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遺伝子型Gムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎の流行―沖縄県

(速報掲載日 2016/03/29) (IASR Vol. 37 p.187-188: 2016年10月号, 表および図更新 2016/10/24)

沖縄県における流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、以下ムンプス)は、感染症発生動向調査を開始した1999年以降、全国と同様に4~5年間隔で流行を繰り返している。2014~2015年は、2009~2010年以来約5年ぶりとなるムンプスの流行が認められたことから、その概要について報告する。

患者発生状況:本県におけるムンプスの流行は、2014年第42週(10/13~10/19)に沖縄本島の中部保健所管内で定点当たり3.50人と注意報レベルに達したことを発端に、2009~2010年以来約5年ぶりの流行開始となった。その後、2015年第2週(1/5~1/11)に中部保健所管内で定点当たり8.92人と警報レベルに達し、第14週(3/30~4/5)には沖縄本島の北部保健所管内で定点当たり8.00人と警報レベルに達した。さらに、第38週(9/14~9/20)には離島の宮古保健所管内で、第50週(12/7~12/13)には八重山保健所管内で定点当たり7.00人と警報レベルに達し、両保健所管内では第53週(12/28~1/3)現在まで警報レベルが継続している。

病原体検出状況:2015年7月~12月に、県内の医療機関にてムンプスと診断された患者の咽頭ぬぐい液または唾液を、31例(北部6例、南部10例、宮古10例、八重山5例)採取した。これらを検査材料とし、ムンプスウイルス(以下MuV)のSH遺伝子領域を標的としたOne Step RT-PCR法によるウイルス遺伝子の検出およびウイルス分離を実施した。その結果、31例中27例がPCR陽性(87%)であり、このうち16例(59%)がウイルス分離陽性であった()。これまで世界中で報告されたMuVの遺伝子型は、A~Nの12群(E、Mは欠番)あるが1)、近年わが国で流行している遺伝子型はGのみである。GはさらにGeおよびGwの2系統に分類される2)。そこで、PCR陽性27例について、SH遺伝子領域(316塩基)の塩基配列を決定し、系統解析により遺伝子型を同定した。その結果、全例がGであり、うち15例(北部6例、南部6例、八重山3例)がGeに、11例〔宮古10例、南部1例(150083)〕がGwに分類され、残る八重山の1例(150100)は、GeとGwのいずれとも異なるクラスターに分類された()。今回同定されたGeはすべて同じサブクラスターに分類され、Gwについては南部で採取された1例(150083)のみが宮古の10例とは異なるサブクラスターに分類された()。

まとめ:沖縄県では、2009~2010年以来約5年ぶりにムンプスが流行し、小児科定点からの患者報告総数は2001年に次いで2番目に多かった。

全国では2000年以降、GeとGwの2系統の遺伝子型が流行の主体を占めている2)。2015年本県でもこの2系統が検出されたが、それらの検出状況は地域ごとに異なっていた()。本県では2014年10月以降、地域ごとに流行が変遷していく様子が観察されたが、同一の遺伝子型のMuVにより流行が拡大したのではなく、沖縄本島と八重山および宮古はそれぞれ独自に流行が拡大した可能性が高いと考えられた。また、八重山の1例(150100)は、これまで国内で報告例の無い系統に属しており、2014年の香港分離株(KM234040)と同一のサブクラスターに分類されたことから()、海外から持ち込まれた株である可能性が示唆された。

PCR陽性27例のワクチン接種歴は、不明が17例、無しが9例、1回接種が1例であった()。国内のムンプスワクチン株はすべて遺伝子型Bに属することから3))、この接種歴有りの1例については、流行株による発症であることは明らかであるが、その原因が一次ワクチン不全と二次ワクチン不全のどちらによるものかは不明である。

今回、流行地域ごとにMuVの遺伝子型を解析することにより、沖縄県内において初めてMuV流行の詳細な動態を把握できた。流行実態の把握だけでなく、ワクチン株と野生株との鑑別のためにも、患者の正確な予防接種歴の聞き取りに加え、MuVの遺伝子型を解析する意義は大きいと考えられた。今後も引き続き患者およびウイルスの動向に注視し、継続的なサーベイランスを実施していく必要がある。

謝辞:貴重な検体をご提供頂きました県立北部病院、あおぞら小児科、ひが小児科医院、よしもとこどもクリニック、県立八重山病院の関係各位に深謝いたします。

 

参考文献
  1. WHO, WER 87: 217-224, 2012
  2. 木所稔ら, IASR 34: 224-225, 2013
  3. 庵原俊昭, 臨床とウイルス 38: 386-392, 2010

沖縄県衛生環境研究所    
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