国立感染症研究所

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2016年に沖縄県で発生したレプトスピラ症

(IASR Vol. 38 p.41-42: 2017年2月号)

レプトスピラ症は, 病原性レプトスピラの感染によって起こる急性熱性の人獣共通感染症である。本県での年間患者発生数は全国の約半数を占めるため, その動向には注意が必要である。2016年, 沖縄県の本症患者数が2003年に4類感染症に指定されて以来最多となったため患者発生状況の概要を報告する。

 患者発生状況

2016年1~12月にレプトスピラ症が疑われた68症例中43例(63.2%)が実験室診断陽性となった。患者発生は6~12月に確認され, 特に8~9月に集中し, この2カ月で81.4%(35例)を占めていた。2016年は本島北部地域で集積事例が複数みられ, 同地域の河川が感染場所と推定された集団感染事例も発生した(本号18ページ)。患者の年齢は, 7~80歳と幅広く, 特に40歳未満が全体の74.4%を占めていた。患者の性別は, 男性37例(86.0%), 女性6例(14.0%)であった。推定感染地域は, 沖縄本島北部地域が25例(58.1%), 八重山地域15例(34.9%), 本島南部地域1例(2.3%), 不明2例(4.7%)であった。推定感染機会(図1)は河川でのレジャー・労働40例(93.0%), 農作業, 河川以外での淡水との接触, ネズミとの直接・間接接触が各1例(2.3%)であった。また, 八重山地域では河川でのレジャー・労働で感染したと推定される14例中11例の職業がレジャーガイドであった。

臨床症状は, 発熱42例(97.7%), 結膜充血34例(79.1 %), 筋肉痛29例(67.4%), 頭痛19例(44.2%), 関節痛22例(51.2%), 胃腸炎17例(39.5%), 黄疸7例(16.3 %)であった。発熱を呈した患者には平均39.5℃の高熱が認められた。血液および尿検査では, 腎機能障害が17例(39.5%), 肝機能障害が12例(27.9%)認められた。また, 抗菌薬投与後のJarisch-Herxheimer反応(以下JHR)が11例(25.6%)認められた。

実験室診断が陽性となった43例において, PCR検査を行った28例中20例(71.4%), 菌分離を行った27例中13例 (48.1%), ペア血清を用いた顕微鏡下凝集試験による抗体検査を行った35例全例が陽性となった。推定感染血清群 (図2) はHebdomadis 23例(62.2%), Pyrogenes 3例(8.1%), AustralisおよびAutumnalis各2例(5.4%), Javanica1例(2.7%), 複数血清群陽性6例(16.2%) であった。

本年の感染事例の疫学情報を2008~2015年(喜屋武向子ら, IASR 37: 105-106, 2016)と比較すると(), 年齢群では0~19歳, 推定感染地域では本島北部地域の割合が増加し, 推定感染機会では河川でのレジャー・労働の割合が9割以上を占めていた。その他には実験室診断の陽性率, 臨床症状では結膜充血, 頭痛, JHRの割合が有意に増加していた。2016年には, 疑い例, 実験室診断の陽性率がともに増加したことから, レプトスピラの真の増加が示唆された。また, 「河川水との接触あり」といった疫学的情報の記載が調査票に増えていることから, 本症に対する医療関係者への周知が進んでいることが示唆された。

まとめ

2016年は河川でのレジャー・労働による感染が増加し, 特に八重山地域ではカヌーインストラクターといったレジャーガイドで頻発した。本症について全県をあげて積極的な知識の普及啓発が重要であり, ポスターやパンフレットの作成, 河川への看板の設置など, 河川を利用する人へ幅広く注意喚起をしていく必要があると考えられた。

2016年はJHRが増加し, 集団発生事例では重症化した症例もあった。JHRについては治療法(抗菌薬の種類)との関連性が強い1)とされていることから, 今後は疫学的背景や臨床症状に加え, 治療法についても情報を集積していく必要がある。

 

参考文献
  1. Sanefumi T, et al., Trans RSoc Trop Med Hyg 110(9): 558-565, 2016

沖縄県衛生環境研究所
 柿田徹也 喜屋武向子 髙良武俊 仲間絵理 加藤峰史 久場由真仁 久高 潤
国立感染症研究所 小泉信夫

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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