国立感染症研究所

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劇症型/重症溶血性レンサ球菌感染症患者分離株のemm 遺伝子型、2006~2011年

(IASR Vol. 33 p. 212-213: 2012年8月号)

 

A群レンサ球菌には、数多くの表層抗原因子が知られている。このうちM蛋白質は型特異的であり、100以上の型が知られていることから、菌の疫学マーカーとしてよく用いられている。M蛋白は、抗オプソニン作用を有し、細胞への接着にも関与しており、病原因子として知られている。分離株のM型別を行うことは病因との関連を知る上で重要である。M型別を血清学的方法ではなく、M蛋白をコードする遺伝子(emm )の塩基配列を決定することで、遺伝子による型別が可能となった。

2006~2011年までに衛生微生物技術協議会溶血性レンサ球菌レファレンスセンター(本号3ページ参照)に集められた劇症型A群レンサ球菌感染症患者分離株311株(2006年41株、2007年43株、2008年36株、2009年52株、2010年59株、2011年80株)について、emm 遺伝子型を調べた。311株のうち、307株がStreptococcus pyogenes 、4株がS. dysgalactiae subsp. equisimilis であった。全部で27種類のemm 遺伝子型の株が2006~2011年の間に分離された(図1)。最も多い型は、emm1 型で、54%(167株)を占める。続いて、emm28 (7.4%、23株)、emm89 (6.8%、21株)、emm3 (6.4%、20株)、emm12 (6.4%、20株)と続いていた。最も多かったemm1 型は、毎年最も多く分離された遺伝子型であり、2010年以降、分離比率が増加傾向にある(2009年40%; 2010年58%; 2011年70%)。S. dysgalactiae subsp. equisimilis と同定された分離株のemm 遺伝子型は、stG245stG485 であった。

G群レンサ球菌もA群同様emm 遺伝子を保有しており、emm 遺伝子型別が可能である。2006~2011年までに衛生微生物技術協議会溶血性レンサ球菌レファレンスセンターに集められた劇症型G群レンサ球菌感染症患者分離株69株(2006年9株、2007年2株、2008年7株、2009年12株、2010年17株、2011年22株)について、emm 遺伝子型を調べた(図2)。69株すべてS. dysgalactiae subsp. equisimilis であった。全部で13種類のemm 遺伝子型の株が2006~2011年に分離された。最も多い型は、stG6792 型で、26%(18株)を占めた。続いて、stG485 (12%、8株)、stG245 (10%、7株)、stG2078 (10%、7株)と続いていた。A群と異なり、最も多く分離されたemm 型は毎年異なっている(2006年 stG485 、2007年 stG652stG2078 、2008年 stG245 、2009年 stG6792 、2010年 stG6792 、2011年 stG245stG652stG6792 )。

A群レンサ球菌やG群レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症が近年増加していることから、どのような遺伝子型を示す株がこの感染症を引き起こしているか把握するためにも、さらなる調査が必要である。

 

国立感染症研究所 池辺忠義 大西 真
大分県衛生環境研究センター 緒方喜久代
山口県環境保健センター 富永 潔
大阪府立公衆衛生研究所 勝川千尋
神奈川県衛生研究所 大屋日登美
東京都健康安全研究センター 奥野ルミ
富山県衛生研究所 嶋 智子
福島県衛生研究所 千葉一樹

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