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Kudoa septempunctata 特異的リアルタイムPCR

(IASR Vol. 33 p. 155-156: 2012年6月号)

 

ヒラメの喫食に伴う嘔吐・下痢といった食中毒症状の原因は、新種の粘液胞子虫、Kudoa septempunctata であることが明らかになった1,2) 。このK. septempunctata を検出する目的で、厚生労働省通知(2011年7月11日付、食安監発0711第1号)で「ヒラメからのKudoa septempunctata 検査法(暫定)」という、リアルタイムPCRによる検査法を紹介した。しかし、その後の研究で、K. thyrsites K. lateolabracis といったヒラメに寄生するクドア属にも交差することが判明し、改良を行ったので紹介する。

クドアを含むミクソゾア門に属する粘液胞子虫類は、1,200種以上も知られており3) 、未知のものも多く存在すると考えられる。K. septempunctata の病原因子が見つかれば、K. septempunctata しか持たない(特異的な)遺伝子をターゲットにPCRを設計できると考えられる。しかしながら、K. septempunctata 特異的遺伝子が分かっていない現時点では、もっとも解析の進んでいるrDNAをターゲットにしたPCRを設計するのが最善の策と考えられる。K. septempunctata の18S rDNAの比較的上流に、特異的と考えられる配列があり()、それを基にリアルタイムPCRを設計した。プライマーとプローブの配列は以下の通りである。

Forward primer: AATACATAGCAAATCTCACCATGTAAATG
Reverse primer: TGCTCAGTTATTAGGATTCATCAAATG
Probe: FAM-TGGGAGCATTTATTAGACTCGACCAACTGG-TAMRA

95℃ 10分に続き、95℃ 15秒と60℃ 1分を45サイクルで検出する。この検出系は、「ヒラメからのKudoa septempunctata 検査法(暫定)」とほぼ同じ感度を有している。

ヒラメを含む食事で食中毒が発生しても、ヒラメの残品がない場合が多い。そのような場合、患者の吐物や便からのクドアの検査が求められる。吐物に関しては、遠心してその沈渣に対して、通知法にあるQIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN社)を用いて「組織からのプロトコール」に従って抽出すれば、検出可能である。便からのDNA抽出に関しては、QIAamp DNA Stool Mini Kit(同社)という商品があるが、このプロトコールに従って抽出した場合、細菌のDNAは抽出できても、クドアからのDNA抽出はうまくいかない。そこで、便からのクドアDNA抽出には、次のような操作を行っている。便の5%乳剤を作製し、遠心する。その沈渣を再懸濁し、ホモジナイズ後、100μmのフィルターでろ過する。そのろ過物を、30% Percollに重層し、遠心し、Percollの下にできた沈渣を得る。その沈渣を遠心により洗浄した後、QIAamp DNA Mini Kitを用いて「組織からのプロトコール」に従って抽出している。しかしながら、このような煩雑な作業は、ルーチン業務としては不適切であり、より簡便な抽出方法の確立が求められる。

なお、18S rDNAは、すべての真核生物が保有するハウスキーピング遺伝子であり、その塩基配列は比較的よく保存されている。クドア属間でも、その配列はよく保存されているため、今まで報告されていないクドア属等と交差する可能性も否めないが、現時点では交差反応は認められない。また、よく保存されている18S rDNAではあるが、K. septempunctata においてもわずかではあるが変異が確認されており、検出できない株も存在する可能性があるが、現時点では見つかっていない。

 

参考文献
1) Matsukane Y, et al ., Parasitol Res 107: 865-872, 2010
2) Kawai T, et al ., Clin Infect Dis 54: 1046-1052, 2012
3)横山 博, 原生動物学雑誌 37: 1-9, 2004

神戸市環境保健研究所微生物部 飯島義雄

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