国立感染症研究所

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成人の医療・介護関連肺炎と肺炎球菌

(IASR Vol. 34 p. 59-61: 2013年3月号)

 

緒 言
肺炎球菌は市中肺炎(CAP)において最も頻度の高い病原微生物であり1)、当院でのCAPと医療・介護関連肺炎(NHCAP)の前向きの研究でも肺炎球菌の頻度はそれぞれ34.8%、33.9%で最も多く2)、さらには悪寒・戦慄を呈した患者の菌血症のリスクは全くない患者に比べて12.1倍にのぼる(95% confidence interval [CI] 4.1-36.2)ともいわれており3)、臨床経過と患者背景などから疑われる場合には肺炎球菌に焦点を絞った抗菌薬の投与が望まれる。NHCAPは(1)療養型病院や介護施設に長期入院または入所中、(2)90日以内の入院歴がある、(3)介護度の高い高齢者、(4)透析・抗菌薬・抗がん剤の使用・免疫抑制剤内服中、などの項目のうち1つでも満たす場合とした。ここでは肺炎球菌と誤嚥の関係を中心に当院での経験をふまえ述べる。

肺炎の機序
肺炎球菌が、いったん患者の鼻咽頭に付着すると、鼻咽頭の菌が宿主の防御機構に打ち勝ってII型上皮細胞のある肺胞に嚥下して肺炎を起こすことが考えられる。当院での1年間の肺炎球菌肺炎の前向きでの検討では誤嚥の関与がNHCAPで62.5%、CAPで 8.7%で見られた(表12)。誤嚥性肺炎は本邦のガイドラインに準じて嚥下機能の低下や嚥下障害をきたしうる基礎疾患を評価し、水嚥下テストや必要に応じて嚥下透視造影を施行した4)。基礎疾患としては脳血管障害後遺症・認知障害・神経筋疾患・胃ろう造設後などがあった。沖縄県立中部病院におけるNHCAPとCAPでの起炎菌を見てみると、それぞれの群で約1/3 は肺炎球菌であり、NHCAP群では約1/4は多菌種の関与が示唆された(表2)。また、当院でのNHCAPで誤嚥のあった78例のうち32.1%にあたる25名は肺炎球菌が起炎菌として考えられた。 184例の原因の判明した症例における微生物の同定に関して検討したところ、48.0%は喀痰培養で、 4.6%が血液培養で原因菌の同定に至った。血液培養陽性例は重症呼吸不全や多臓器不全をきたしていることも多い。喀痰塗抹と培養で照合しているので原因菌の同定としては信頼度が高いと考える。

治療経過に関しては当院ではペニシリン系とセフェム系の抗菌薬の使用が大部分で、初期治療の失敗もNHCAP群、CAP群で14.6%、 7.0%にとどまり、抗菌薬のde-escalationもNHCAP群、CAP群で12.5%、12.3%にすぎず、初期の診断でしっかりと肺炎球菌を中心に適切な起炎菌の検索をすすめて治療選択を行えば、広域抗菌薬の使用は不要ということがわかった(表3)。

また最近、39例の肺炎球菌肺炎の胸部CT画像の検討で、区域性分布が65.7%であったという報告もある4)。これも肺炎の機序として中枢気道から誤嚥で気管支肺炎を起こした可能性が示唆される。

結論として、肺炎球菌はCAP、NHCAP、高齢者の肺炎の起炎菌として最も頻度が高い。また、肺炎球菌と誤嚥との関係を裏付ける報告も蓄積されてきており、肺炎球菌患者においての基礎疾患および嚥下機能の評価、口腔ケアやワクチンの接種など、多角的なアプローチでの予防・対策が必要となる。

 

参考文献
1) Bartlett JG, et al., N Engl J Med 333: 1618, 1995
2) Fukuyama H, et al., Published online J Infect Chemother, 25 January 2013
3) Tokuda Y, et al., Am J Med 118(12): 1417, 2005
4) Haroon A, et al., Intern Med 51: 3343-3349, 2012

 

沖縄県立中部病院呼吸器内科 喜舎場朝雄 福山 一

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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