国立感染症研究所

IASR-logo

<速報>エンテロウイルス68型に関する主な知見と国内の疫学状況のまとめ(2014年11月4日現在)

(掲載日 2014/11/13)

病原体
エンテロウイルスは、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属のエンベロープをもたないRNAウイルスである。エンテロウイルス属には、ポリオウイルスや、無菌性髄膜炎の原因となるエコーウイルスや手足口病の原因となりうるエンテロウイルス(EV)71型などが含まれる。エンテロウイルス属はさらに遺伝子型によりEnterovirus A~H (species)に分類される。EV68はEnterovirus D に属するためEV-D68とも表記される。EV68は、カプシド遺伝子の塩基配列からEnterovirus D に分類されるが、感染による主要な臨床所見は呼吸器症状であり、増殖至適温度や酸耐性等のウイルス学的性状はライノウイルスに類似している 1, 2)。また、当初、ライノウイルス87型に分類されていた型は、遺伝子解析の結果、EV68に再分類された1, 3)

既知の疫学・臨床像・診断
エンテロウイルスによる感染症は夏から秋にかけて多く発生し、冬に減少する。エンテロウイルス感染症は、乳幼児、子供、青少年が発症しやすく、大人は無症状もしくは軽症例が多いとされる。EV68による感染症は、通常感冒(軽度の発熱・鼻水・くしゃみなど)の軽症から、下気道炎(気管支炎や肺炎)、さらに下気道炎+呼吸困難(喘鳴)などまで様々な所見を呈することが知られていた4)。EV68による感染症の診断には、鼻咽頭ぬぐい液等の検体から、ウイルス分離あるいは遺伝子検出等の実験室診断が必要となる。

米国における近年の状況
EV68は1962年に米国・カリフォルニア州の呼吸器疾患(肺炎・細気管支炎)の小児4例から初めて検出されたが、その後の報告は稀で、2009~2010年に小流行が報告されただけであった2, 5, 6)。しかし、2014年8月下旬に、米国中部の2つの州(ミズーリとイリノイ)の病院から、重症呼吸器疾患による入院症例の増加と数十人の患者からのEV68検出が米国疾病管理予防センター(CDC)に報告された7)。米国ではEV68を含むエンテロウイルス感染症は届出対象疾患ではないが、実験室診断によるエンテロウイルスやパレコウイルスの検出は、CDCのエンテロウイルス報告システム参加検査機関によって自主的に報告されている7)。米国では、9月16日までに12州から130の症例が確認され、9月17日にEV-D68による重症呼吸器疾患のアウトブレイクを汎米保健機構/世界保健機関(PAHO/WHO)に通知した8)。その後、8月中旬~10月15日までに全米46州とコロンビア特別区(ワシントンDC)から合計780例のEV68による患者が確認・報告されている9)(注)。患者のほとんどが小児で、喘息や喘鳴の既往歴がある症例が多く、7例の死亡例からのEV68の検出も報告された。重症呼吸器症状を呈した小児からの検査を優先させているので、軽症例はより多く存在すると考えられている9)。医療関係者に対して、急性で原因不明の重症呼吸器疾患に対しては、EV68を原因として考慮すべきとの情報が発信された。例年は、エンテロウイルスとライノウイルスが小児の呼吸器疾患の原因であるが、今年は検出されるエンテロウイルスの中ではEV68が最も多くを占めている。また米国では、本年8~9月にかけて、EV68が主因と考えられる9例の急性神経症状を示す小児例(年齢中央値8歳)が報告され、調査が継続している10)

(注)8月中旬~11月6日までで、全米47州とワシントンDCから合計1,116例(11例の死亡例からの検出も含む)のEV68感染による患者が報告されている(Accessed Nov. 12, 2014)9)

わが国での感染症サーベイランス
わが国では、感染症法に基づき、感染症を診断した医師は届出を行っている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。すべての医師が届出を行う感染症(全数報告)と指定された医療機関のみが届出を行う感染症(定点報告)がある。

