国内における小児の原因不明の急性肝炎について 
(第3報) 
2023年2月16日時点の事例報告集計

国立感染症研究所

感染症危機管理研究センター

実地疫学研究センター

感染症疫学センター

 

背景や症例定義、急性肝不全の診断基準などについては「国内における小児の原因不明の急性肝炎について(第1報) 2022年6月23日時点」を参照

要旨

・2023年2月16日までに暫定症例定義を満たす小児の原因不明の急性肝炎の可能性例が156例報告された。肝移植を要した症例が3例報告され、死亡例は1例報告された。

・これまでの報告と同様、症例の発症時期、居住地域、検出された病原体について、特定の傾向は確認されていない。

・アデノウイルス検査陽性例16例のうち、欧米諸国で多く報告されている41型が検出された症例は2例であった。

・アデノウイルスを含め関連する感染症発生動向調査においても特段の懸念のある動向は見られていない。

小児の原因不明の急性肝炎報告例の概要

厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査における暫定症例定義を満たす可能性例は、2023年2月16日(第7週)までに、国内で156例報告された。原因となる病原体、発症の時期については明らかな傾向は認められていない。また、症例は全国から報告されており、地域的な偏りはみられていない。

 2021年第40週から2023年第6週までの、疫学週ごとの発症者数の推移を示す(図1)。直近の発症者については遅れて報告される可能性があること、また、事務連絡の発出以前の発症者は、医療機関が遡って確認する必要があり十分に報告されていない場合があると推定されることから、解釈には注意を要する。発症から入院までの期間は情報のある149例において、中央値[四分位範囲]は4日[2-8日]、入院期間は情報のある132例において、中央値[四分位範囲]は10日[7-15日]であった(表1)。

156例のうち、84例(54%)は男性、72例(46%)は女性で、年齢中央値[四分位範囲]は4歳6か月[1歳4か月-9歳2か月]であった。情報が得られた症例のうち(以下、分母は各情報が得られた症例数を表す)、基礎疾患を有する者の割合は25%(39例/155例)であった(表1、表2)。

 少なくとも1回以上の新型コロナワクチン接種歴がある者の割合は17%(24例/145例)、肝炎発症の前に明らかに新型コロナウイルス感染症の既往歴があった者の割合は15%(22例/148例)であった(表1)。

 最もよく見られた症状は発熱、消化器症状であり、これまでの報告と同様であった。肝機能の指標となるAST、ALT、総ビリルビン、PT-INRの中央値[四分位範囲]についても、これまでの報告と同様の傾向であった(表1)。

 全血、血清、便、呼吸器由来検体を主な対象とした病原体検査の結果を示す(表3)。7%(11例/150例)からSARS-CoV-2が検出された。また、アデノウイルスの検査が実施され、結果が判明した症例のうち、11%(16例/151例)からアデノウイルスが検出された(表3)。欧米で重症急性肝炎との関連について注目されているアデノウイルス41型は2例から検出された。現時点では、症例から検出された病原体について特徴的な傾向を認めない。

ICU/HCU入室例は17%(18例/103例)であり、急性肝不全の診断基準を満たす者は、PT-INRに関する情報の得られた99例のうち17例(17%)であった(図1、表1)。これらの割合は第2報と同様であった。急性肝不全の診断基準を満たす者17例のうち、肝移植を要した症例は、第2報から2例増加し3例 (18%) であった。急性肝不全の診断を満たす者17例のうち、死亡例が1例報告された。転帰については、さらなる観察期間を要する可能性に注意が必要である。

図1.暫定症例定義に該当する国内の症例の発症状況(n=150*1, 2023年2月16日10時時点)

*1 発症日不明の6名を除いている

*2発症日不明の1名を除いている

*3発症日事務連絡発出以前の遡り調査や、直近数週の報告については解釈に注意(本文参照)

表1. 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の基本情報(n=156, 2023年2月16日10時時点)

*1重複あり

*2腹痛、下痢、嘔吐・嘔気のいずれかを呈する者

*3AST、ALT、総ビリルビン、PT-INRは報告時点までの最大値

*4AST、ALT、総ビリルビン、PT-INR は、それぞれ情報が得られた153例、153例、115例、99例の情報に基づく

表2.基礎疾患の分類(n=39, 2023年2月16日10時時点)

*1重複あり

表3.検出した微生物の基本情報*1

*1重複あり

*216例のうち12例がPCR法での検出、1例がウイルス培養での検出、2例が迅速抗原検査での検出であり、1例は検査方法不明である

*39例のうち6例は院内検査でアデノウイルスを検出したが、地方衛生研究所での検査が陰性であったため、型判定が不能であった

*4地方衛生研究所での検査で検出した微生物

関連する感染症発生動向調査の状況の概要

•「ウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)」の小児の症例数の報告が増えている兆候は見られていない(2023年3月7日時点)。

感染症法に基づくサーベイランス対象疾患としてのウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)(全数報告対象:5類感染症)では、小児の報告は稀である。2017~2019年と比べて、2020年以降の年間報告数は減少している。

2021年以降、一貫してB型肝炎が最も多く、B型・C型肝炎が当疾患の7割以上を占めている(D型肝炎の報告は0例)。それら以外のウイルス性肝炎の症例報告数はわずかに増加したが、大半が成人からであり、その起因ウイルスの大半はサイトメガロウイルスとEBウイルスである。

