国立感染症研究所

(2023年12月21日 改訂)

ジフテリアをひきおこす細菌について

ジフテリアは、ジフテリア毒素を産生するCorynebacterium diphtheriaeによる急性感染症である。ジフテリア毒素遺伝子を含むバクテリオファージの溶原化によりCorynebacterium diphtheriae菌株はジフテリア毒素を産生する。Corynebacterium diphtheriaeが常在菌として、あるいは、他の菌とともに臨床材料から分離されることがあるが、毒素を産生しない菌であれば、ジフテリアの原因にはならない。

一方、Corynebacterium diphtheriae以外では、Corynebacterium ulceransおよびCorynebacterium pseudotuberculosisの毒素を産生する菌株が、ジフテリア様の感染症を引き起こすことが報告されているが、Corynebacterium diphtheriaeによる感染と異なり、動物由来感染症である。

【解説】

ジフテリアは、「毒素を作るジフテリア菌」により引き起こされる感染症(病気)です。「毒素を作らないジフテリア菌」は、喉(のど)などの常在菌として、あるいは、他の菌とともに感染部位から認められることがありますが、ジフテリアの原因となることはありません。

ジフテリア菌は、「コリネバクテリウム属」という菌の仲間のひとつで、コリネバクテリウムの仲間には、ジフテリア菌以外に、たくさんの種類の菌があります。このうち、コリネバクテリウム・ウルセランスや、コリネバクテリウム・シュードツベルクローシスとよばれる菌で、「毒素を産生する菌株」がジフテリアとよく似た病気の原因となることが知られています。ジフテリア菌も、コリネバクテリウム・ウルセランスも、コリネバクテリウム・シュードツベルクローシスも、毒素を作らない菌はジフテリアの原因になりません。

  diphteria 201027 fig1

Corynebacterium diphtheriae(ジフテリア菌)のグラム染色所見 
通性嫌気性(好気性)グラム陽性桿菌

ジフテリアに関する届出など

  1. ジフテリアは、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に基づき、診断後直ちに届出が義務付けられている第二類感染症である。
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-03.html
  2. ヒト-ヒト感染が問題となるCorynebacterium diphtheriae感染は届出対象であるが、毒素産生株性Corynebacterium ulceransあるいはCorynebacterium pseudotuberculosisによる感染は、第二類感染症としての届出対象ではない。
  3. ジフテリアは、学校保健安全法に基づき、学校において予防すべき感染症(第一種)である。

【解説】

ジフテリアは、感染症法によって、届出が義務付けられている感染症です。学校においても予防しなければならない感染症の一つです。

 

疫学とワクチン接種

  1. ジフテリアは、世界的に公衆衛生学的に重要な疾患である。第二次世界大戦の影響で、ヨーロッパでは約100万人が罹患し約5万人が死亡したといわれている。ワクチン接種率の高い国が増加するに伴い、世界全体でのジフテリア発生率は大幅に減少した。しかし、1990年代では、旧ソビエト連邦から新しく独立した国々において大きなアウトブレイク発生があり、さらに最近2010年以降では、ナイジェリア、インド、インドネシア、ハイチ、ベネズエラ、イエメン、バングラディッシュ(ロヒンギャ難民)などの国や地域においてアウトブレイクが認められ、政治的混乱や経済的危機などによってワクチン接種を含む医療サービスが提供されない状況がジフテリア発生に反映されていると考えられる。
  2. 日本では、1945年にはジフテリア届出数は8万人を超えていた。1948年に予防接種法が制定され、ジフテリアは対象疾病のひとつであった。1958年に百日せきジフテリア混合ワクチン(DP)、続いて1964年に全菌体型百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(DPT)接種が導入され、1968年から定期接種が始まった。DPTワクチンは、1981年に沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(沈降DTaP)に切り替わり、さらに、2012年から沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン(沈降DPT-IPV)の接種が開始された。ワクチン接種により患者数は激減し、1999年の報告以降、ジフテリアの届出はない。

【解説】

ジフテリアは、ワクチンによる予防効果が大きい感染症です。日本では、1958年から百日せきワクチンと組み合わせたワクチンの接種が導入され、1968年からジフテリアトキソイド、百日せきワクチン、破傷風トキソイドと組み合わせた三種混合ワクチンが定期接種となり、現在では、百日せきワクチン、破傷風トキソイド、不活化ポリオワクチンと組み合わせた四種混合ワクチン接種が行われています。

