国立感染症研究所

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The Topic of This Month Vol.34 No.10(No.404)

水痘・帯状疱疹とそのワクチン

(IASR Vol. 34 p. 287-288: 2013年10月号)

 

水痘は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染による疾患で、感染症法に基づく5類感染症(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-19.html)、学校保健安全法による第2種学校感染症である。水痘発症後、VZVは神経節に潜伏し、免疫低下に伴い再活性化し、帯状疱疹を発症する。

水痘患者発生状況:流行季節は冬から春で、以後、秋にかけ漸次患者数が減少する。毎年、小児を中心に推定約100万人が発症しているが、この2~3年は、患者報告数がやや減少している(図1)。2010年までは80%近くの患者が4歳以下であったが、低年齢層への水痘ワクチン接種の増加を反映してか、その後はその割合が減少傾向にある(図2)。しかし、同じ小児科定点からの報告疾患である水痘と風疹を比較すると、1995年から男女幼児に定期接種が始まった風疹では患者が激減したのに対し、任意接種の水痘では多数の患者が報告され続けている。

重症化:VZVの感染力は強く、空気感染等で広がり、不顕性感染は極めて稀である。わが国では、ワクチン未接種で自然罹患した400人に1人以上が入院し、毎年20人弱が死亡していると推定されている(水痘ワクチンに関するファクトシート:国立感染症研究所、http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000bx23-att/2r9852000000bxqx.pdf)。わが国では、2004年以降、ワクチンで予防可能な疾患である麻疹、風疹、おたふくかぜ、水痘の中で水痘による死亡が最も多く報告されている。

国内の多くの小児医療専門施設で、院内発症が問題となっている。徹底した感染対策を行っている小児医療機関でも、院内での水痘発症は防ぎきれず、病棟閉鎖になる場合もある(http://www.theidaten.jp/journal_cont/20130328J-41-2.htm)。

移植など免疫抑制下にある児にとっては水痘発症が致命的となるため、外来を含めた院内感染対策の徹底が求められるとともに、移植患児に対する術後の水痘ワクチンの有効性・安全性を示すエビデンスが蓄積されている(本号3ページ)。さらに、白血病や悪性腫瘍などの免疫抑制状態下の患者では、病初期に特徴的な皮疹が出現せず、腹痛や腰背部痛で発症し、多臓器不全や播種性血管内凝固症候群に至る症例がある(本号4ページ)。ハイリスク児に加え、成人水痘は重症化することが多く、肺炎の合併もある(本号&7ページ)。

妊婦が妊娠20週頃までに水痘に罹患すると、1~2%の頻度で先天性水痘症候群が発生し、胎児・新生児に重篤な障害を起こし、死産に至る症例も稀に報告されている(本号8ページ)。また、分娩前5日~産褥2日間に妊産婦が水痘を発症した場合、新生児は胎盤を通してVZVに感染しているが、移行抗体がないため重篤化しやすい。

予防と治療:水痘の積極的な予防法は罹患前の水痘ワクチン接種である。しかし、罹患歴や予防接種歴がなくVZVに曝露した場合、曝露後3日以内に緊急ワクチン接種することで発症および重症化予防が可能である。健康保険適用はないが、曝露後予防に抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビルやバラシクロビルが使われる場合もあり、海外では水痘・帯状疱疹免疫グロブリン(VZIG)も使用される。重症水痘および重症化が予測されるハイリスク児の治療にVZIGの日本での認可と供給を求める医療現場からの意見も多い。

水痘ワクチンの接種状況:日本で開発された岡株水痘生ワクチンは、その有効性および安全性からみて世界保健機関(WHO)により最も望ましい水痘ワクチンであると認められている。わが国では、ワクチン接種対象として、生後12カ月以上の水痘既往歴のない者、ハイリスク群患者やその家族、医療関係者などが挙げられている。任意接種である水痘ワクチンの接種率は正確に把握されていないが、出生数に対するワクチン出荷量を基に、30~40%程度と考えられてきた。この2~3年、ワクチン接種に対する意識の高まり、地方自治体の接種費用助成の広がりから、生産量がこれまでの2倍程度に増加している(図3)。しかし、欧米での状況を受けて2回接種が拡大しているため、生産量に比例して接種率がその分増えているというわけではない。実際の接種率を把握する手立てが必要である。なお、地域により出生数に対するワクチンの出荷量に大きな差がある(図4)。

水痘ワクチンの安全性と有効性:ゼラチンフリーとなった2000年以降、健常児への接種で重篤な副反応は発生していない。また、ワクチン被接種者からの2次感染は極めて少なく、報告症例も世界で過去10件程度に留まっている。一方、その有効性は、1995年に定期接種となった米国での発症・入院・死亡者数の激減という疫学的状況が如実に語っている(本号9ページ)。1回接種者が流行中に中等度ないしは重症水痘に罹患する頻度は5%以下であり、軽症まで含めても水痘に罹患する頻度は15~20%程度である。水痘は2回接種でほぼ完全に予防できるので、2回接種が公衆衛生学的観点からも重要である(本号10ページ)。家族の看護負担も含めた費用対効果をみると、水痘ワクチンの有用性を示唆しており、現在厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会は、定期接種化に向けた検討を行っている。

帯状疱疹:宮崎県における調査によると(本号12ページ)、80歳までに3人に1人という高頻度での発症が推定されている。小豆島での調査では、水痘抗原皮内テストが帯状疱疹のリスク評価の指標となることが示された(本号14ページ)。帯状疱疹は、皮疹だけではなく、前駆痛から疱疹後神経痛の痛みにより、生活の質(QOL)が著しく低下する。また、帯状疱疹の1病型で、顔面神経麻痺を伴うRamsay Hunt症候群は難治性である(本号15ページ)。早期治療により軽症化を図れるが、抜本的にはワクチンによる制御が重要である。

帯状疱疹の発症と細胞性免疫能の低下に相関がある。水痘ワクチンで細胞性免疫能を増強し帯状疱疹を予防できるかが検討され、米国では2006年に米国食品医薬品局により帯状疱疹ワクチンが承認された。米国での臨床治験では、帯状疱疹発症頻度、疱疹後神経痛の発生、重症例が、それぞれ50%以上減少した。わが国の水痘ワクチンは、米国の帯状疱疹ワクチンと同じ岡株であり、同程度の力価を持っている。わが国では2004年から、水痘ワクチンによって、加齢等により低下したVZVに対する細胞性免疫が増強されることが添付文書の薬効薬理の項に記載されるようになった。

検査:水痘、帯状疱疹ともに臨床的診断は比較的容易であるが、確定診断として、抗体検査が、民間の検査センターで実施されている。なお、水疱部分に多量のVZVが存在するため、水疱内容液を用いれば、ウイルス分離や核酸検査によるウイルス遺伝子検出が可能であるが、健康保険適用にはなっていない。重篤例における病理所見については、本号16ページを参照されたい。

今後、水痘ワクチンの効果の把握と安全性管理を目的として、病原体サーベイランス体制を構築する必要がある。このために必要なワクチン株と野生株の比較的簡単な判別法は、「病原体検出マニュアル:国立感染症研究所」(http://www.nih.go.jp/niid/ja/labo-manual.html)に記載されている。

 

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