
日本脳炎ワクチンとは。
日本脳炎ワクチンは、不活化ワクチンです(不活化とは、ウイルスの感染性をなくすことです)。日本脳炎ワクチンは、1954年我が国で開発されたワクチンで、その製法はマウスの脳にウイルスを接種し、発病したマウスの脳を採取して、不活化後に高度に精製したワクチンです。日本脳炎ワクチンの製造技術は、タイ・ベトナム・インド・韓国・台湾などに供与され、アジアの日本脳炎制御に大きく寄与している。中国では弱毒生ワクチンも使用されていますが、WHOによって承認されているワクチンは現行のマウス脳由来不活化ワクチンです。培養細胞(Vero細胞)を用いた組織培養由来不活化ワクチンが新たに開発され、2009年6月2日より市場に供給される予定です。
*Vero細胞:千葉大学医学部 安村美博先生によって1962年にアフリカミドリザル腎臓細胞より樹立された細胞株で、WHOがワクチン製造に使用することを認めている数少ない株化細胞である。
⇒Vero細胞樹立に関しては、清水文七先生の著書「ウイルスの正体を捕らえる ヴェーロ細胞と感染症」(朝日選書)をお読みください。
米国のワクチンメーカーが、2009年8月6日初回製造を終了した新型インフルエンザワクチン(A/H1N1)もこのVero細胞を用いて製造されたものです。
臨床症状
日本脳炎の潜伏期は6〜16日間といわれる。本症の定型的な病型は、髄膜脳炎型というべきであるが、脊髄炎症状が顕著な脊髄炎型というべき症例もある。典型的な症例では、数日間の高い発熱(38〜40℃あるいはそれ以上)、頭痛、悪心、嘔吐、眩暈などで発病する。小児では腹痛、下痢を伴うことも多い。これらに引き続き急激に項部硬直、光線過敏、種々の段階の意識障害とともに、神経系障害を示唆する症状、すなわち筋強直、脳神経症状、不随意運動、振戦、麻痺、病的反射などが現れる。感覚障害は稀であり、麻痺は上肢で起こることが多い。脊髄障害や球麻痺症状も報告されている。痙攣は小児では多いが成人では10%以下である。単なる発熱を示す症例や髄膜炎を示す症例も報告されている。
検査所見では、末梢血白血球の軽度の上昇がみられる。急性期には尿路症状がよくみられ、無菌性膿尿、顕微鏡的血尿、蛋白尿などを伴うことがある。髄液圧は上昇し、髄液細胞数は初期には多核球優位、その後リンパ球優位となり10〜500程度に上昇することが多い。1,000以上になることは稀である。蛋白は50〜100mg/dl程度の軽度の上昇がみられる。
死亡率は20〜40%(国内での過去25年間では約17%)で、幼少児や老人では死亡の危険は大きい。精神神経学的後遺症は生存者の45〜70%に残り、小児では特に重度の障害を残すことが多い。パーキンソン病様症状や痙攣、麻痺、精神発達遅滞、精神障害などである。
治療・予防
特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。高熱と痙攣の管理が重要である。脳浮腫は重要な因子であり、脳圧亢進に注意しなければならない。日本脳炎の予後が30年前と比較しても死亡例は減少したが全治例は約3分の1とほとんど変化しておらず、治療の難しさが明らかである。従って日本脳炎は予防が最も有効な疾患である。予防の中心は、予防接種と蚊の対策である。日本脳炎の不活化ワクチンが予防に有効なことは、すでに証明されている。
病原体
日本脳炎はフラビウイルス科に属する日本脳炎ウイルスに感染することによっておこる。このウイルスは、伝播様式からアルボウイルス(節足動物媒介性ウイルス)とも分類される。日本などの温帯では水田で発生するコガタアカイエカが媒介するが、熱帯ではその他数種類の蚊が媒介することが知られている。ヒトからヒトへの感染はなく、増幅動物(ブタなど)の体内でいったん増えて血液中にでてきたウイルスを、蚊が吸血時に取り込み、1〜2週間後にヒトを刺した時にヒトが感染する。ブタは、特にコガタアカイエカの吸血源として好まれること、肥育期間が短いために毎年感受性のある個体が多数供給されること、血液中のウイルス量が多いこと等から、一番の増幅動物となっている。しかし、日本脳炎ウイルスは、ブタ以外にヒト、ウシ、ウマ、ヤギ、イヌ、イノシシ、キツネ、マウスなどの哺乳類。サギ、シチメンチョウ、ツル、ガンなどの鳥類。トカゲなどのは虫類にも感受性がある。ヒトでは血中に検出されるウイルスは、一過性であり量的にも極めて少なく、自然界では終末の宿主である。また、感染しても日本脳炎を発病するのは百人〜千人に一人程度(異なる調査結果であるため数字に幅がある。)であり、大多数は無症状に終わる。フラビウイルス属のなかでも、特に日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス(1999年より夏期に北米で流行している)、セントルイス脳炎ウイルス、マレーバレー脳炎ウイルスは相同性が非常に高く、これらは日本脳炎血清型群(Japanese
