国立感染症研究所

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<速報>麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)接種後に風疹に罹患した成人男性の1例-川崎市

(掲載日 2013/9/18)

 

川崎市において、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の副反応と風疹の罹患との鑑別に苦慮し、PCR検査で風疹の自然感染と判明した症例を経験した。

症 例:39歳男性、川崎市における「風しんの流行に伴う緊急対策事業」の接種対象であったため、2013年6月に麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を接種した。接種時の体温は36.3℃で、過去1カ月以内に家族や友人に麻疹、風疹に罹患した者はいなかった。勤務先の会社には、約1カ月前および3週間前に中国に海外出張した職員がいたが発症はなく、他に風疹に罹患した職員もいなかった。本人の海外渡航歴はなかった。

MRワクチン接種12日後に顔面および頭部に散在性紅丘疹が出現し、接種14日後には全身に広がったが、発熱はなかった。同日、医療機関を受診した際には、全身性発疹、頚部リンパ節軽度腫脹、耳介前部リンパ節腫脹、眼球結膜充血、膝関節痛が認められた。体温は36.8℃であったが、発疹が全身におよんでおり、麻疹、風疹などのウイルス感染症に罹患したか、あるいはワクチンによる副反応であるかの判別が困難であったため、ウイルス診断目的で血液、咽頭ぬぐい液、尿を採取し、症状消失まで自宅療養となった。

川崎市健康安全研究所でのPCR検査およびDNAシークエンス解析で、採取したすべての検体から遺伝子型1E風疹ウイルスが検出された。ワクチン株である遺伝子型1a風疹ウイルスではなかったため、自然感染により風疹に罹患していたことが判明した。

考 察:わが国では2012年の夏以降風疹患者が急増している。川崎市においても、2008年以降の届出数は年間1~3件であったものの、2011年、2012年は11件、71件と増加し、2013年は診断週第27週までの集計で440件と著増している。市内での大きな流行に伴い、川崎市では2013年4月22日より「風しんの流行に伴う緊急対策事業」としてMRワクチン接種費用の一部助成を開始した1)。今回の症例は、この事業を利用したMRワクチンの接種後2週間以内の発症例であったが、検出された遺伝子型よりワクチン接種による副反応ではないことが確定している。風疹の潜伏期間は2~3週間であるため、接種の2~9日前に流行株に曝露し感染したと考えられる。

風疹ウイルスの遺伝子型分類(genotyping)は、これまでに13の遺伝子型(1a、1B、1C、1D、1E、1F、1G、1h、1i、1j、2A、2B、2C)が報告されている2, 3)。かつてわが国では、遺伝子型1a 、1D、1jウイルスが時代とともに変遷しながら流行してきたが4)、近年では世界的な流行が認められている2B型が主流であり、次いで1E型が多い5)。2B型ウイルスは中東、ヨーロッパ、中南米、アフリカ、南~東南~東アジアで報告されており、1E型ウイルスは、中東、ヨーロッパ、アフリカ、西太平洋地域で発生している。

川崎市内で流行している風疹ウイルスも、その遺伝子型は2B型が多く、過去に1E型が検出されたのは2011年と2012年に各1件ずつ、計2件のみであった。今回検出された1E型は、2012年に検出されたものと遺伝子配列が100%一致しており、2011年に検出された1E型とは配列が異なることが確認されている6)。本症例は、2013年には市内で検出されていない遺伝子型のウイルスに感染しているが、感染経路は特定できておらず、海外から輸入されたウイルスに偶然曝露したか、あるいは輸入されたウイルスが国内に定着し今回の感染に至ったかは不明である。いずれにしても、ワクチン接種後の発症であったため、ワクチンの副反応との鑑別は難しく、感染対策および疫学的な検討を行う上でもPCR法による病原体遺伝子の検索は非常に有用であった。

結 語:本症例は、MRワクチン接種後にもかかわらず、抗体獲得前に野生株ウイルスに感染した事例であった。風疹特異的IgM抗体の上昇のみではワクチンの副反応との鑑別が困難な場合もあり、症状の程度や発症時期を考慮して速やかに遺伝子検査を実施し、感染対策につなげる必要があると考える。

 

参考文献
1)予防接種費用(麻しん風しん混合ワクチン)の一部助成について 川崎市ホームページ, http://www.city.kawasaki.jp/350/page/0000047465.html [accessed on 2013/9/11]
2)Abernathy ES, et al., J Infect Dis 204 Suppl 1: S524-532, 2011
3)IASR 34: 91-92, 2013
4) IASR 32: 260-262, 2011
5) IASR風疹ウイルス分離・検出状況 2012~2013年(2013年7月4日現在), http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-rubella.html [accessed on 2013/9/11]
6)IASR 32: 258-259, 2011

 

川崎市健康安全研究所 
  三﨑貴子 中島閲子 大嶋孝弘 丸山 絢 清水英明 岩瀬耕一 岡部信彦
内科小児科 宮島医院 
  宮島真之
川崎市川崎保健所 
  小河内麻衣 占部真美子 瀧澤浩子 雨宮文明
川崎市健康福祉局健康安全部健康危機管理担当
  小泉祐子 平岡真理子 瀬戸成子

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