 

•アデノウイルスに起因する症候群が流行している兆候は見られない。

アデノウイルスに起因する症候群には、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、感染性胃腸炎などがある。しかし、感染症発生動向調査から、アデノウイルスの流行状況を反映すると考えられる上記の症候群の発生傾向に異常は見られない。

 

•病原体検出情報システム(病原体サーベイランス)における報告状況から、アデノウイルスが大きく流行している兆候は見られていない(3月17日時点)。

 地方衛生研究所等が病原体サーベイランスに報告した病原体の検出情報(感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報)によれば、2023年2月においてアデノウイルス報告数が増加している、あるいは高いレベルで推移している兆候は見られていない。

 なお、小児科定点における胃腸炎症状(下痢、嘔気・嘔吐、腹痛)を認めた症例に限定しても、アデノウイルス報告数の増加や高いレベルでの推移は見られていない。アデノウイルスの検出は、2020~2021年は低いレベルで推移し、2022年以降にやや増加したが、2019年以前と比較すると少ない報告数で推移している。

 

病原体サーベイランスにおいては、検出から報告までの日数に規定がないため、報告が遅れる可能性があり、特に直近の情報については、解釈に注意が必要である。

 

 

当該事例の調査報告、及び日頃より感染症発生動向調査にご参加、ご協力をいただいている全国の医療機関、保健所、自治体本庁、そして地方衛生研究所の関係各位に心より感謝申し上げます。

 

参考資料

・国内における小児の原因不明の急性肝炎について(第2報) 2022年10月20日時点

https://www.niid.go.jp/niid/ja/jissekijpn/11623-2-2022-10-20.html

・国内における小児の原因不明の急性肝炎について(第1報) 2022年6月23日時点

https://www.niid.go.jp/niid/ja/jissekijpn/11255-fetp-3.html

・複数国で報告されている小児の急性肝炎について (第4報)

https://www.niid.go.jp/niid/en/from-lab-e/2521-cepr/11262-hepatitis-children-0704.html

・日本の感染症サーベイランス(2018年2月現在)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/nesid-program-summary.html

・国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR) https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr.html

 

拠点によるFETP研修強化について

 

国立感染症研究所実地疫学研究センター

概要

 国立感染症研究所では、国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(以下、FETP)の研修を経た国内の実地疫学専門家を大幅に増やすという目標に対して、一部の協力自治体において研修を展開するFETP拠点(以下、拠点)を開始することとした。拠点における研修員については、日頃は地元自治体での業務にも一定程度携わりながら(当センターでは研修にあてる時間を全就業時間の7割以上と想定)、FETPに求められる基本的な研修活動に取り組むこと、そのために国立感染症研究所より指導担当者を必要時に自治体に派遣すること、が想定されている。具体的には、令和4年度から、沖縄県(沖縄県衛生環境研究所内)をパイロット自治体として先行的に準備を進めてきた。令和5年度から沖縄県に加えて大阪府(大阪健康安全基盤研究所内)において本格運用を開始することが予定されている。国内の地域(拠点)における多様な特色を生かしつつ、研修活動を多面的に強化したいという構想でもある。

 各拠点では、若干名のFETP研修員を採用する(通常のFETPと共に採用の審査を行う)。拠点FETPは、自治体内で通常の勤務場所がある者であることが想定されている(国立感染症研究所からの給与の支給はない)。応募資格については、FETPの通常の募集要項にある要件を同等に満たす者となる。FETPの研修について、拠点においては、可能な限りオンラインにて国立感染症研究所で実施される指導を同時に受けつつ、派遣される指導員等により必要な対面の指導を受ける。必要に応じて国立感染症研究所実地疫学研究センターでの講義及び指導(アウトブレイク発生時には現地派遣を含め)を受ける機会がある。また、研修においてはFETPとしての通常の達成項目を達成して初めて、FETP修了と認められる点においては、通常のFETP研修員との違いはない。

問い合わせ先

  国立感染症研究所 実地疫学研究センター

  E-mail : q-fetp[at]nih.go.jp(砂川宛て)

  ※Emailは[at]をアットマークに変えご利用ください。

 

以上。

 

クラスター対策班接触者追跡チームとしての実地疫学研究センター・FETPの活動報告(3)
(2021年12月31日時点)

2022年11月18日

国立感染症研究所 実地疫学研究センター

国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース

 

■はじめに

 2020年1月、日本でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の確定症例が確認された。その後、主な新規変異株として、2020年12月にアルファ、2021年4月にデルタ、11月にオミクロンが国内で確認された。新規陽性者数は、従来株に始まり、出現した様々な新規変異株の感染拡大の状況や置き換わりの過程を経ながら増減を繰り返してきた。それらに対応するため、国は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの対策、2021年2月からの新型コロナワクチン接種を導入し、各自治体では、国の取り組みに並行して、流行状況に合わせた様々な取り組みと無数の現場対応が行ってきた。

