国立感染症研究所

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ノロウイルス感染症 2015/16シーズン

(IASR Vol. 38 p.1-3: 2017年1月号)

ノロウイルス(Norovirus, 以下NoV)は一本鎖RNAウイルスで, GI~GVIIの遺伝子群(genogroup)に分けられ, GIとGIIが主にヒトに感染する。NoVの遺伝子型は, これまでCapsid N/S領域の配列による遺伝子型別(表記はGII/4等)が行われてきたが, 2015/16シーズンよりVP1領域の配列による新しい型別法による表記を用いている(「ノーウォークウイルス (ノロウイルス)の遺伝子型(2015年改訂版)」および本文中の比較表を参照; http://www.niid.go.jp/niid/ja/norovirus-m/norovirus-iasrs/5913-pr4274.html)。

 NoVは手指や食品などを介して経口感染し, ヒトの腸管で増殖し, 吐き気, 嘔吐, 下痢, 腹痛を引き起こす。特に乳幼児や高齢者では, 嘔吐・下痢によって脱水症状を起こすこともあるので, 水分摂取と栄養補給が重要である。

感染から発症に至る潜伏期間は24~48時間とされる。NoVは糞便および吐物中に大量に排出され, 症状消失後も数週間糞便中への排出が続き, 1カ月以上排出が続く事例も報告されている(IASR 31: 319-320, 2010)。NoVを含む乾燥した吐物等から感染する塵埃感染もある(IASR 28: 84, 200729: 196, 2008)。NoVによる感染性胃腸炎や食中毒は一年を通して発生しているが, 特に冬季に流行する(図1図4)。現在有効なワクチンはなく, 治療法は対症療法となる。
 

感染症発生動向調査における感染性胃腸炎患者発生状況とウイルス検出状況
 NoVによる胃腸炎は全国約3,000の小児科定点から報告される「感染性胃腸炎」(届出基準;http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-18.html)の一部として報告される。感染性胃腸炎患者報告数は年末に急増する(図1, http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1647-04gastro.html)。例年, 第49~52週(11~12月)にピークを迎え(ピーク時患者報告数10~20人/週), 第5~25週にかけて緩やかに減少する。

地方衛生研究所(地衛研)は, 病原体定点(小児科定点の約10%)の胃腸炎患者から採取された便検体および集団発生例の調査などで採取された検体の病原体検査を行っている。検出された病原体は, 感染症サーベイランスシステム (NESID)の病原体検出情報システムに「病原体個票」,「集団発生病原体票」を用いて報告されている。報告される胃腸炎ウイルスの中では, NoVが最多であり, 続いてロタウイルス, サポウイルスが多い。NoVは感染性胃腸炎患者報告数の増加する11~12月に, ロタウイルスは2月以降に多く検出される(図1, IASR 35: 63-64, 2014)。「感染性胃腸炎」散発例から検出された病原体を年齢別にみると, NoVは4歳以下の小児では約40%(36~49%)で, 15歳以上では例数は少ないが約60%を占めた (図2)。

全国の地衛研では, NoVの遺伝子型別を行っている。2015/16シーズン(2015年9月/第36週~2016年8月/第35週)に検出されたNoVの大部分は従来通りGIIで, GIは少数であった(図1)。2015/16シーズンに, 小児(0~15歳)の感染性胃腸炎患者からのNoV検出数は1,545例で, NoV GIIのうち未型別(38%)以外では, GII.4が最も多く(31%), 次いでGII.3(15%), GII.17(5%) であった(表1)。2015/16シーズンの流行では新たな遺伝子型GII.17 (GII.P17-GII.17 Kawasaki308類似株)の広がりがみられた(本号4, 5 & 6ページおよびIASR 36: 91-92175-178, 201537: 182-183, 2016)。NoV感染症はシーズンごとに流行する遺伝子型が異なるほか, 年齢群によっても流行する遺伝子型が異なることが報告されている(図3, 本号10ページ)。

