国立感染症研究所

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<速報> 国内で初めて診断された重症熱性血小板減少症候群患者

(掲載日 2013/1/30)

 

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome,SFTS)はブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新規ウイルス、SFTSウイルス(SFTSV)、によるダニ媒介性感染症である。2011年に中国でSFTSと命名された新規感染性疾患が報告されて以来1) 、中国国内の調査から現在7つの省(遼寧省、山東省、江蘇省、安徽省、河南省、湖北省、浙江省)で患者発生が確認されている1, 2) 。国内で初めて、発熱や血小板減少等の症状を呈し亡くなられた患者が、ウイルス学的にSFTSVによる感染症と診断されたので報告する。

2012年秋、海外渡航歴のない成人患者に、発熱、嘔吐、下痢(黒色便)が出現した。入院時身体所見では、明らかなダニ咬傷はなく、血液検査所見では、白血球数(400/mm3)と血小板数(8.9×104/mm3)が著明に低下していた。また、AST、ALT、LDH、CKの高値が認められた。血液凝固系の異常、フェリチンの著明な上昇も認められた。尿検査で血尿、蛋白尿が認められた。胸腹部単純CTでは右腋窩リンパ節腫大を認めた。骨髄穿刺検査により、マクロファージによる血球貪食像を伴う低形成髄の所見が認められた。その後に四肢脱力および肉眼的血尿と多量の黒色便を認め、全身状態が不良となり死亡した。入院中に採取された血液からウイルスが分離され、SFTSVと同定された。また血液中にSFTSV遺伝子が含まれることが確認された。血清はELISA、IF法によるSFTSVに対する抗体検査において陰性であった。病理組織においてSFTSVの抗原及び核酸が確認された。

SFTSVは3分節の1本鎖RNAを有するウイルスで、クリミア・コンゴ出血熱やリフトバレー熱、腎症候性出血熱やハンタウイルス肺症候群の原因ウイルスと同様にブニヤウイルス科に属する。中国からの報告では、マダニ[フタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis )、オウシマダニ(Rhipicephalus microplus )]からウイルスが分離されており1, 3) 、SFTSVの宿主はダニであると考えられている。また、ダニに咬まれることの多い哺乳動物からSFTSVに対する抗体が検出されていることから、これらの動物もSFTSVに感染するものと考えられる1) 。ヒトへの感染は、SFTSVを有するダニに咬まれることによるが、他に患者血液や体液との直接接触による感染も報告されている4) 。ウイルス血症を伴う動物との接触による感染経路もあり得ると考えられる。SFTSVに感染すると6日~2週間の潜伏期を経て、発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)、頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸器症状(咳、咽頭痛)、出血症状(紫斑、下血)等の症状が出現し、致死率は10%を超える1, 5) 。SFTSはダニ媒介性ウイルス感染症であることから、流行期はダニの活動が活発化する春から秋と考えられる。ダニは日本国内に広く分布する。ただし、詳細はこれからの研究を待たなくてはならない。

確定診断には、血液などからのSFTSVの分離・同定、RT-PCRによるSFTSV遺伝子検出、急性期及び回復期におけるSFTSVに対する血清IgG抗体価、中和抗体価の有意な上昇の確認が必要であり、現在国立感染症研究所ウイルス第一部で検査が可能である。治療に関しては、リバビリン使用の報告があるが2) 、その有効性は確認されていない。基本的に対症療法となる。有効なワクチンはない。

医療機関における院内感染予防には、ヒトからヒトに感染する接触感染経路があることから4) 、標準予防策の遵守が重要である。また、臨床症状が似た患者を診た場合にはSFTSを鑑別診断に挙げることが重要である。

SFTSVに感染しないようにするには、ダニに咬まれないようにすることが重要である。草むらや藪など、ダニの生息する場所に入る場合には、長袖の服、長ズボン、足を完全に覆う靴を着用し、肌の露出を少なくすることが重要である。

SFTSが疑われる患者を診た場合には、最寄りの保健所、または、国立感染症研究所問い合わせ窓口(info[アットマーク]nih.go.jp)に連絡していただきたい。

*[アットマーク]は@に置き換えて送信してください。

 参考文献
1) Yu XJ, et al., N Engl J Med 364:1523-32, 2011
2) Li S, et al., Biosci Trends 5:273-6, 2011
3) Zhang YZ, et al., J Virol 86:2864-8, 2012
4) Tang X, et al., J Infect Dis ahead of print. 2013
5) Xu B, et al., PLoS Pathog 7:e1002369, 2011

国立感染症研究所ウイルス第一部 西條政幸 下島昌幸
同感染症情報センター 山岸拓也 大石和徳
同獣医科学部 森川 茂
同感染病理部 長谷川秀樹

 

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