国立感染症研究所

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ノロウイルス遺伝子型GII.4 変異型の急速な拡大

(IASR Vol. 34 p. 45, 48: 2013年2月号)

 

2012年後半にノロウイルスの活動が世界的に活発化した。NoroNetネットワークを通じた遺伝学的データから、この流行は遺伝子型(G)II.4 の新しい変異型(Sydney 2012)の出現と関係すると考えられる。

ノロウイルスの流行拡大は2012年の後半に英国、オランダ、日本で疫学およびラボのサーベイランスから明らかになり、同様にオーストラリア、フランス、ニュージーランドでも示されていた。これが早期に流行が始まっただけなのか、真に流行拡大しているのかは判じがたいところであったが、英国での状況から後者が示唆された。英国のイングランドで病院でのノロウイルス感染が、イングランドとウェールズでの検査確定数よりも64%も多かった。日本でもノロウイルスに関連した高齢者の死亡がみられた。国際的な分子疫学的サーベイランスデータベースであるNoroNet に集められたオーストラリア、フランス、ニュージーランド、日本のデータから、この感染拡大はGII.4の新たな変異型の出現との関係が示された。この変異型が最初に報告されたのは2012年3月にオーストラリアからで、配列情報はGenBankにAccession No. JX459908.1として登録された。アメリカでは、2012年9月に検査確定22例のうち5例(23%)から変異型(Sydney 2012と命名)が見つかり、11月には検査確定71例中37例(52%)から検出され、アメリカのノロウイルスサーベイランスネットワークであるCaliciNet に登録された。ヨーロッパではノロウイルスの流行拡大はみられないものの、ベルギーから2例、デンマークから1例の新変異型が発見された。

ノロウイルスは世界中で急性胃腸炎の原因として1年を通じてみられるが、温帯地域の冬に特に多い。GII.4に属する株はここ十年来、多くの流行や急性胃腸炎の症例の原因であった。入院や死亡はGII.4の変異型が新たに出現すると増加する傾向にある。1995年以来、2~3年ごとに1度はGII.4の変異型が新たに出現してきた。ヒトにおける免疫獲得とウイルスの遺伝子ドリフトが主な原因である。新しい変異型が出現すると、流行が早期に始まる。今回のGII.4 変異型(Sydney 2012)は既存のGII.4 変異型から派生したもので、Apeldoorn_2007とNewOrleans_2009と祖先を共にするが、系統上異なる。P2ドメインの主要エピトープにアミノ酸変異がみられることが過去の流行拡大とも共通しており、ホストの集団免疫を逃れアウトブレイクを起こす可能性がある。

ノロウイルス流行拡大は2012年末に世界的にみられたが、これがGII.4の新変異株の出現と関係があるかどうかを確かめるにはより多くのデータが必要であり、分子的および疫学的なサーベイランス情報を収集するNoroNetへの参画を呼び掛けたい。分析ツールを含め、NoroNetのデータベースはすべての参加者が利用可能である。

流行の拡大に対して、医療機関は消毒衛生の徹底や患者の隔離を通じてアウトブレイクを最小限に抑える努力をするべきである。

(Euro Surveill. 2013; 18(1): pii=20345)

 

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