国立感染症研究所

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2011年流行時におけるMycoplasma pneumoniae 感染症による入院患者由来臨床分離株の解析

(IASR Vol. 33 p. 264-265: 2012年10月号)

 

背 景
2011年の夏頃から始まった今回のマイコプラズマ肺炎流行の原因は明らかではないが、マイコプラズマ肺炎に対する今後の臨床および公衆衛生的な対応を検討するため、今回の流行期の臨床分離株性状を確認しておく必要があると考えられた。このため、マイコプラズマ肺炎で入院の患者から分離したMycoplasma pneumoniae 株の解析を行った。

方 法
検体採取対象者は2012年2月にマイコプラズマ肺炎が疑われ、入院となった患者とした。咽頭スワブもしくは鼻咽頭スワブを臨床検体とした。検体収集期間は2012年2月の1カ月間とし、調査に参加した医療機関にあらかじめ検体採取キット(咽頭スワブもしくは鼻咽頭スワブ採取用)を送付しておいた。マイコプラズマ肺炎疑い患者が入院した際にスワブ検体を採取し、直ちに常温で国立感染症研究所・細菌第二部あてに輸送してもらった。到着した検体について、培養法とLAMP法による検出検査1) を行った。培養法で陽性となり、分離されたM. pneumoniae 株からは、ゲノムDNAを抽出し、マクロライド耐性変異の有無を確認するために、23S rRNA遺伝子ドメインV領域の塩基配列解析を行った。また、すべてのM. pneumoniae 分離株について、抗菌薬の最小発育阻止濃度(MIC)を微量液体培地希釈法で測定した。さらに、p1遺伝子の型別とVNTR(variable-number tandem repeat)法によるタイピングを行った2,3) 。

結 果
1.収集された検体:検査期間中に受け付けた検体数は47件だった。患者数は46名で1名からは2件の検体が提出された。地域別の内訳は新潟が38件(80.9%)、静岡2件、名古屋2件、三重3件、大阪2件であった。男女比は男性が52.2%、女性が45.7%、記載なしが1例であった。年齢別では8歳までが最も多く27件、9~15歳が16件、16歳以上からは2件だった。最年少は1歳、最年長は39歳であった。

2.LAMP法と培養法:47件中LAMP法で陽性が27件(57.4%)、培養法での陽性が27件(57.4%)だった。これらのうち、LAMP法陽性で培養法陰性が1件、その逆が1件あった。M. pneumoniae が培養法で陽性検出されるまでには1週間以上を要するが、今回、陽性になるまでの培養日数平均は17日で、最短は7日だった。最長だったのは33日の培養を要した検体だった。

3.マクロライド耐性:分離株27株の23S rRNA遺伝子解析を行った結果、マクロライド耐性となるドメインV領域の変異が確認された株が22株であり、マクロライド耐性率は81.5%(22/27)であった。これらのうちA2063Gの点変異をもつ株が19株、A2063Tの点変異を持つ株が3株だった。

4.薬剤感受性試験:分離株27株すべてについて、8種類の抗菌薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、レボフロキサシン、シプロフロキサシン、ミノサイクリン、テトラサイクリン)に対するMICを測定した。その結果、2063位に点変異があった22株はマクロライド系、クリンダマイシンに耐性を示した(表1)。すべての分離株で、キノロン系、テトラサイクリン系に対するMICは、感受性菌である標準株M129と同等であった。

5.遺伝子型別p1遺伝子型別の結果、分離株27株のうち1型菌が25株(92.6%)、2c型菌が2株(7.4%)であった。また、p1遺伝子のAGT 3塩基繰り返し部位をマーカーとしたVNTR法の解析結果から、分離株は8タイプに分類された。その内訳は、type6が7株、type7が6株、type8が6株、type9が2株、type10が2株、type11が1株、type12が2株、type13が1株だった。同一患者から分離された2株はいずれもtype9であった。また、p1遺伝子型別で2c型菌であった2株はtype7であった。感受性菌5株はtype7が2株、type6、8、10がそれぞれ1株だった。

考 察
今回の入院患者を対象とした調査では、検体が採取された患者は、男女がほぼ同数で、年齢別では15歳までの学齢期がほとんどであった。今回提出された臨床検体47件からのM. pneumoniae の検出率は培養法、LAMP法ともに57.4%であり、適切に輸送と検査が行われた場合には培養法の感度が遺伝子検出法と同等であることが示された。医療機関における血清診断の結果が提出されたのは43件であった。このうち血清診断で陰性だった3例中の1例が培養法とLAMP法で陽性だった。一方、血清診断で陽性だったが培養法とLAMP法いずれも陰性となったものが15例あった。このうちの6例はEIA法による陽性判定だった。今回の検討で血清診断は、培養法、LAMP法との間にやや不一致の結果が多かった。今回の分離菌のマクロライド耐性率は81.5%であり、これは昨年報告された、日本の小児におけるM. pneumoniae 分離株の8割以上がマクロライド耐性になっているという報告4) とほぼ一致した結果だった。また、耐性株22株中A2063T点変異を持つ株が3株検出された。A2063Tは過去に中国3) と日本でも報告例があるが、比較的見つかることが少ない耐性変異である。このA2063T変異株のマクロライド耐性度はA2063Gを持つ変異株よりも弱い。マクロライド系とクリンダマイシン以外の抗菌薬については、今回の分離菌株はすべて標準株と同等のMIC 範囲であり、耐性菌の出現は確認されなかった(表1)。

遺伝子型別の結果、今回の流行期に分離された菌の大部分は1型のp1遺伝子をもつ1型菌だった。日本ではこれまで1型菌と2型菌が交互に優位になる現象が報告されていたが2) 、今回の調査で2型菌は検出されなかった。以前は2型菌は臨床検体から頻繁に検出される菌型だったが、2000年代初めに2型菌が優位となった時期以降、2型菌の検出は減り、近年はほとんど検出されない状況が続いている。代わりに2型菌の亜種、2a、2b、2c型菌が検出されるようになってきている。今回、1型菌以外に検出されたのも2c型菌だった。また、p1遺伝子のVNTRタイピングでは、同一地域や病院から送付された検体でもタイプが異なることが多く、今回のデータの範囲からは、この流行はクローナルな菌株によって起こっているような現象ではないと考えられる。

 

参考文献
1)吉野,他, 感染症学雑誌 82: 168-176, 2008
2) Kenri T, et al., J Med Microbiol 57: 469-475, 2008
3) Zhao F, et al., J Clin Microbiol 49: 3000-3003, 2011
4)生方,他, IASR 32: 337-339, 2011

 

国立感染症研究所細菌第二部
堀野敦子 見理 剛 佐々木裕子 鈴木里和 柴山恵吾
国立感染症研究所感染症情報センター
安井良則 谷口清州

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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