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Gavi, The Vaccine Allianceの活動について

(IASR Vol. 38 p.67-68: 2017年3月号)

Gavi, The Vaccine Alliance(Gavi)は, 2000年に開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で発足したグローバル・パートナーシップ機関である。予防接種を受ける機会がないため予防可能な感染症によって命を落とす子供たちが多くいる低所得国と, 予防接種支援のための出資国, 世界保健機関(WHO), 国際児童基金(UNICEF), 世界銀行, ビル&メリンダ・ゲイツ財団, ワクチン業界, 研究・技術機関や市民社会団体等をひとつに結びつけることで, 子供たちが予防接種を受ける権利の公平性を高め, 世界のワクチンギャップを改善することを目指した活動を行っている。2000年以降, Gaviの支援活動によって, 延べ5億人以上の子供たちが予防接種を受け, 700万人以上の命が救われてきたと推計されている1,2)

 2011年以降, 日本はGaviにおける重要な出資国であり, Gaviが支援する73の低所得国で実施されている予防接種と保健システム強化プログラム等に対し, Gaviは2016年までに日本から7,270万米ドルの出資を受けてきた。また, 2020年までに日本から受ける出資金は累計1億4,830万米ドルとなる見込みであり, これは2000年の設立以降, Gaviが受け取ることとなる出資金の累計総額211億米ドルの0.71%に相当する3)

Gaviの予防接種支援プログラムでは, 古くからある麻疹等のワクチンから, Gavi設立以降に利用可能となったHPVや肺炎球菌等の新たなワクチンまで, 合計11のワクチンが用いられ, 各ワクチンのプログラムに合わせて, 定期接種の導入, 定期接種導入後のフォローアップキャンペーン, 定期接種導入前や感染症が流行した際のキャッチアップキャンペーン等の支援が行われている。その他, 既存のワクチン以外に関しても, 必要なワクチンの開発を促進するため, エボラワクチンの開発企業との事前買取協定も締結している。また, 低所得国での予防接種の公平性を高めるためには, ワクチンそのものを提供するだけでは不十分であるため, Gaviはワクチンの品質を維持したまま運搬・保存するためのコールドチェーン体制の整備, 予防接種を実施する医療従事者のトレーニング, 予防接種記録の管理, 予防接種施策の評価体制の確立等, 予防接種に関わる基本的な医療体制を強化するための支援も合わせて行っている。これらの必要な支援の内容は, 各国の状況に合わせて適切に判断される必要があるため, 支援対象国が新たな支援を申請する際には, 支援ごとに定められた一定の基準を満たす必要があり, 加えて, 支援を申請する国は, 過去の予防接種施策の評価と問題点を抽出し, 現在の予防接種施策の取り組み状況や将来の計画等, 予防接種施策に関連する総合的な報告書を同時に提出することが求められる。これらの評価や報告書を独自に作成することが難しい場合には, 必要に応じてGaviの事務局やWHO等のパートナーから必要な支援等を受けることができる。提出された報告書は, 予防接種に関連する各領域の独立した外部専門家によって構成される独立審査委員会にて評価され, 追加での報告書の提出や支援内容の調整等, 推奨される具体的な対応がGaviに助言される。Gaviによる最終的な支援や方策等は, この委員会の推奨等に基づき, Gaviのパートナーによって構成される理事会(28議席)にて審議, 決定される。

Gaviは, 計画的かつ継続的に一定量のワクチンを供給すること, 複数の製薬企業からワクチンの提供を受けること等により, 最も低価格でワクチンを安定供給することを実現してきた。また, 経済状況に合わせた継続的な予防接種施策の支援のため, 定期接種プログラムでは, 支援対象国の国民1人当たりの所得(GNI per capita)によってGaviと支援対象国が負担するワクチン費用の割合が変動する協調融資政策を採用している。具体的には, 国民1人当たりの所得が年間1,045米ドル未満の低所得国におけるワクチン購入費用の負担額は, ワクチン1本当たり0.2米ドルで一定となる。これに対し, 国民1人当たりの所得が1,045米ドルを超えると毎年の国の負担金額が15%ずつ増加し, 1,580米ドル以上になると5年後からのワクチン費用の全額負担に向けて, 残りのGaviによる支援金額が毎年20%ずつ減額される2,4)。これは予防接種プログラムに対する各国のオーナーシップや持続性を高めるためにGaviが先鞭をつけたユニークな施策である。一方で, ワクチンの購入価格については, Gaviによる費用負担が終了した後にも一定期間, UNICEF等を通じてGaviにより提供されていた価格と同価格で, ワクチンを調達することができる。2016年時点では, 経済の発展に伴いブータン, ホンジュラス, モンゴル, スリランカ, ウクライナの5カ国がGaviによるワクチン購入費用の支援を終了し, 全額の費用負担へと移行している。

2016~2020年まで, Gaviは低所得国で予防接種を受けることのできる格差をさらに解消するため, 支援対象国やパートナーと協力しながら, 延べ3億人の子供たちのための予防接種支援を計画している。この活動によって, Gaviは全世界の半数以上の子供の予防接種に関わり, 将来的に1億人以上の子供たちが感染症から守られることで500~600万人の命が救われ, 800~1,000億米ドルの経済損失が回避されると試算されている1,5)。この5年間の支援計画のためにGaviが支出する95億米ドルの費用は, その97%が予防接種プログラムを直接支援するために使用される。また, 昨年12月に開催された理事会総会では, 紛争による影響で予防接種を受けるための環境が悪化しているシリアの子供たちへの予防接種に関する支援の開始, 2020年までに4,000万人の子供たちがHPVワクチンの接種を可能とするさらなる支援の促進, 2016年に大規模な流行がみられたアフリカ地域での黄熱への対策を強化するための追加支援の計画, 髄膜炎菌, コレラおよび黄熱の流行時に緊急使用するためのワクチンの備蓄システムの確立等について新たな決定がなされた。これらの支援の計画や方針に基づき, Gaviは今後も低所得国で予防接種を受ける権利の公平性を高め, 子供たちの健康や命を守るための活動を継続していく。

 

参考文献
  1. Lee LA, et al., Vaccine 18(31): B61-72, 2013
  2. Publications: Basic Facts about Gavi, The Vaccine Alliance(pptx 31.3MB)
    http://www.gavi.org/library/publications/gavi/basic-facts-about-gavi-101/
  3. Funding & Finance in Gavi web page
    http://www.gavi.org/funding/donor-contributions-pledges/
  4. Kallenberg J, et al., Health Aff 35(2): 250-258, 2016
  5. Stack ML, et al., Health Aff 30(6): 1021-1028, 2011

Senior Programme Manager
Vaccine Implementation
Gavi, The Vaccine Alliance*
 氏家無限 (*厚生労働省より出向)

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