2 カ月程して症状は軽快しても、精液、前眼房水等からウイルスが分離された例がある。
 国内における検査法に関しては「マールブルグ病診断マニュアル」に従って実施される。

治療・予防

対症療法以外の承認された特異的治療法、ワクチンはなく、モノクローナル抗体製剤や抗ウイルス薬、ワクチンなどの研究・開発が行われている。
 ヒトからヒトへの感染は、患者の血液、体液、分泌物、排泄物などの汚染物との濃厚接触による。また、医療従事者が適切な個人防護具を使用せずに患者の体液や汚染された医療器具に触れたことで感染することもある。患者に接する医療従事者は個人防護具として二重手袋、ガウンまたはエプロン、サージカルマスク、目の防護具等の使用が推奨される。世界保健機関(WHO)は血液での検査陰性が確認できた場合、隔離解除が可能としているが、回復から7週間後に精液を介して感染した事例が報告されていることから、男性に対しては発症から12か月間、もしくは精液で2回の検査陰性を確認するまで、コンドームの使用を推奨している。
 患者や検体に接触した医療関係者や家族については、「エボラ出血熱の国内発生を想定した対応について」を参考に、接触状況等に応じて、入院措置、健康観察、外出自粛要請等の対応を行う。

感染症法における取り扱い

全数把握対象(1類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
届出基準はこちら

マールブルグ病にかかった動物(サル)を診断した獣医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
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また、一部地域から輸出される試験・研究・展示用以外のサルの輸入は禁止されるとともに、輸入されるサルについては、マールブルグ病等にかかっていないことを確認するため、動物検疫所における輸入検疫を受けなければならない。

学校保健安全法における取り扱い

第1種の感染症に定められており、治癒するまで出席停止とされている。
また、以下の場合も出席停止期間となる。

  • 患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで
  • 発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
  • 流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

学校保健安全法の施行規則はこちら

参考文献

更新履歴

2023/06/30 赤道ギニア、タンザニアにおける流行の終息を受け情報更新

2023/03/08   マールブルグ病とは(2023年3月8日改訂)

マールブルグ病とは IDWR 2002年第36号(2012年7月最終更新)

謝辞

本文書作成にあたり、国立国際医療研究センター国際感染症センターにご協力をいただきました。この場を借りて感謝申し上げます。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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