 そのCOVID-19対策の1つとして、2020年2月25日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部にクラスター対策班が設置され、対応が続けられてきた。同班のうち接触者追跡チームは国立感染症研究所実地疫学研究センター*の職員、実地疫学専門家養成コース(FETP)研修員、FETP修了者を主体として構成され(以下、現地派遣チーム)、従来通り、原則として各都道府県の派遣要請に応じて現地において対策支援を行い、その後も必要に応じて遠隔支援を行ってきた。FETPとは感染症危機管理事例を迅速に探知し適切に対応する実地疫学専門家の養成コースである。1999年に設置され(https://www.niid.go.jp/niid/ja/fetp.html)、感染症法第十五条に基づく実地(現場)の積極的疫学調査の支援を行っている。また、新たな変異株が出現した際に、事例の特徴や整理を目的に実地調査をFETPから働きかけ、自治体とともに実施することもあった(深堀調査)。当該派遣においては、「感染症危機管理人材養成事業における実地疫学調査協力に関する実施要領(平成一二年二月一七日発)」に基づき守秘義務が課されており、要請機関の自治体の承諾なく、個人・施設や自治体を特定される疫学情報を外部に公表することはない。

 以下に、2020年2月1日~2021年12月31日の期間における現地派遣チームの活動概要を報告する。なお、これまで第1報(2020年5月20日)、第2報(2020年10月2日)を報告しており、本記事は第3報となる。

*2021年4月、国立感染症研究所内に実地疫学研究センターが設置された。これに伴い、旧感染症疫学センター第1室(感染症対策計画室)は、実地疫学研究センターに移動し、第一室(実地疫学研修室)、同第二室(実地疫学分析室)、同第三室(国際派遣室)が立ち上がった。

■活動実績

 2021年12月31日時点で現地派遣チームが関与した事例は計224事例であった。この時点までに派遣されたのは、国立感染症研究所の職員20名、FETP研修員23名、外部組織に所属する29名(FETP修了者も含む)の計72名であった。外部組織に所属する派遣者のうち11名はFETP修了生であった。また派遣先自治体等に所属するFETP修了生が共に活動した事例もあった。

 図1に2020年1月~2021年12月のSARS-CoV-2株別の現地派遣チームが関与した事例数の推移を示す。その際の時期的な目安について、厚生労働省による第6波までの分類に従い以下のように定義した(国内発生早期、特措法成立前の国内発生期:2020年1月28日~3月12日、第1波:2020年3月13日~6月13日、第2波:2020年6月14日~10月9日、第3波:2020年10月10日~2021年2月28日、第4波:2021年3月1日~6月20日、第5波:2021年6月21日~9月24日、第6波:2021年9月25以降)。全国における新規陽性者数との明らかな関係は認められなかった。FETPへの派遣要請は、新型コロナウイルス感染症の初期段階に(主には2020年中まで)集中しており、COVID-19流行の遷延とともに要請は減少していたことが分かる。多くの事例に対するクラスター対応として要請された3分の2ほどは医療機関や高齢者施設で発生した事例であり、FETPは疫学調査を主とし感染管理の面も加えて支援してきた。自治体からの支援の要請は、原則自治体のニーズに応じて行われることから、2021年に入っての急激な要請の減少は、初期の厳しい段階を経て、保健所を中心とした自治体における施設でのクラスター対応を行う体制が急速に強化されていったことを示唆する。

図1.現地派遣チームが関与した事例数(SARS-CoV-2株別)と全国における新規陽性者数の推移(224事例)

*全国における新規陽性者数:厚生労働省オープンデータ(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html

■発生場所別の特徴

 図2に現地支援を行った事例について、発生場所別の事例数の推移を示す。主な発生場所を、医療施設、高齢者または福祉施設等、地域(保健所支援、地域におけるクラスターなど)、事業所、学校等(学校、保育所、こども園など)、接待を伴う飲食店、飲食店、娯楽施設(カラオケ、ジムなど)、運動競技、旅行関連に分類した。222事例が分類され、分類できなかった2事例はその他とした。一般的なSARS-CoV-2の感染拡大経路や拡大のリスクが判明していなかった第1波時点では、医療機関が41事例、高齢者・福祉施設が19事例と最も多かった。第2波及び第3波初期では、接待を伴う飲食店事例が多かったが、その後は徐々に医療機関や高齢者・福祉施設への支援数も減少、接待を伴う飲食店への支援はわずかとなった。第3波及び第4波は、地域を対象とした事例(変異株の特徴把握目的の調査や保健所支援など)が増加し、それぞれ第3波で7事例、第4波で10事例であった。第5波の9月は、医療機関事例が多く、これはワクチンのブレイクスルーを対象として行った調査(深堀調査)の増加を示す。

 第1報(2020年5月20日)、第2報(2020年10月2日)以降、様々な新規変異株の出現や新型コロナワクチン接種の開始等、経時的に状況は変化し続けてきた。引き続き、医療機関では、COVID-19が疑われていない場合の不十分な標準予防策、基本的な手指衛生の不徹底などが感染対策上の課題であり、高齢者・福祉施設等では、介護等で密接に接触する機会が多く、感染対策の厳守が難しいこと、基本的な感染対策の知識不足や指導体制不足などが課題であった。医療機関や高齢者・福祉施設等以外の事例においては、第1波~第3波では会食やマスクなしでの接触が感染原因としては多く、基本的な感染対策の不足による感染拡大が見られ、第4波以降では、それに加え、有症状者や濃厚接触者の不十分な隔離による感染拡大が示唆された。

