国立感染症研究所

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東京都の保育所における疥癬集団発生事例 2014年

(IASR Vol. 36 p. 27-29: 2015年2月号)

疥癬は人の皮膚角質層に寄生するヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptes scabiei)により引き起こされ、皮膚病変と掻痒を主症状とし、人から人へ感染する疾患である1,2)。近年わが国では病院、高齢者施設などで集団発生の事例が増加しており1)、感染拡大防止のため適切な介入を実施していくことが重要である。今回、当保健所は2014年9月に保育所での疥癬集団発生事例を経験したことから、その疫学調査について報告する。

集団発生の探知
2014年9月17日、保育所を所管する担当課より、「昨日、区内認証保育所に通う1歳児とその家族が疥癬と診断された。それ以外に発疹のあった1歳児1名とクラス担任にも受診勧奨したところ、本日疥癬と診断された。」との報告を受けた。区内において、2006年以降、疥癬事例の把握は2件のみで、保育所での発生例はなく、普段発生のない保育所で複数の疥癬患者が発生していることから集団発生と判断した。

症例定義
確定例は「2014年度現在在籍している園児と職員のうち、2014年4月1日以降に発疹を呈し疥癬と診断された者(①)、または①と接触があり疥癬と診断された者」とし、疑い例は「2014年度現在在籍している園児と職員のうち、一斉健診で体幹に孤立性紅色小丘疹を認めた者、または①と接触があり疥癬の疑いありと診断された者」とした。

施設概要
当該保育所の開所日時は月~土曜日の7時30分~20時30分(延長保育7時~7時30分、20時30分~22時)、通所園児は、0~4歳児各7人、5歳児6人の計41人であった。職員数は、保育士7人、栄養士2人、その他子育てサポート員が10人であった。保育所は複合施設の一角にあり、同フロアで0歳児、1~2歳児、3~5歳児の3部屋に分かれて保育が行われ、延長保育時には全クラスまとめて混合保育を行っていた。また、8月25日、9月1日に他保育所の園児を招き、当該保育所にて交流保育を実施していた。

記述疫学
症例は19例(確定例8例、疑い例11例)確認され、性別は男性4例、女性15例であった。所属別にみると、0歳児クラス2例、1歳児クラス6例(うち確定例3例)、2歳児クラス0例、3歳児クラス1例、4歳児クラス2例(同1例)、5歳児クラス2例、保育士1例(同1例)、保護者4例(同3例)、交流保育児1例であった。症状としては掻痒感が17例、皮疹が19例(体幹と手の両方10例、体幹のみ8例、その他1例)にみられた。流行曲線をみると、2014年第25週に初発例が発症し、第31週から他の症例が持続的に発生していた(図1)。第38~39週にかけてピークがみられるが、これは保育所で実施した一斉健診によって疑い例の多くが発見された結果と考えられた。第40週を最後に症例の発生はなかった。初発例と考えられた1歳児クラス担任保育士は、2014年6月中旬に湿疹が脇腹~腹部に出現し、強い掻痒感を自覚していた。医療機関で処方を受けていたが、8月中旬に手荒れが出現し、改善しないことから、9月上旬から手荒れに対しステロイド軟膏が処方された。その後急速に皮膚症状が増悪し、9月16日には保育所で疥癬患者が発生したことから、9月17日に確認のため受診し、状況を主治医に伝えたところ、疥癬と診断され、翌日の再診で角化型疥癬と診断された。

対策と経過
9月18日に1歳児クラス担当保育士が角化型疥癬と診断されたことから、翌日より10月6日まで就業制限となった。9月19日に、当該保育所近隣の皮膚科医の協力を得て全園児と職員を対象に一斉健診を実施した。実施にあたり、保護者には保育所から個別に説明を行った。シーツ、寝具類の一斉交換を実施し、9月20日には専門業者による全室消毒を行った。9月26日に2回目の一斉健診を実施し、翌日の27日に再度専門業者による全室消毒と清掃を行った。10月3日に3回目の一斉健診を実施し、新たな患者が確認されなかったことから、健診対応を終了とした。また、10月1日に交流保育児に疑い例が発生したことから、10月2日交流保育所においても一斉健診を実施した。この間、症例の同居家族に対する健康観察を実施したほか、掲示、口頭、文章にて保護者への説明を逐次実施した。12月1日、潜伏期間(1カ月)の2倍を経過しても新たな症例の発生を認めず、終息と判断した。

解析疫学
本集団感染について、感染源は1歳児クラスの担任保育士で、園児への保育ケア(接触感染)を通して、1歳児クラスを中心に感染が拡大したと仮定し、おむつ着用、皮膚疾患、保育時間が危険因子と考え、後ろ向きコホートデザインで研究を行った。

保育所の園児を対象として発症リスクを算出したところ、1歳児クラスに所属する者、皮膚疾患を有する者の発症リスク(相対危険度)は高く、有意な関連がみられた()。

考 察
初発事例は6月中旬に発症した1歳児クラス担任保育士で、手荒れが出現した8月中旬頃より感染力の強い角化型となっていたと考えられる。この保育士は、発症後確定診断がつくまでの13週間にわたり勤務を続けていたことから、接触者への持続的な曝露があったものと考えられた。初発の保育士が担当する1歳児クラスに発症者が続出し、最終的には同クラスに6症例が発生した(図2)。また、1歳児クラスの一部の症例から家族(3~5歳児含む)へも感染が広がった。続いて接触頻度は少ないものの、混合保育や交流保育を通じ、保育士から0歳児クラス、3~5歳児クラス、さらに交流保育の園児へも感染が拡大したと考えられた。

一斉健診による症例の早期発見・早期治療、非症例の予防的処置、発症者の隔離、保護者への適切なリスクコミュニケーションが患者発生の抑制につながったと考えられた。疫学解析においても、1歳児クラスの発症リスクが高いことが証明され、また、皮膚疾患の既往は、疥癬感染のリスク要因と考えられた。

提 言
今回の事例では、職員である保育士から感染が広がったことから、保育所等集団生活を行う場においては、日頃からの職員の健康チェックが重要である。発疹や掻痒感が長期間続いたり、ステロイド薬の塗布で改善がみられない、いは増悪するような場合は、所属の看護師へ相談することが望ましい。また、一斉健診や消毒、職員の予防内服など、積極的な対応により早期の終息を図ることができたことから、集団感染対応には施設と関係者の十分な協力を得ることが重要である。疥癬が保育施設内で発生することはまれであるが、万一の場合に備え、発生時の対応を決めておくことが大切である。また、早期の探知を図る上で症候群サーベイランスの一つである保育園サーベイランスが役立つと考えられる3)


参考文献
  1. 石井則久,他, 疥癬診療ガイドライン(第 2 版),日皮会誌117(1): 1-13,2007
    https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/1372913831_4.pdf
  2. 石井則久,他, 疥癬とは, 国立感染症研究所
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/380-itch-intro.html
  3. 症候群サーベイランス, 国立感染症研究所感染症疫学センター
    http://www.syndromic-surveillance.net/hoikuen/


中央区保健所健康推進課 左近士美和 杉下由行 阿部真悠子
あさの皮フ科 浅野祐介 浅野さとえ

 

 

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