国立感染症研究所

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小さいカメ由来のサルモネラ症集団発生―米国

(IASR Vol. 37 p. 145-146: 2016年7月号)

米国において, 2011年5月~2013年9月までの間に41州とワシントンDCおよびプエルトリコにおいて, 473症例を含む8つのカメ関連サルモネラ症集団発生が確認された。集団発生事例は確認された順に番号が振られた。

患者の特徴と臨床的特徴:集団発生の規模は, 7症例(集団発生事例4)から124症例(集団発生事例1)まで, 幅があった。発症日は2011年5月23日~2013年9月9日の期間で, 発症数は2012年8月に最多となった。症例患者462症例の年齢の中央値は4歳(5週齢~94歳)で, 18歳未満の小児が症例患者の74%を占め, 55%は5歳未満, 23%は1歳未満であった。女性が?55%を占めた。274人について入院状況の情報が得られ, 78人(28%)が入院した。23例の入院期間の中央値は3日, 範囲は1~24日であった。死亡例はなかった。

患者の接触歴:273症例患者に聞き取りし, 187人(68%)はカメに接触していた(カメや飼育容器に直接接触あるいはカメと同じ部屋にいた)。カメへの接触は47%(集団発生事例2)から74%(集団発生事例1および3)の範囲であった。カメの入手先は, 91人中63人(69%)は追跡できないところ 〔露天商(34人, 37%), フリーマーケット(13人, 14%), 贈り物(19人, 21%)〕 であり, 12人(13%)だけが正規のペットショップであった。

質問票を用いて, 102症例患者に聞き取りしたところ, カメとの接触は家での接触が最も多く, 78症例患者(76%)であった。発症前1週間以内のカメあるいは飼育容器との直接の接触は, 88人中54人(61%)であった。幼児の22人中7人(32%)と5歳未満の小児56人中29人(52%)はカメと直接接触していた。接触したカメが4インチ(約10cm)未満であったのは141人中124人(88%), アカミミガメ(いわゆるミドリガメ)であったのが79人中64人(81%)であった。72人中33人(46%)は台所のシンクあるいはバスタブでカメの便を処理し, 54人中19人(35%)は容器を洗うときに, 台所のシンク, 浴室のシンクあるいはバスタブにカメを置いていた。

カメに接触した症例患者あるいは小児の保護者の94人中わずか14人(15%)しか, 爬虫類とサルモネラの関連性を知らなかった。

ラボラトリーおよび疫学調査:8つの集団発生事例において, 6種類の血清型(Salmonella Newport, S. Pomona, S. Poona, S. Sandiego, S. Typhimurium, Salmonella I, 4:i:-)が分離され, パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析により10種類のパターンに分類された。7つの集団発生事例(事例1~6, 8)では, 患者由来株の血清型とPFGEパターンが一致する株が, 事例に関連するカメや飼育場所から分離された。また, 2つの集団発生事例(事例3および6)では患者がカメを購入した店舗の容器から分離された。また, 集団発生事例と関連するカメの飼育容器の水試料から, 他の集団発生事例の関連株とPFGEパターンが一致する株が分離された。これらの結果からカメが共通の繁殖場に由来する可能性が示唆され, 2つのグループ(集団発生事例1, 2, 5, 6と3, 4)に分けられた。

さかのぼり調査:フロリダ州において小さいカメを販売していた5店舗を調査したところ, すべての店舗の飼育水からサルモネラが分離され, 4店舗から集団発生事例2, 3および4の株と一致する株が分離された。カメの出荷元を調べたところ, ルイジアナ州の2カ所の養殖場にたどり着いた。1カ所の養殖場から集団発生事例2および3の株が分離されたが, もう一方の養殖場からはサルモネラは分離されなかった。2カ所の養殖場に対して小さいカメの国内販売を停止する命令が出され, 患者数は2012年9月にはピークの半分以下に減少し, 翌月にはさらに減少した。

考 察:米国で1975年に施行された小さいペット用カメ(甲羅が4インチ未満)の販売禁止連邦法にもかかわらず, ペット用カメが購入できる状態になっている。さかのぼり調査が困難な露天商等からカメを購入している場合が多く, 出荷元の解明調査の弊害となった。

PulseNetの過去のデータを精査すると, 集団発生事例2および5の株は2006~2007年の集団発生事例の原因株であった。集団発生事例2の株は, 2004年の集団発生においてウィスコンシン州の土産物店で購入した小さいカメとリンクしていた。このような血清型とPFGEパターンが一致する株が感染者から分離された場合, 患者に対してカメとの接触を聞き取り, カメ関連サルモネラ症の可能性を考慮しなければならない。

(Pediatrics, 2016 Jan; 137(1): 1-9)

訳者注:米国では1975年にカメの販売が禁じられ, 小児サルモネラ症は減少した。しかし, 例外規定となる教育的・科学的使用, あるいは飼育容器におまけとしてカメを付ける行為などで, 販売は完全には禁止に至らず, 徐々に症例数が増えたとされる。国内では, カメとの接触を原因とするサルモネラ症に関連して 「ミドリガメ等のハ虫類を原因とするサルモネラ症発生事例に係る注意喚起について」(平成17年12月22日, 健感発第1222002号), 「カメ等のハ虫類を原因とするサルモネラ症に係る注意喚起について」(平成25年8月12日, 事務連絡)が厚生労働省より発出されている。加えて, 動物愛護法では販売業者がカメを含む爬虫類を販売する際には予防方法等を対面で説明することが求められている。カメ等のハ虫類とサルモネラ症との関連性は古くからの問題であるが, 本稿にもあるように海外ではたびたび流行を繰り返している。本稿を通じて改めて国内でも注意喚起を図りたい。

(抄訳担当:神奈川衛研・黒木俊郎
                 感染研・泉谷秀昌 大西 真)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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