日本においては、1999年の報告を最後に、ジフテリアにかかった人はいません。世界でも、ワクチン接種率の高い国ではジフテリアは稀な病気になりましたが、現在も、紛争などの政治的混乱や経済的困窮などでワクチン接種率の低い地域や集団で、ジフテリアの集団発生が認められています。ジフテリアの予防には、ワクチン接種が非常に重要であるということがわかります。

 

感染経路と臨床症状

  1. 感染経路
    1. ジフテリアは、主に、気道から、飛沫感染や濃厚接触でヒト-ヒト感染(person-to person spread)する。皮膚病変や病変からの分泌物からの接触感染も起こりうる。
    2. 一方、毒素産生性Corynebacterium ulceransあるいはCorynebacterium pseudotuberculosisによる感染は、動物由来感染症である。国内では、ネコやイヌなどからの感染例が報告されている。
  2. 潜伏期間
    潜伏期間は、2-5日(1-10日)である。
  1. 臨床症状
    1. 呼吸器ジフテリア
      鼻、咽頭、扁桃、喉頭等の粘膜に病変が認められ、初発症状は、発熱、咽頭痛、嚥下困難、嗄声などである。呼吸器ジフテリアの特徴的所見として、厚い灰白色の偽膜が、発症2-3日で扁桃、咽頭、喉頭、鼻などの粘膜に形成される。喉頭や鼻腔に偽膜形成が広がると、気道の閉塞が引き起こされ、気管切開が必要になる場合が多い。重症例では、頸部リンパ節が腫脹し、周辺組織に炎症が広がる(bull-neck appearance)。呼吸器ジフテリアは、適切な治療を行っても致死率が高い(5-10%)。
    2. 皮膚ジフテリア
      鱗状の発疹や明らかな境界のある潰瘍病変が認められるが、Corynebacterium diphtheriaeが他の病原体とともに慢性皮膚病変から分離される場合もある。皮膚ジフテリアでは、呼吸器ジフテリアと比較して、合併症が少ない。
    3. 合併症
      咽頭などで増殖したCorynebacterium diphtheriaeにより産生されたジフテリア毒素が吸収され、心、腎、末梢神経などの臓器が毒素によるダメージを受ける。多い合併症は、心筋炎と神経炎である。

【解説】

ジフテリアは、主に飛沫(ひまつ)により、ヒトからヒトへ感染します。よく似た症状が認められる、毒素を作るコリネバクテリウム・ウルセランスや、コリネバクテリウム・シュードツベルクローシスによる感染は動物由来感染症で、ネコやイヌなどの動物を飼っていないかを聞き取りする必要があります。

病気が起きる場所によって、「呼吸器(こきゅうき)ジフテリア」と「皮膚(ひふ)ジフテリア」に分けられます。呼吸器ジフテリアでは、最初は、発熱、のどの痛み、物が飲み込みにくい、声がかれるなどの症状が認められます。2-3日の間に、ジフテリア毒素の働きによって破壊された喉(のど)の組織が、偽膜(ぎまく)と呼ばれる厚い灰白色の層となります。この偽膜が広がると気道がふさがれて、息ができなくなることがあります。呼吸器ジフテリアは、治療をしてもかかった人の10%くらいが死亡する病気です。また、ジフテリア毒素が血液とともに離れた臓器まで運ばれて、心臓や神経の病気(合併症)を起こすことが知られています。

 