エンテロウイルスが起因病原体となりうる既存の代表的な疾患として、「手足口病」、「ヘルパンギーナ」、「感染性胃腸炎」、「無菌性髄膜炎」、「急性脳炎」などが挙げられる。「手足口病」、「ヘルパンギーナ」、「感染性胃腸炎」は、選定された小児科定点(全国約3,000の医療機関)から5類感染症(定点)として、「無菌性髄膜炎」は選定された基幹定点(全国約500カ所の病床数300以上の医療機関)から5類感染症(定点)として、「急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く。)」は5類感染症(全数)として届出られている。

小児科定点の約10%および基幹定点を病原体定点として、必要に応じて患者より検体を採取し、全国の地方衛生研究所(地衛研)において病原体検査が行われている。検出された病原体に関する情報は、感染症サーベイランスシステム(NESID)の病原体検出情報(IASR)に報告されている。

各疾患における病原体定点の種別が一様ではないことに注意する必要がある。また後述するように、小児科の定点把握疾患として流行期に多くの患者発生が報告される手足口病、ヘルパンギーナ、感染性胃腸炎におけるEV68の検出頻度は低い(参照:IASR:速報グラフ・ウイルス)。以上より、わが国におけるEV68の検出は、病原体定点対象感染症において主たる位置を占めてきたわけではなく、特に呼吸器疾患からの検出頻度の高さは、自主的な病原体検索を行った地衛研から報告された結果に基づく場合が多いことを示唆する11)。EV68はすべての自治体の検査機関(地衛研など)で検査が行われているわけではない病原体であることにも注意する必要がある。

国内における検出状況
2005年~2014年9月までに、わが国では、31都府県から272例のEV68検出の報告があった。年間に数例しか検出されない年がほとんどであったが、2010年には20府県から、2013年には26都府県から100例以上が報告された〔2005年2例、2006年2例、2007年8例、2008年報告なし、2009年4例、2010年129例、2011年2例、2012年2例、2013年122例、2014年1例(11月4日現在)〕。検体採取月別にみると9月をピークに夏から秋にかけて検出が増加していた(図1)。

国内で検出された症例に関する疫学状況
2005年~2014年9月までに報告された272例の内訳は、性別不明7例を除き、男性54%(143例)、女性46%(122例)であった。0~5歳が8割(77%)を占めた(年齢中央値:3.0歳)。20代(2例)、30代(2例)、50代(1例)など成人の呼吸器疾患からの検出もあった(図2)。53%が小児科病原体定点からの検体であった。

EV68が検出された患者の診断名の内訳は、下気道炎が107例(39%)と最も多く、次いで上気道炎53例(19%)、気管支喘息31例(11%)などで、約4分の3が呼吸器疾患と診断されていた。病原体定点における対象疾患である手足口病(12例)、感染性胃腸炎(6例)、ヘルパンギーナ(4例)、無菌性髄膜炎(2例)の全報告数に占める割合はそれぞれ1~4%の間で推移した。また、全数把握疾患である急性脳炎(急性脳症を含む)からの検出は4例であった。他に喘息(6例)、心肺停止〔2例;2010年と2013年にそれぞれ1例で、胃腸炎症状(嘔吐・腹痛含む)の4歳児と発熱症状の0歳児〕などもあった。

272例中、ほとんどがPCR等によりEV68の遺伝子が検出(265例;97%)され、そのうちの251例(92.3%)は、遺伝子塩基配列解析や系統樹解析によりEV68と同定されていた12)。培養細胞等による分離により検出・同定された症例は29例(11%)であった(検査法の重複を含む)。

EV68が検出された272例の臨床症状の内訳は、発熱が209例(77%)、下気道炎症状(肺炎、気管支炎を含む)が131例(48%)、上気道炎症状が68例(25%)、胃腸炎症状が23例(8%)であった(重複する症状を含む)。その他に喘息・喘鳴が33例(12%)、意識障害5例、髄膜炎の症状3例等が報告されていた。

