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インフルエンザ 2022/23シーズン

(IASR Vol. 44 p165-167: 2023年11月号)
 

2022/23シーズン(2022年第36週~2023年第35週)のインフルエンザは, 報告が非常に低調であった過去2シーズンとは異なり, 全国的な流行開始の指標である1.00を上回る定点当たり報告数を認めた。

2022/23シーズン患者発生状況(2023年9月26日現在): 感染症発生動向調査では, 全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000, 内科約2,000)から毎週, インフルエンザ患者数が報告される(届出基準はhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-28.html)。全国の定点当たり報告数は, 2022年第51週(2022年12月19~25日)に1.24(患者報告数6,103)となり, 1.00を初めて上回った。その後流行は拡大し, 第6週(2023年2月6~12日)に12.91(患者報告数63,786)となり, ピークを迎えた。以降は緩やかに減少したものの, 1.00を下回ることなく推移した(図1)。

定点報告を基にした, 全国医療機関を受診したインフルエンザ患者数の推計では, 累積推計受診者数約1,201万人(2022年第36週~2023年第17週)となった。

基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)を対象としたインフルエンザ入院サーベイランスによる入院患者総数は3,582人であった。

全数把握5類感染症である急性脳炎(脳症を含む)にインフルエンザ脳症として届け出られたのは37例であった。

これらの数値は過去2シーズンより大幅に増加しており, 2022/23シーズンは, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行以前の水準よりは低かったものの, 全国的なインフルエンザの流行があったと考えられた(本号4ページ6ページ)。その流行において, 年齢群別の患者の割合の傾向がCOVID-19流行前とは違うようであった(本号6ページ)。

2022/23シーズンウイルス分離・検出状況(2023年9月25日現在): 全国の地方衛生研究所が分離・検出し, インフルエンザ病原体サーベイランスに報告したインフルエンザウイルス数は3,650(分離2,129, 検出のみ1,521)(表1), うちインフルエンザ定点で採取された検体からの分離・検出数は3,410, 定点以外の検体からの分離・検出数は240であった(表2)。型・亜型別ではA/H1pdm09亜型が154株, A/H3亜型が3,371株(亜型不明は14株)で, B/Victoria系統が82株, B/山形系統の報告はなかった(系統不明は3株)。シーズンを通してA/H3亜型が検出された(図1)。A/H3亜型については, 2023年第1~15週までは分離報告数が11を超える都道府県が多かった(図2)。

2022/23シーズン分離ウイルスの遺伝子および抗原性解析: 国立感染症研究所で国内・アジア地域分離株の遺伝子解析, およびフェレット感染血清を用いた抗原性解析を行った(本号7ページ)。A/H1pdm09亜型ウイルスのヘマグルチニン(HA)遺伝子解析の結果, 解析した株は6B.1A.5a.2(5a.2)内の5a.2aあるいは5a.2a.1に属した。抗原性解析では, 2022/23シーズン世界保健機関(WHO)推奨ワクチン株A/Victoria/2570/2019の卵分離株に対するフェレット感染血清とよく反応した。一方, ワクチン接種後のヒト血清を用いた解析では, これらの解析株との反応性は低下しており, 特に5a.2a.1に属するウイルスとの反応性が顕著に低下した。A/H3亜型ウイルスのHA遺伝子解析の結果, 解析した株は3C.2a1b.2a.2内の多様なサブクレードのいずれかに属した。抗原性解析の結果, 解析したほとんどの株は2022/23シーズンWHO推奨ワクチン株のA/Darwin/9/2021の卵分離株に対するフェレット感染血清とよく反応した。ワクチン接種後のヒトの血清についても, 種々のサブクレードに属する流行株とおおむね反応した。B/Victoria系統ウイルスのHA遺伝子解析では, 解析したウイルスはすべて1A.3a.2に属した。抗原性解析では試験したすべての株が, 2022/23シーズンWHO推奨ワクチン株のB/Austria/1359417/2021に対するフェレット感染血清とよく反応した。ワクチン接種後のヒト血清についても, 流行株とおおむね反応した。B/山形系統は解析された株がなかった。

2022/23シーズン分離ウイルスの薬剤耐性(本号7ページ): 日本ではノイラミニダーゼ(NA)阻害剤4種(オセルタミビル, ザナミビル, ぺラミビル, ラニナミビル), およびキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤(バロキサビル)が抗インフルエンザウイルス薬として承認され, 主に使用されている。解析した2022/23シーズンのA/H1pdm09亜型およびB型ウイルスは, NA阻害剤およびバロキサビルに対する耐性株ではなかった。解析したA/H3亜型ウイルスは, NA阻害剤に対する耐性株ではなかったが, バロキサビルに対する耐性株が検出された。

