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福岡市におけるノロウイルス(NoV)GII.17の検出状況

(掲載日 2016/11/25) (IASR Vol. 38 p.4-5: 2017年1月号)

当市では、2015年1月に初めてノロウイルス(NoV)GII.17を検出し、それ以降感染症および食中毒事例から継続的に検出したので、その概要について報告する。

当市において、感染性胃腸炎の集団および散発事例が発生した場合、原因究明および感染拡大防止のために、当研究所にて検査を実施しており、その事例は、食中毒調査事例と社会福祉施設等における感染症調査事例に分類される。食中毒調査事例では行政処分等を行う場合があることから、有症者便、施設の利用者便、利用施設の従業員便、食品、拭き取り検体等、多くの検体が搬入される。一方で感染症調査事例では、病院で原因が判明しなかった有症者の代表的な検体のみが搬入されることから、食中毒調査事例と比較して検体が少ない傾向にある。NoVの検査は、COG1F/G1SKRおよびCOG2F/G2SKRを用いたRT-PCR法で実施している。遺伝子型は、事例終了後概ね1月以内にPCR増幅産物のダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、近隣結合法(NJ法)による系統樹解析およびNorovirus Genotyping Tool(http://www.rivm.nl/mpf/norovirus/typingtool)により決定している。

2010年9月以降のNoV検出状況を表1、2に示す。2015年1月〜2016年3月までに、NoVは36事例(食中毒調査事例34件、感染症調査事例2件)から検出され、そのうちNoV GII.17が検出された事例は18件で、半数を占めていた。表3に2015年1月〜2016年3月までにウイルスを検出した36事例の遺伝子型を示す。GII.17以外の遺伝子型(GI.2、GI.3、GI.5、GI.6、GII.2、GII.3およびGII.4)は、すべて食中毒調査事例から検出された。

NoV GII.17を検出した18事例の概要を表4に示す。食中毒関係のGII.17は16事例から検出され、そのうち7事例についてはGII.17の他、GI.2、GI.3、GI.6、GII.3およびGII.4も同時に検出され、複数の遺伝子型が混在していた。さらに、そのうち3事例(事例8、14および16)については同一検体から2つの異なる遺伝子のNoVが検出された。なお、NoV GII.17が検出され、疫学調査の結果から食中毒の原因施設が特定された事例は6件(事例3、6、9、10、14および17)あったが、いずれも原因食品の特定には至らず、食品残品からNoVが検出された事例もなかった。感染症調査事例(事例2:1名、事例18:3名)は、2015年1月と2016年3月に発生し、4名と少ない検体ではあったが、全員からGII.17のみが検出された。

検出されたNoV GII.17の系統樹解析(338bp)の結果をに示す。検出されたNoV GII.17株はすべてKawasaki308類似株で、4つのクラスターを形成した。また、各事例間に地理的・時間的な偏りはなく、疫学調査においても関連性は認められなかった。食中毒関係の2事例(事例3、12)においては、同一事例の異なる検体から、異なるクラスターのGII.17株(事例3:2015/1/3-1、2015/1/3-2、2015/1/3-3、事例12:2015/12/12-1、2015/12/12-2)を検出した。

今後も、検出されたNoVの分子疫学解析を行い、各シーズンにおける流行の傾向等を監視していくことが、食中毒や感染症の原因究明と拡大防止のために重要であると思われる。

 

福岡市保健環境研究所
 古川英臣 松藤貴久 財津修一 中牟田啓子
福岡市保健福祉局食品安全推進課
 庄嶋貴之 高塚公章 日高千恵
福岡市保健福祉局保健予防課
 古賀順也 植山 誠 執行睦実

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