 表1、表2にそれぞれ発生場所別、陽性者数規模別の派遣期間を示した。派遣期間は、発生場所別では明らかな違いは認めなかったが、陽性者数規模別では、陽性者数が1000人を超えると、派遣期間が長かった。派遣先では各自治体の要望に応じて、症例や濃厚接触者のデータベース作成、データのまとめ及び記述疫学、クラスターの発生要因や感染ルートの究明、市中感染の共通感染源推定等の疫学調査支援、医療機関や福祉施設等における感染管理対策への助言、他自治体や関係機関との連絡調整等を行った。

図2.現地派遣チームが関与した事例数の推移(発生場所別)(224事例)

表1. 現地派遣チームが関与した事例の派遣期間(発生場所別)(222事例)

*遠隔支援など、現地での活動がない事例を含む

表2. 現地派遣チームが関与した事例の派遣期間(陽性者数規模別)(224事例)

*遠隔支援など、現地での活動がない事例を含む

**保健所支援や正確な陽性者数が不明な事例を含む

■まとめ

 今回の現地派遣チームが関与した事例のまとめにより、現地支援はCOVID-19のような新しい感染症や変異株の出現時など、その感染症がどのような特徴や性質を有するか不明な段階で、自治体が対応に困難を来していた状況下で求められてきたことが明らかとなった。そのことは、情報の解釈のうえでも重大な注意点があることを示唆する。すなわち、本まとめは現地派遣チームによる現地支援に至った事例について列挙したものであり、得られた情報は、真の傾向や割合ではなく、自治体がやむを得ず協力を求めた規模が大きかったり、複雑であったりする事例の分析結果である。

 現地における対応の方針や枠組み、対応に従事している関係者を尊重・理解し、信頼関係を築いたうえで行うことが最も重要である。支援させて頂いた事例1つ1つが、自治体、事例が発生した施設等の関係者との信頼関係、協力がなければ調査を完遂できないものであった。この場を借りて関係者の皆様へ深謝したい。

 

 

国内における小児の原因不明の急性肝炎について
(第2報)
2022年10月20日時点

国立感染症研究所

感染症危機管理研究センター

実地疫学研究センター

感染症疫学センター

 

背景や症例定義、急性肝不全の診断基準などについては「国内における小児の原因不明の急性肝炎について(第1報) 2022年6月23日時点」を参照

要旨

・2022年10月20日までに暫定症例定義を満たす小児の原因不明の急性肝炎の可能性例が112例報告された。肝移植を要した症例が1例報告され、死亡例の報告はなかった。

・第1報と同様、症例の発症時期、居住地域、検出された病原体について、特定の傾向は確認されていない。

・アデノウイルス検査陽性例13例のうち、欧米諸国で多く報告されている41型が検出された症例は1例であった。

小児の原因不明の急性肝炎報告例の概要

 厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査における暫定症例定義を満たす可能性例は、2022年10月20日までに、国内で112例報告された。原因となる病原体、発症の時期について明らかな傾向は認めていない。また、症例は全国の各地域から報告されており、地域的な偏りはみられていない。

 発症週は2021年第40週から2022年第41週であった(図1)。直近の発症者については遅れて報告される可能性があること、また、事務連絡の発出以前の発症者は、医療機関が遡って確認する必要があり十分に報告されていない場合があると推定されることから、解釈には注意を要する。発症から入院までの期間について情報のある105例において、その中央値[四分位範囲]は4日[3-8日]で、入院期間について情報のある98例において、入院期間の中央値[四分位範囲]は10日[7-16日]であった(表1)。

 112例のうち、62例(55%)は男性、50例(45%)は女性で、年齢中央値[四分位範囲]は4歳9か月[1歳5か月-9歳8か月]であった。情報が得られた症例のうち、基礎疾患を有する者の割合は26%(28例/106例)であった(表1、表2)。

 少なくとも1回以上の新型コロナワクチン接種歴がある者の割合は19%(20例/103例)、肝炎発症の前に明らかに新型コロナウイルス感染症の既往歴があった者の割合は9%(9例/105例)であった(表1)。

 情報が得られた症例において、最もよく見られた症状は発熱、消化器症状であり、第1報と同様であった。肝機能の指標となるAST、ALT、総ビリルビン、PT-INRの中央値[四分位範囲]についても、前回の報告と同様の傾向であった(表1)。

 全血、血清、便、呼吸器由来検体を主な対象とした病原体検査の結果を示す(表3)。情報の得られた症例の8%(9例/107例)からSARS-CoV-2が検出された。また、アデノウイルスの検査が実施され、結果が判明した症例のうち、12%(13例/108例)からアデノウイルスが検出された(表3)。欧米で注目されているアデノウイルス41型は1例から検出された。現時点では、症例から検出された病原体について特徴的な傾向を認めない。

 情報の得られた症例においては、ICU/HCU入室例は18%(13例/72例)であり、急性肝不全の診断基準を満たす者は、PT-INRに関する情報の得られた64例のうち11例(17%)であった(図1、表1)。肝移植を要した症例が1例 (1%) で、死亡例の報告はなかった。転帰については、さらなる観察期間を要する可能性に注意が必要である。

図1.暫定症例定義に該当する国内の症例の発症状況(n=112, 10月20日10時時点)

*1 発症日不明の5名を除いている

*2 発症日不明の1名を除いている

*3 発症日事務連絡発出以前の遡り調査や、直近数週の報告については解釈に注意(本文参照)