encephalitis serocomplex)とよばれる。
<日本脳炎の発生地域> 中国西域・北部は日本脳炎ウイルスの活動があるという報告はない。

主にコガタアカイエカによって媒介される日本脳炎ウイルスによっておこるウイルス感染症であり、ヒトに重篤な急性脳炎をおこす。日本脳炎ウイルスはフラビウイルス科に属するウイルスで、1935年ヒトの感染脳から初めて分離された。
日本脳炎
Japanese encephalitis
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| 2009年日本脳炎患者情報 | ||
| 発症地(県) (推定感染地) |
発病日 | 年齢・性別 |
| 熊本県 | 8月6日 | 7歳・男児 |
| 大阪府 (滋賀県でも感染機会有) |
8月22日 | 40歳代・女性 |
| 高知県 | 8月24日 | 18ヵ月・女児 |
| 2008年日本脳炎患者情報 | ||
| 発生地(県) (推定感染地) |
発病日 | 年齢・性別 |
| 茨城県 | 5月27日 | 60歳代・男性 |
| 愛知県* (奈良県でも感染機会有) |
8月23日 | 50歳代・男性 |
| 茨城県 | 9月9日 | 50歳代・男性 |
| 急性脳炎報告数 (日本脳炎、ウエストナイル脳炎を除く) |
|
| 年 | 報告患者数 |
| 2004 | 166 |
| 2005 | 188 |
| 2006 | 167 |
| 2007 | 216 |
| 2008 | 182 |
| 2007年日本脳炎患者情報 | 2006年日本脳炎患者情報 | 2005年日本脳炎患者情報 | ||||||
| 発生地(県) (推定感染地) |
発病日 | 年齢・性別 | 発生地 (推定感染地) |
発病日 | 年齢・性別 | 発生地 (推定感染地) |
発病日 | 年齢・性別 |
| 熊本 | 8月30日 | 60歳代・女性 | 高知 | 8月14日 | 46歳・男性 | 三重県 | 8月1日 | 68歳・男性 |
| 福岡 | 8月26日 | 40歳代・男性 | 熊本 | 9月2日 | 65歳・女性 | 佐賀県 | 8月18日 | 65歳・女性 |
| 石川 | 9月16日 | 80歳代・女性 (転帰:死亡) |
熊本 | 9月9日 | 48歳・女性 | 静岡県 | 9月15日 | 32歳・男性 |
| 石川 | 10月9日 | 60歳代・男性 | 熊本 | 9月10日 | 3歳・男児 | 熊本県 | 9月19日 | 72歳・男性 |
| 山口 | 10月6日 | 60歳代・男性 | 福岡 | 9月13日 | 68歳・男性 | 島根県 | 9月24日 | 71歳・男性 |
| 大分 | 9月10日 | 70歳代・女性 | 福岡 | 9月9日 | 58歳・男性 | 岡山県 | 9月12日 | 58歳・男性 |
| 島根 | 9月28日 | 70歳代・女性 | 島根 | 9月25日 | 53歳・女性 | 岡山県 | 9月23日 | 77歳・女性 |
| 愛知 | 9月22日 | 40歳代・女性 (転帰:死亡) |
茨城 | 8月5日 | 19歳・男性 | |||
| 鳥取 | 10月18日 | 40歳代・男性 | ↑上記茨城県の症例の報告は2007年であった。 | |||||
2007年日本脳炎患者発生状況は、9例のうち石川県で2例、愛知県で1例の報告があった点が特記すべき点である。
2006年の茨城県の症例が、2007年に広島県から報告されたため、2007年の報告数は10となったが、ここでは実際の発生状況を記した。
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