細菌学的検査

  1. 臨床症状からジフテリアを疑った場合
    1. 偽膜形成などの臨床所見から、ジフテリアを疑う患者が認められた場合、医療機関は、保健所に連絡する。
    2. 医療機関では、患者の偽膜組織や鼻腔や咽頭からの臨床検体を採取する。
    3. ジフテリア毒素産生性Corynebacterium diphtheriae分離培養検査を行っている自治体であれば、その自治体の衛生研究所で検査を行う。ジフテリア毒素産生性C. diphtheriae培養検査を実施していない自治体であれば、国立感染症研究所へ「行政検査」を依頼する。
    4. 行政検査では、臨床検体からのCorynebacterium diphtheriaeCorynebacterium ulcerans、あるいは、Corynebacterium pseudotuberculosisの分離同定、分離菌株における毒素産生性の検討を行う。
  2. ジフテリア患者の濃厚接触者について
    1. 患者の同居家族を含む濃厚接触者、および、患者の感染部位からの分泌物に曝露の可能性があった者の鼻腔あるいは咽頭粘膜から、検体を採取する。
    2. 国立感染症研究所、あるいは、ジフテリア患者における検査を行った地方衛生研究所において1-4)の検討を行う。
  3. ジフテリア様症状はないが、臨床検体から分離された菌株が、Corynebacterium diphtheriaeCorynebacterium ulceransCorynebacterium pseudotuberculosisと質量分析などで同定された場合
    1. 細菌の同定に質量分析が広く用いられるようになり、従来は常在菌の混入あるいは他の細菌との混合感染菌として、Corynebacterium sp.と同定されていた菌が、Corynebacterium diphtheriaeCorynebacterium ulcerans、あるいは、Corynebacterium pseudotuberculosisと同定されるようになった。
    2. 海外渡航歴や動物飼育を含む臨床背景などから、陰性確認が必要と考えられた場合は、各地方衛生研究所で、分離菌株において、PCRによるジフテリア毒素遺伝子検出検査を実施する。毒素遺伝子検出検査で陽性結果が得られ、詳細な検討が難しい場合は、国立感染症研究所で、毒素産生性の検討、再同定などのさらに詳細な検討を行う。

【解説】

喉(のど)に偽膜が認められるなどの、強くジフテリアが疑われる患者では、喉や鼻から検体をとって、毒素を作るジフテリア菌がみとめられるか調べる必要があります。病院は、保健所へ連絡し、検査は都道府県や国の研究所で行われます。日本では、1999年を最後にジフテリアは報告されていませんが、もし、毒素を作るジフテリア菌が検出され、患者がジフテリアと診断された場合、その人と濃厚接触をした人において検査する必要があります。ただし、毒素を作るコリネバクテリウム・ウルセランスや、コリネバクテリウム・シュードツベルクローシスが検出された場合は、ヒトからヒトへの感染がまれなので、濃厚接触した人の調査や検査は行いません。

一方、毒素を作らないジフテリア菌、コリネバクテリウム・ウルセランスや、コリネバクテリウム・シュードツベルクローシスと同定される菌が、喉からの検体などから、検出されることがあります。もし心配であれば、都道府県の研究所などで、PCRにより分離された菌が毒素遺伝子陰性であることを確認すると安心かもしれません。

 

治療と対応

  1. ジフテリア患者
    1. 飛沫予防策、接触予防策を開始する。
    2. 抗菌薬治療開始前に、細菌学的検査のための適切な検体採取を行う。
    3. 偽膜形成が認められるなど臨床的に強く呼吸器ジフテリアを疑い、必要だと判断されれば、確定診断がなされる前に、乾燥ジフテリアウマ抗毒素による治療を行うこともある。ジフテリアウマ抗毒素は、アナフィラキシーをはじめ、重篤な副作用が認められる可能性があるため、確定診断前の使用は慎重に検討する必要がある。ジフテリアウマ抗毒素は、国が備蓄している抗毒素製剤で、医療機関から都道府県への依頼により供給される。乾燥ジフテリアウマ抗毒素に関する厚生労働省の担当課は、健康局結核感染症課である。偽膜形成がないケース、無症状のケースでは、ジフテリアウマ抗毒素の使用は必要ない。
    4. 抗菌薬は、ペニシリン、エリスロマイシン、あるいは、(ペニシリンアレルギーの患者では)アジスロマイシンなどを最低2週間使用する。ただし、これらの薬剤に対する耐性もしくは低感受性株の報告もあるため、患者の状態や感受性試験の結果に応じて使用する抗菌薬の変更を考慮する。
    5. 皮膚ジフテリアでは、抗菌薬による治療で充分であり、ジフテリアウマ抗毒素による治療は通常必要ない。
    6. 抗菌薬終了後、24時間あけて2回の鼻および咽頭のジフテリア菌培養検査により陰性確認を行い、飛沫予防策、接触予防策を標準予防策へ変更する。
    7. ジフテリア罹患によって免疫が得られるわけではないため、回復後にワクチン接種が必要である。
  2. 毒素非産生性Corynebacterium diphtheriaeCorynebacterium ulceransCorynebacterium pseudotuberculosisによる感染では、分離菌株が感染の起因菌と判断されれば、その感染症に対する抗菌薬治療を行う。ジフテリアウマ抗毒素による治療は効果がないため、使用するべきではない。また、患者の隔離などの対応は必要ない。