表1. 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の基本情報(n=112, 10月20日10時時点)

*1 重複あり

*2 腹痛、下痢、嘔吐・嘔気のいずれかを呈する者

*3 AST、ALT、総ビリルビン、PT-INRは報告時点までの最大値

*4 AST、ALT、総ビリルビン、PT-INR は、それぞれ情報が得られた107例、107例、76例、64例の情報に基づく

表2.基礎疾患の分類(n=28, 10月20日10時時点)

*1 重複あり

表3.検出した微生物の基本情報*1

*1 重複あり

*2 13例のうち10例がPCR法での検出、1例がウイルス培養での検出、2例が迅速抗原検査での検出である

*3 7例のうち5例は院内検査でアデノウイルスを検出したが、地方衛生研究所での検査が陰性であったため、型判定が不能であった

*4 地方衛生研究所での検査で検出した微生物

 

 感染症発生動向調査にご参加、ご協力をいただいている全国の医療機関、保健所、自治体本庁、そして地方衛生研究所の関係各位に心より感謝申し上げます。

参考資料

・国内における小児の原因不明の急性肝炎について(第1報) 2022年6月23日時点

https://www.niid.go.jp/niid/ja/jissekijpn/11255-fetp-3.html

・複数国で報告されている小児の急性肝炎について (第4報)

https://www.niid.go.jp/niid/en/from-lab-e/2521-cepr/11262-hepatitis-children-0704.html

・日本の感染症サーベイランス(2018年2月現在)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/nesid-program-summary.html

・国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr.html

 

国内における小児の原因不明の急性肝炎について

(第1報)

2022年6月23日時点

国立感染症研究所

感染症危機管理研究センター

実地疫学研究センター

感染症疫学センター

                                                                                   (掲載日 2022/6/30)

(一部訂正 2022/7/6)

英語版  

 

 2022年4月以降、欧米で16歳以下の小児の重症急性肝炎症例の集積が報告された。原因としてアデノウイルス感染の関与の可能性も指摘されているが、現時点ではその他の感染症や化学物質等を含めた単独の原因としては確定されていない。この海外の状況をうけ、厚生労働省は事務連絡により小児の原因不明の急性肝炎についての情報提供を依頼した(令和4年4月27日付厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡「欧州及び米国における小児の原因不明の急性肝炎の発生について(協力依頼)」、5月13日一部改正)。

 ここでは、厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査で収集された報告例と、感染症発生動向調査で把握可能な、急性ウイルス性肝炎およびアデノウイルス感染症に関連する定点把握疾患、病原体検出情報システム(病原体サーベイランス)について述べる。

要旨

・2022年6月23日までに暫定症例定義を満たす小児の原因不明の急性肝炎の可能性例が62例報告された。これまでに肝移植を要した症例及び死亡例の報告はない。また、症例の発症時期、居住地域、検出された病原体について、特定の傾向は確認されていない。

・感染症発生動向調査にもとづく関連情報においても、国内で小児の急性肝炎、アデノウイルス感染症が増加している兆候は認められていない。

・これらの情報より、国内で急速に症例が増加する状況ではないと考えられる。本症例の原因は現時点で究明中であり、情報収集を継続する必要がある。


小児の原因不明の急性肝炎報告例の概要

 厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査における暫定症例定義は以下のとおりである。(令和4年4月27日付厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡「欧州及び米国における小児の原因不明の急性肝炎の発生について(協力依頼)」)

2021年10月1日以降に診断された原因不明の肝炎を呈する入院例のうち、以下の①、②、③のいずれかを満たすもの:

① 確定例 現時点ではなし。

② 可能性例 アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)又はアラニントランスアミナーゼ(ALT)が500 IU/Lを超える急性肝炎を呈した16歳以下の小児のうちA型~E型肝炎ウイルスの関与が否定されている者。

③ 疫学的関連例 ②の濃厚接触者である任意の年齢の急性肝炎を呈する者のうち、A型~E型肝炎ウイルスの関与が否定されている者。

上記の暫定症例定義を満たす可能性例が、国内で62例報告(表1)されているが、原因となる病原体、発症の時期について明らかな傾向は認めていない。

表1 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の発生状況(6月23日10時時点)

table1

 62例のうち、34例(55%)は男性、28例(45%)は女性で、年齢中央値は5歳(四分位範囲2-10歳)であった(表2)。情報が得られた症例のうち、基礎疾患を有する者の割合は28%(17例/60例)であった(表2、表3)。

 少なくとも1回以上の新型コロナワクチン接種歴がある者の割合は22%(12例/55例)、肝炎発症の前に新型コロナウイルス感染症の既往歴があった者の割合は9%(5例/58例)であった(表2)。

 症例は全国の各地域から報告されており、現時点で地域的な偏りはみられていない。

 急性肝不全の診断基準は、「正常肝ないし肝予備能が正常と考えられる肝に肝障害が生じ,初発症状出現から 8 週以内に,高度の肝機能障害に基づいてプロトロンビン時間が40%以下ないしはINR値1.5以上を示すもの」とされている(厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:2015年改訂版)。

この急性肝不全の診断基準を満たす者は、PT-INRに関する情報の得られた32症例のうち4例(13%)、そのうち2例に基礎疾患があり、いずれも地域的な偏りを認めていない(図1)。

