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中央アメリカで曝露し米国の収容施設で発症した狂犬病による死亡、2013年―米国テキサス州

(IASR Vol. 36 p. 32: 2015年2月号)

症例報告:2013年5月、28歳のグアテマラ人男性が米国への不法入国により国境警備隊に逮捕された。7日後の米移民税関捜査局の収容施設において、不眠、不安、悪心、嚥下障害、流涎過多、喀痰を示した。その後入院した病院で、精神状態および呼吸状態は悪化していった。著しい末梢白血球数増加(好中球82%)、発熱(39.8℃)、血圧不安定、流涎過多、風に対する異常な恐れなどが認められた。脳のMRTでは異常所見はなかった。

血清検査で狂犬病ウイルス抗体が検出されたため、Milwaukee protocol (version 4.0)(実験的狂犬病治療プラン)により治療が開始された。CDCの確定検査では、血清中と脳脊髄液中に狂犬病ウイルス特異的中和抗体が認められた。

入院22日目に脳死が宣告された。皮膚、唾液、死後の脳組織から検出されたウイルスは、中米からのイヌの狂犬病ウイルス変異株と一致していた。患者は本国で犬を飼育していた(2011年に原因不明で死亡)が、家族からの報告や入院時や検死報告からも、動物による咬傷はなかった。家族からの希望により、遺体は感染予防対策を強化した防腐処置が施され本国へ送られた。

公衆衛生対応:ヒトでは十分な報告がないため、狂犬病発症10日前から唾液や涙からウイルスを排出するというイヌやネコなどでの研究結果をもとに、感染性を有する期間は発症14日前からとし、CDCとテキサス州の保健部門は接触者調査を開始した。感染性期間のうち、最初の7日間はメキシコにいたと推測され、8日目に逮捕、接触者調査を開始したのは37日目であった。収容施設4カ所、収容所の診療所、病院2カ所において、患者と接触があったと考えられる人がリスク評価の対象とされた。患者の唾液・涙と、皮膚の開放創や粘膜と直接接触した可能性が高い者には曝露後予防(PEP)が勧告された。調査では、ユニークなリスクのスコアリング(収容施設への入退出時の接触:スコア1、飲食物の共有がある所にいた場合:スコア2、発症時の患者との接触:スコア3とし、スコアを累積)を用いた。

リスク評価対象の収容者のうち、多くはすでに中南米の本国に送還されていたため、汎米保健機構(PAHO) の協力のもと、国際保健規則(IHR)に報告した。最終的には収容者、捜査取締官、医療従事者等の接触疑い例742人中、25人がPEPを勧告され受けた(収容施設でリスクありの37人中15人がPEP勧告。捜査関係者185人の調査では、実際の逮捕に関わった3人がPEP勧告。医療関係者44人の調査で、5人がPEP勧告され、曝露の根拠はなかったが2人が自発的にPEPを受けた)。

狂犬病は進行性の脳炎によりほぼ100%死亡し、世界では毎年約5万5千人が死亡している。米国では2003~2013年に34例の狂犬病の報告があり、そのうち10例(29%)は海外での曝露であった。今回は強制収容中という初めてのケースで、収容施設は密接な接触のある閉鎖空間であり、狂犬病に限らず、感染症の伝播や潜在的な病気に接触する環境である。法の執行官と公衆衛生担当官が協力することで迅速に潜在的リスクのある者を特定し、救命措置が行える。また、原因不明の急性進行性脳炎の入院患者で、特に狂犬病の常在地からきた患者で動物に曝露歴がある場合など、狂犬病の診断も考慮するべきである。

(CDC, MMWR, 63(20): 446-449, 2014)
(担当:感染研・木下一美、砂川富正)

 

 

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