【解説】

喉(のど)に偽膜ができるなど、呼吸器ジフテリアが強く疑われ、必要と判断された場合は、抗菌薬治療をはじめるとともに、ジフテリア抗毒素血清による治療が行われます。ジフテリア抗毒素は、ウマを免疫して作られた抗血清で、アレルギー反応などの強い副作用が出ることがあるため慎重に使用されます。皮膚(ひふ)ジフテリアや症状のみとめられないケースでは、抗菌薬治療だけで充分で、抗毒素による治療は必要ありません。ジフテリア患者は、飛沫とともにジフテリア菌を排出するので、個室の病室で治療を受けます。抗菌薬治療が終了してから2回検査をして陰性であることが確認されたら、個室対応は解除されます。ジフテリアにかかっても、免疫がつくわけではないので、回復したら、ワクチン接種を受けることが必要です。

 

濃厚接触者への対応

  1. ジフテリア患者との濃厚接触者(close contacts)や、患者の感染部位からの分泌物に曝露の可能性があった人について調査する。
  2. 濃厚接触者において、ジフテリア患者と最後の接触から10日間、ジフテリア症状の発症がないかモニタリングを行う。
  3. 鼻腔あるいは咽頭粘膜から、検体を採取し、国立感染症研究所、あるいはジフテリア毒素産生性Corynebacterium diphtheriae分離培養検査を行っている地方衛生研究所において検査を行う。
  4. 予防的に7日間の抗菌薬使用(治療と対応4を参照)を開始する。抗菌薬内服中に検査陰性が判明すれば、その時点で抗菌薬使用を中止する。
  5. 上記3の検査で陽性結果が得られた場合は、抗菌薬使用期間を7日間から2週間に変更し、このケースからの濃厚接触者調査を開始する。また、無症候であっても、毒素産生性Corynebacterium diphtheriae陽性であれば、感染症法に基づき直ちに届ける。
  6. ワクチン接種歴を調べ、ワクチン未接種あるいは不明の場合は、ワクチン接種を行う。

【解説】

ジフテリア患者が認められたら、保健所は、同居している家族などの、ジフテリア患者と濃厚に接触した人(濃厚接触者)について調査を行います。濃厚接触者は、10日間症状が認められないか注意深く様子を見て、保健所と連絡を取り合います。また、鼻や喉から検査の検体を取ったあとで、抗菌薬が1週間処方されます。検査結果が陰性であれば、結果が出た時点で抗菌薬の内服は中止します。また、ワクチン接種歴について調べて、もしワクチン接種をしていないか、あるいは、ワクチン接種をしたかどうか覚えていない場合は、ワクチン接種をします。

 

感染予防

  1. ワクチン(沈降ジフテリアトキソイド)接種の定期接種は、沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチンとして第1期(生後3~12 月に3回初回接種、初回接種後12~18か月に1回追加接種)、沈降ジフテリア破傷風混合トキソイドとして第2期(11~12歳に1回接種)に分けて行われる。
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/vaccine-j/2525-v-schedule.html
  2. ジフテリアトキソイドは、毒素産生性Corynebacterium diphtheriaeによる感染症発症には極めて高い予防効果があるが、毒素産生性、非産生性に関わらず、Corynebacterium diphtheriae定着を予防する効果はない。

【解説】

ジフテリア予防のためのワクチンには、ジフテリア毒素をホルマリンで無毒化したジフテリアトキソイドを使用します。現在では、百日せきワクチン、破傷風トキソイド、不活化ポリオワクチンと組み合わせた四種混合ワクチン接種、および破傷風トキソイドと組み合わせた混合ワクチンとして、行われています。第1期では四種混合ワクチンとして4回接種し、第2期ではジフテリア破傷風混合ワクチンとして1回接種します。第2期の接種は、小学5年生~中学1年生(11~12歳)なので、うっかり忘れないようにすることが重要です。

 

(国立感染症研究所 細菌第二部 薬剤耐性研究センター)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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