「集団発生病原体票」による報告では, 食品媒介疑いの「食中毒」や「有症苦情」, 人―人伝播や感染経路不明の胃腸炎集団発生などの事例(例: IASR 36: 26-27, 2015)から検出されたNoVが報告されている。NoV感染による集団発生事例の報告は10~11月から増加し, 春以降まで続く(図4)。2015/16シーズンにNoVが検出された集団発生事例は425事例(2014/15シーズンは575事例)で, そのうち食品媒介が疑われたものは108事例(25%), 人ー人伝播が疑われたものは242事例(57%) であった。推定感染場所では保育所, 飲食店, 小学校, 高齢者施設の順であった。全425事例中, GII.4が最も多く121事例(28%), 次いでGII.17が112事例(26%)であった(表2)。
 

食中毒統計
 厚生労働省(厚労省)の集計する食中毒統計でも, NoVを病因とする食中毒事件について報告されている(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html)(IASR 32: 352-353, 2011)。NoV食中毒事件は2014/15シーズン471件(患者数14,112人), 2015/16シーズン280件(同8,093人) であった(速報:平成28年12月1日報告まで)。2014/15シーズンには, 患者数500人以上の大規模食中毒事件が1件(576人)あった。両シーズンの原因施設別にみると, 飲食店が最も多く(560件, 75%), 次いで旅館(59件, 8%), 仕出屋(48件, 6%) であった。

NoV感染対策と今後の課題
 NoVによる食中毒および感染症の発生を防止するためには, 感染性胃腸炎の患者発生動向とNoV検出情報の把握と分析が欠かせない。厚労省は, 「感染性胃腸炎の流行に伴うノロウイルスの感染予防対策の啓発について」を毎シーズン発出し(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000143835.pdf)(2016/17シーズンは2016年11月22日付), 今シーズンはさらに2016年12月21日に「感染性胃腸炎の流行状況を踏まえたノロウイルスの一層の感染予防対策の啓発について」(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/dl/161222-01.pdftsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/dl/161222-01.pdf)を発出し, 注意喚起をしている。

NoVは通年検出されており, 非流行期にも集団発生事例は発生しているため(図1図4), 通年的な衛生管理が重要である。調理従事者による食品汚染による食中毒を防ぐためには, 手洗いや食品取り扱い施設での作業衣や手袋着用などを含めた基本的な衛生管理(IASR 33: 137-138334-335, 2012)および調理従事者の健康管理の徹底が望まれる(IASR 34: 265-266, 2013)。食中毒の原因を早期に究明し, 拡大を防止するために, 厚労省は「ノロウイルスによる食中毒の予防及び調査について」の通知を発出している(生食監発1124第1号, 平成28年11月24日:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000143826.pdf)。

NoVワクチンは「予防接種に関する基本的な計画(平成26年厚生労働省告示第121号)」において開発優先度の高いものと位置づけられている(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kihonteki_keikaku/index.html/kenkou/kekkaku-kansenshou/kihonteki_keikaku/index.html)。有効なワクチン開発には, NESIDによる病原体情報の活用も欠かせない。また, NoVの主要抗原遺伝子の変異・進化と抗原多様性, 計算科学の手法によるウイルス進化の予測等の解析がなされている(本号12, 1415ページ)。

2016/17シーズン速報
 小児の感染性胃腸炎からのNoV検出数は209例で, そのほとんどがGIIである(表1)。遺伝子型内訳では, GII.2が43例, GII.6が21例等であった。前シーズンと比較しGII.2の報告が増加している(本号17, 1819ページ)。集団発生病原体票では157事例が報告されている(表2図4)。うち74事例(47%)でGII.2が報告され, その推定感染場所としては保育所, 小学校, 幼稚園が多かった。ノロウイルス等検出状況はhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-noro.htmljp/niid/ja/iasr-noro.htmlに掲載されている。

 

 

 

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