 発症週は2021年第40週から2022年第22週で(図1)、症例の93%(57例/61例)が2022年第7週[2022年2月14日~2月20日]以降の発症であった。2022年第7週以降、発症者は継続して報告され、1週間あたりの発症者数の中央値は2例(四分位範囲1-5例)であった。

 症例の報告に関する事務連絡が発出された2022年第17週の後、2022年第17週から第18週にかけて発症者数の増加を認めるが、直近の発症者については遅れて報告される可能性があること、また、事務連絡の発出以前の発症者は、医療機関が遡って確認する必要があり十分に報告されていない場合があると推定されることから、解釈には注意を要する。

 臨床症状は、情報が得られた症例において、37.5℃以上の発熱68%(41例/60例)、消化器症状(腹痛、下痢、嘔吐・嘔気のいずれかを呈する者)52%(31例/60例)、咳嗽28%(17例/60例)、黄疸22%(13例/60例)、白色便5%(3例/60例)、意識障害5%(3例/60例)であった(表2)。

これら症例の検査の実施状況は一律でなく、また検査中の症例も含まれる。

肝機能の指標となるASTとALTについて情報が得られた60例では、中央値[四分位範囲]がそれぞれ、AST 698 IU/L [417-1,007 IU/L]、ALT 746 IU/L [556-1,238 IU/L]であった。また総ビリルビンとPT-INRについて情報が得られたそれぞれ39例、32例では、中央値[四分位範囲]がそれぞれ、総ビリルビン 1.0 mg/dL [0.48-4.31 mg/dL]、PT-INR 1.09 [0.99-1.32]であった(表2)。

 全血、血清、便、呼吸器由来検体を主な対象とした病原体検査については、情報の得られた症例の8%(5例/59例)からSARS-CoV-2が検出された。また、アデノウイルスの検査が実施され、その結果が判明している症例は計58例であり9%(5例/58例)でアデノウイルスが検出された。そのうち1例が1型、1例が2型であった(表1)。3例は病院の検査で陽性であったが地方衛生研究所の検査では陰性となり、アデノウイルスの型は判明しなかった。この他7例は地方衛生研究所において検体の精密検査中である。その他、地方衛生研究所において、HHV-6ウイルスが3例、HHV-7ウイルスが2例、EBウイルスが2例、ライノウイルスが2例、ノロウイルスが1例検出されている。現時点では、これらの検出状況について特徴的な傾向を認めない。肝生検による病理検査結果の情報が得られた症例はない。

 発症から入院までの期間の中央値[四分位範囲]は4日[2-9日]であった。62例中53例(85%)はすでに退院しており(6月23日時点)、情報のある51例における入院期間の中央値[四分位範囲]は9日[7-14日]であった。

情報の得られた症例においては、ICU/HCU入室例は19%(6例/31例)であり、そのうち3例に基礎疾患があった。

肝移植の適応となった症例や死亡例はないが、転帰については、さらなる観察期間を要する可能性に注意が必要である。なお、本症例の原因は現時点で究明中であり、情報収集を継続する必要がある。

図1.暫定症例定義に該当する国内の症例の発症状況(6月23日10時時点)

  1

表2. 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の基本情報(n=62, 62310時時点)

table2

表3 基礎疾患の分類(n=17, 6月23日10時時点)

table3

 

感染症発生動向調査にもとづく関連情報

〇感染症発生動向調査(NESID)

・「ウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)」の小児の症例数の報告が増えている兆候は見られていない(6月2日時点)

 感染症法による感染症発生動向調査では、ウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)は、5類感染症の全数把握対象疾患に定められ、診断した医師は7日以内に保健所に届け出ることが義務づけられている。当疾患の報告数は、2020~2021年は2017~2019年と比べて少なく、2022年第1~21週も、報告数の増加は見られていない。小児の報告は稀であり、2021年以降16歳以下の小児の報告は3例のみである。なお、2017年以降、一貫してB型・C型肝炎が最も多く、当疾患の7割以上をこれらが占めている(D型肝炎の報告は0例)。2021年以降は、B型・C型・D型肝炎以外のウイルス性肝炎の症例報告数はわずかに増えているが、その起因ウイルスのほとんどはサイトメガロウイルスかEBウイルスである。同期間にアデノウイルス5型が検出された症例が1例報告されたが、小児ではなかった。

・アデノウイルスに起因する症候群が大きく流行している兆候は見られていない(6月15日時点)

 アデノウイルスに関連する症候群には、感染性胃腸炎、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎などがある。感染症発生動向調査において、これら3疾患は定点報告対象疾患(5類感染症)であり、指定届出機関(感染性胃腸炎、咽頭結膜熱:全国約3,000カ所の小児科定点医療機関、流行性角結膜炎:全国約 700カ所の眼科医療機関)は週ごとに、週単位の集計数を保健所に届け出なければならない。2022年第1~23週のこれらの定点当たり報告数は、2017~2019年と比較し、同様かそれ以下の水準(レベル)で推移している。なお、傾向としても、2017~2019年と比較し、異なる動向は見られない。

・NESID病原体検出情報システム(病原体サーベイランス)における報告状況から、アデノウイルスが大きく流行している兆候は見られていない*(6月3日時点[一部6月16日時点])