2022/23シーズン前の抗体保有状況: 予防接種法に基づく感染症流行予測調査事業により, 2022年7~9月に採取された血清(3,565名)を用いて, 2022/23シーズン前の国内のインフルエンザワクチン株に対する年齢別の抗体保有割合(HI価≧1:40)を調査した(本号12ページ)。A/H1pdm09亜型ワクチン株に対する抗体保有割合は10~14歳群で38%と最も高く, それ以上の年齢群では50~54歳まで右肩下がりで減少した。A(H3N2)亜型ワクチン株については, 過去3年間の調査では10代後半~20代後半に抗体保有割合のピークがあったが, 2022年度はピークを示す年齢群がなく, 最も高い保有割合を示した40~44歳(40.8%)までほぼ横ばいであった。B/山形系統のワクチン株に対しては例年と同様に30~34歳で抗体保有割合のピークを示したが, 全体的に若干低い傾向にあった。B/Victoria系統のワクチン株に対しては, 55~59歳で最も保有割合が高く23.9%であり, 全体的に低い傾向であった。

インフルエンザワクチン: 2022/23シーズンはA型2亜型とB型2系統による4価ワクチンとして約3,649万本が製造され, 約2,567万本(推計値)が使用された(1mL/本として, 1回接種当たり0.5mL)。2023/24シーズンワクチン製造株は, A/H1pdm09亜型: A/ビクトリア/4897/2022(IVR-238), A/H3亜型: A/ダーウィン/9/2021(SAN-010), B/山形系統: B/プーケット/3073/2013, B/ビクトリア系統: B/オーストリア/1359417/2021(BVR-26)が選定された(本号15ページ)。2023/24シーズンは3,121万本のワクチン製造が見込まれている。

鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染例: 2022年9月以降のA(H5N1)ウイルスのヒト感染例は, 英国4例, カンボジア4例(死亡3例), 中国2例(死亡1例), スペイン2例, ベトナム, エクアドル, チリでそれぞれ1例確認され, スペイン, エクアドル, チリでは初のヒト感染例であった。2003年以降では通算880例(460例死亡)となった。A(H5N6)ウイルスのヒト感染例は, 2014年以降87例が主に中国で確認され, 2022年9月以降では中国で7例が報告された。A(H9N2)ウイルスのヒト感染例は, 2022年9月以降に12例が中国で確認された。また, 中国において, A(H3N8)ウイルスおよびA(H10N3)ウイルスのヒト感染例がそれぞれ1例ずつ(H3N8ウイルスによる感染は死亡)報告された。なお, これらのウイルスによるヒト-ヒト感染は確認されていない。A(H5N1)ウイルスについては, 野鳥・家禽での感染だけでなく, 近年では, 陸棲・水棲哺乳動物への感染事例が多く確認されており, 注視が必要である(本号16ページ)。国内で家禽および野鳥で検出されたA(H5N1)ウイルスについて, 疫学・遺伝子型・ニワトリに対する病原性が解析された(本号18ページ)。

2022/23シーズンにおけるブタインフルエンザウイルスは, A(H1N2)v, A(H3N2)v, A/H3v(NA亜型不明)のヒト感染例が北米, 中国, 欧州等で確認された(本号16ページ)。

おわりに: 2022/23シーズンのインフルエンザは, COVID-19流行以前の水準と比較すると低いものの, 過去2シーズンを大きく上回る報告数が継続した。今後, COVID-19との同時流行も考えられ, 医療のひっ迫も懸念される。ハイリスクグループへのワクチン接種等の公衆衛生上の対策の実施とともに, 患者サーベイランス等による流行の把握, 病原体サーベイランスに基づく流行株の遺伝子解析, 抗原性解析, 薬剤耐性調査等による流行ウイルスの監視, ならびに国民の抗体保有状況の調査等を含む, 包括的なインフルエンザの監視体制の強化と継続が求められる。

 

注)IASRのインフルエンザウイルス型, 亜型, 株名の記載方法は, 赤血球凝集素(HA)の分類を調べた情報を主とする場合と, さらにノイラミニダーゼ(NA)の型別まで実施された場合などの違いによるものである。

・N型別まで実施されている場合: A(H1N1)pdm09, A(H3N2), A(H5N1)など

・N型別未実施のものが含まれる場合: A/H1pdm09, A/H3など

・株名については, 主に国内の地名は漢字, 国外は英語表記(例: B/山形系統, B/Victoria系統など)

・ヒトに感染したブタインフルエンザウイルスはヒトの季節性インフルエンザウイルスと区別するために, variant virusesと総称し, 亜型の後に “v” を表記: A(H3N2)vなど

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