2014年11月4日現在、わが国におけるEV68の報告は、9月に東京都で肺炎・気管支炎を呈した患者1例のみである(年齢・性別ともに不明)。

考えられる感染予防策
EV68による感染症は、多くは軽症であると推定されるが、呼吸困難などを伴う重症例においては、呼吸器管理などの集中治療が必要な場合もある。また、小児気管支喘息患者では、EV68の感染により呼吸器症状が増悪する傾向がある4)。EV68に対するワクチンはなく、治療は対症療法のみである。感染予防は、インフルエンザなどの他の呼吸器ウイルス感染症の対策と同様に、手洗いによる接触感染(病原体が付着した手から鼻や口への感染)を避けるなどである。EV68等による呼吸器感染症が疑われる場合には、(小児患者においては難しいが)咳エチケットを実施する、家族などの手洗い実施を強化する、飛まつ対策を行うことなどが重要である。今後のEV68の国内での動向に注目しながら、日常的な感染症予防の基本として、これらの衛生指導を強化することが有用であると思われる。

謝辞:病原体サーベイランスにご協力いただいている全国の衛生研究所、保健所、医療機関の皆様に感謝申し上げます。


参考文献
  1. Blomqvist, et al., J Clin Microbiol 40: 4218-4223, 2002
  2. Oberste, et al ., J Gen Virol 85: 2577-2584, 2004
  3. Ishiko, et al., Intervirology 45: 136-141, 2002
  4. Enterovirus D68, CDC: http://www.cdc.gov/non-polio-enterovirus/about/ev-d68.html
  5. Schieble, et al ., Am J Epidemiol 85: 297-310, 1967
  6. Clusters of Acute Respiratory Illness Associated with Human Enterovirus 68 — Asia, Europe, and United States, 2008-2010, CDC, MMWR 60(38) p1301-1304, 2011,
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6038a1.htm
  7. Severe Respiratory Illness Associated with Enterovirus D68―Missouri and Illinois, 2014, CDC, MMWR 63(36) p798-799, 2014
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6336a4.htm?s_cid=mm6336a4_w
  8. Enterovirus D68 in the United States of America, WHO Global Alert and Response (GAR),
    http://www.who.int/csr/don/17-september-2014-enterovirus/en/
  9. Enterovirus D68 in the United States, 2014, CDC
    http://www.cdc.gov/non-polio-enterovirus/outbreaks/EV-D68-outbreaks.html (accessed Oct. 16,2014)
  10. Pastula et al., Acute Neurologic Illness of Unknown Etiology in Children― Colorado, August-September 2014, MMWR, October 10, 2014/ 63(40); 901-902
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6340a5.htm?s_cid=mm6340a5_w
  11. Ikeda T et al., Acute respiratory infections due to enterovirus 68 in Yamagata, Japan between 2005 and 2010. Microbiol Immunol 56(2): 139-43, 2012
  12. 「呼吸器感染症、熱性けいれんの乳幼児からのエンテロウイルス68型の検出―大阪市」 IASR Vol. 31 p. 300: 2010年10月号,
    http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/368/pr3677.html
参考URL
  1. IASR:速報グラフ・ウイルス(エンテロウイルス、手足口病由来、ヘルパンギーナ由来など)
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1532-iasrgv.html
  2. IASR:速報集計表・ウイルス
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr/511-surveillance/iasr/tables/1493-iasr-table-v.html
  3. 地衛研からの報告(自動更新): ウイルス検出状況、ヒト由来:エンテロウイルス(2)
    月別 http://www0.nih.go.jp/niid/idsc/iasr/Byogentai/Pdf/data57j.pdf
    年別 http://www0.nih.go.jp/niid/idsc/iasr/Byogentai/Pdf/data60j.pdf
  4. IASR過去の集計表・ウイルス
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/230-iasr-data/5492-iasr-table-v-p.html
    月別エンテロウイルス(2) 2000~2014年
    年別エンテロウイルス(2) 1981~2010年

国立感染症研究所
  感染症疫学センター
  ウイルス第二部

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version