 地方衛生研究所等が病原体サーベイランスに報告した病原体の検出情報(感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報)によれば、2022年においてアデノウイルス報告数が増加している、あるいは高いレベルで推移している兆候は見られていない。

 

 なお、小児科定点から報告のあった、胃腸炎症状(下痢、嘔気・嘔吐、腹痛)を認めた症例に限定した病原体サーベイランスに報告された病原体においても、2022年のアデノウイルス報告数は増加をみとめず、低いレベルで推移している(6月16日時点)。感染症発生動向調査では2021年末~2022年上旬に、小児科定点より感染性胃腸炎の定点当たり報告数が増加したが(2017~2019年の同時期とほぼ同レベル)、この時期に病原体サーベイランスに小児科定点より胃腸炎症状として報告された大部分の症例からはノロウイルスが検出され、アデノウイルスの検出は少なかった。アデノウイルスの検出は、2020年の4月以降、低いレベルで推移しており、2017~2019年の同時期の検出数よりも少ない傾向が続いている。

病原体サーベイランスにおいて、2017年1月~2022年4月までに、「肝炎」の記載があり、検体よりアデノウイルスが検出された4例が報告された(2017年に3例、2019年に1例)。いずれも3歳未満であり、アデノウイルスの型は1型、5型、6型のいずれかであった。また、「肝機能障害」の記載があり、検体よりアデノウイルスが検出された症例は、例年数例ではあるが報告されており、その大半が小児であった。なお、2022年現在は4例報告されているが、例年と同様な報告数である。

*病原体サーベイランスにおいては、検出から報告までの日数に規定がないため、報告が遅れる可能性があり、特に直近の情報については、解釈に注意が必要である。

 

〇学会等の医師ネットワークや、小児肝移植を行う医療機関においても、小児の重症肝炎や移植例が増えているという事実は現在のところ確認されていない。

 感染症発生動向調査にご参加、ご協力をいただいている全国の医療機関、保健所、自治体本庁、そして地方衛生研究所の関係各位に心より感謝申し上げます。

  

【訂正】                        

(2022/7/6)急性肝不全の診断基準を満たす症例数及び割合について訂正しました。

 

 

参考資料

  日本の感染症サーベイランス(2018年2月現在) 

  国立感染症研究所 感染症発生動向調査週報(IDWR)

  国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR) 

 

関連項目

  複数国で報告されている小児の急性肝炎について     

 

 

クラスター対策班接触者追跡チームとしての疫学センター・FETPの活動報告(2)

2020年10月2日現在

国立感染症研究所 感染症疫学センター

国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース

 

■ はじめに

2020年2月25日、国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策を目的として厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部にクラスター対策班が設置された。同班のうち接触者追跡チームは国立感染症研究所感染症疫学センターの職員、実地疫学専門家養成コース(FETP)研修生、FETP修了生を主体として構成され(以下、現地派遣チーム)、各都道府県の派遣要請に応じて現地において対策支援を行い、その後も必要に応じて遠隔支援を行っている。

FETPとは感染症危機管理事例を迅速に探知し適切に対応できる実地疫学専門家の養成コースで、1999年に設置された(https://www.niid.go.jp/niid/ja/fetp.html)。自治体の要請にもとづき現地へ派遣され、感染症法第十五条に基づく積極的疫学調査の支援を行っている。当該派遣においては、「感染症危機管理人材養成事業における実地疫学調査協力に関する実施要領(平成一二年二月一七日発)」に基づき守秘義務が課されており、要請機関の自治体の承諾なく、個人・施設や自治体を特定される疫学情報を外部に公表することはない。

以下に、2020年2月25日~10月2日の期間において現地派遣チームが対応した事例の概要を報告する。

 

■ 活動実績

2020年10月2日時点で現地派遣チームが関与した事例は計118事例であった。派遣されたのは、国立感染症研究所の職員17名、FETP研修生14名(3月までの研修生3名を含む)、外部組織に所属する21名(FETPを3月で修了し、 4月以降に外部所属となった1名を含む)の計52名であった。外部組織に所属する派遣者のうち13名はFETP修了生(うち1名は3月までの研修生との重複)であった。また派遣先自治体等に所属するFETP修了生9名が共に活動した。事例の主な発生場所について、医療施設、高齢者または福祉施設、事業所、娯楽施設(カラオケ、ジムなど)、接待を伴う飲食店、飲食店、その他の場所、として分類可能な事例が計107事例あった。これらのうち、複数の事例があったものについての派遣期間は、表1.のとおりだった。

派遣先では各自治体の要望に応じて、症例や濃厚接触者のデータベース作成、データのまとめ及び記述疫学、クラスターの発生要因や感染ルートの究明、市中感染の共通感染源推定等の疫学調査支援、医療機関や福祉施設等における感染管理対策への助言、他自治体や関係機関との連絡調整等を行った。

 

医療施設

高齢者

福祉施設等

事業所

娯楽施設

接待伴う

飲食店

飲食店

学校等

事例数

48

21

10

9

6

5

4

現地の活動日数
中央値 (範囲)

5.5 (1-52)

5 (1-22)

1.5 (1-22)

8 (1-22)

5 (1-17)

2 (1-11)

8.5 (6-10)


 

■ 発生場所別の特徴

1報(2020520日現在)https://www.niid.go.jp/niid/ja/jissekijpn/9744-fetp.html で報告した内容を表2に抜粋し再掲する。

医療施設

【推定された主な感染拡大経路】
・患者→職員:看護、介護等の業務に伴う飛沫、身体接触の多いケアを中心とする接触感染
・職員間:食堂、休憩室、更衣室などの換気しにくく、狭く密になりやすい環境での飛沫、接触感染、また、物品の共有(仮眠室のリネン、PHS等)
【感染対策上の主な問題点・課題】
COVID-19が疑われていない場合の不十分な標準予防策
・基本的な手指衛生の不徹底
・不十分あるいは不適切な個人防護具(PPE)の使用
・不適切なゾーニング
【感染管理体制の主な問題点・課題】
Infection Control Team, Infection Control Nurseの機能が不足
・指示系統が未確立
・データ管理体制が備わっていない
・関係者間の情報共有が不十分で全体像把握と初期対応の遅れ
【医療体制への影響】
・多くの職員が感染者や濃厚接触者となった場合、病棟や病院の機能維持が困難となった

高齢者・福祉施設等

【感染対策上の主な問題点】
入所者や施設機能の以下の特徴から必要な感染対策の厳守が難しい
・介護支援等で密接に接触する機会が多い
・職員が必ずしも感染管理に精通していない
・感染対策に関する研修や日常的な指導ができる職員が福祉施設に常勤していることは稀
【医療体制への影響】
・多くの職員が感染者や濃厚接触者となった場合、施設の機能維持が困難となった

事業所、娯楽施設、接待を伴う飲食店、その他の飲食店など

【推定された主な感染拡大経路】
密な空間で長時間、近距離で接触する環境が挙げられ、多くの人がマスク等を外す場面でその傾向が強かった

その他、共通した課題等

・患者本人や家族、または勤務先や通学先に対しての差別、偏見で苦しむ者が多く見受けられた
・渡航者に対応する職業の従事者や、複数の職業・職場を兼務していることが異なる職域への感染拡大の要因となった事例を認めた

表2.事例の概要[1報(2020520日現在)https://www.niid.go.jp/niid/ja/jissekijpn/9744-fetp.html を再掲]

 

これらに加えて、発生場所ごとの複数の事例で認められた特徴として次のようなことが挙げられた。今後、これらの事例のまとめについては本HP上で続報するため、ここではごく簡単に述べるにとどめる。

 

〇医療施設

・院内での集団発生の発端と推定された患者について、治療中(経過観察中を含む)である基礎疾患の病態や治療状況、または受診の契機となった病態(外傷含む)、症状、臨床経過などからCOVID-19を疑うことが困難な場合、診断の遅れが院内での拡大につながった事例が複数認められた。

・一方、COVID-19専用病棟での職員の感染は、対応した事例のなかでは認めなかった。

・環境から職員への感染について、掃除時の間接的な接触感染によると推定された。

・患者との接触機会があるが、これまでは感染予防策を厳密に求められることが少なかった職種の医療従事者が、感染拡大に寄与した可能性があった。
 ・非常勤や外部嘱託職員に対する感染管理教育や研修が不十分であった。

 

〇高齢者・福祉施設

・平時の感染管理の教育や研修の機会が乏しい介護職員が、突然PPEを付けて対応せねばならない状況になり、適切なPPE使用を徹底するのに感染管理の専門家が常時張り付かねばならなかった事例が複数認められた。

・入所型施設で集団発生が起き、併設する通所型施設の利用者で感染が広がった事例が認められ、施設から利用者への迅速な連絡で、他施設での濃厚接触者が最小限に抑えられた事例が認められた。

・入所者の健康観察と記録はできていたが、職員の健康観察に関し記録がない施設で集団発生が起き、全体像の把握や感染源・感染経路のタイムリーな評価が困難であった事例が複数認められた。

 

〇事業所

・マスク着用不徹底に加えて、オフィスにおける換気が不十分だった(例:換気が悪い部屋での休憩時間の食事、換気が悪い部屋における、マスク着用なしのミーティング)。

 

〇娯楽施設、接待を伴う飲食店、その他の飲食店など

・従業員同士による店舗以外での環境での感染拡大が推測された。

・大声を出す活動(昼カラオケ、ホストクラブ、など)で、感染が広がった可能性がある事例が複数確認された。

なお、検査体制が充実したことに伴って、接触者に対する検査適応が拡大していた一方で、濃厚接触者の丁寧な同定と、その後の経過観察が疎かになる傾向も観察された。無症状の濃厚接触者の検査結果が陰性であった場合でも、健康観察期間中の陽性化や発症の可能性があることを十分に説明し、適切に拡大防止策を行うことが重要である。

 

■ まとめ

 これまで現地派遣チームが関わったCOVID-19集団発生事例についてごく簡単にまとめた。事例毎の詳しい特徴や調査・対応における課題については、引き続き報告する予定である。

 接触者調査の現地支援は、現地における対応の方針や枠組み、対応に従事している関係者を尊重・理解し、信頼関係を築いたうえで行うことが最も重要である。ここで取り上げた事例についても、自治体、事例が発生した施設等の関係者との信頼関係、協力がなければ調査を完遂できなかった。この場を借りて関係者の皆様へ深謝したい。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan