国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.37 No.4(No.434)

<特集> 麻疹・風疹/先天性風疹症候群 2016年3月現在

(IASR Vol. 37 p. 59-61: 2016年4月号)

世界保健機関(WHO)は, 2020年までにWHO 5地域以上で麻疹および風疹の排除(質の高いサーベイランスのもとで, 特定の地域や国において, 地域的な伝播が12カ月以上にわたり起こっていない状態)を達成するという目標を掲げており, その目標を含んだ世界のワクチン行動計画書(the global vaccine action plan: GVAP)は2012年の世界保健総会において支持を受けている(本号18ページ)。わが国はWHO西太平洋地域(WPR)に属し, WPRでは2003年より麻疹排除事業が実施されている(本号4ページ)。WHO西太平洋地域事務局は, 2014年にオーストラリア, マカオ, モンゴル, 大韓民国, 2015年には日本, ブルネイ・ダルサラーム, カンボジアが麻疹の排除状態にあることを認定した。

日本は現在, 麻疹の排除状態の維持(麻しんに関する特定感染症予防指針, 2007年12月28日告示; http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/241214a.pdf)と, 早期に先天性風疹症候群(CRS)の発生をなくし, 2020年度までに風疹を排除することを目標にしている(風しんに関する特定感染症予防指針, 2014年3月28日告示; http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000041928.pdf)(本号23ページ)。

感染症発生動向調査(麻疹):麻疹は, 感染症法上全数把握対象の5類感染症であるが, 速やかな感染拡大予防策に繋げるため, 2015年5月21日から患者の氏名, 住所, 職業等の個人情報を, 診断後直ちに最寄りの保健所に届け出ることが求められている。

2015年の患者報告数は35例で, 全数報告が始まった2008年以降で最低であった(図1-1)。2016年は第9週現在3例であり, 過去9年間の同時期と比較して最も少ない。年齢群別にみると(図2-1), まず10代の割合が減少し, 次いで1~4歳の割合が減少, 相対的に成人(20歳以上)の割合が増加傾向にある(2008年33%, 2009年36%, 2010年37%, 2011年48%, 2012年58%, 2013年69%, 2014年48%, 2015年71%)。患者の予防接種歴は, 年によって異なるが, いずれの年も接種歴が2回ある者の割合は少なかった。2015年の1年間でみると(2016年3月7日現在暫定値), 未接種16(45.7%), うち定期接種対象年齢に達していない0歳3(未接種者の18.8%), 接種歴不明13(37.1%), 接種歴1回6(17.1%), 接種歴2回0であった(図3-1)。麻疹による学校休業報告は2014年2月に小学校が臨時休校となって以降は0件である(https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/idwr/diseases/measles/measles2015/measschool15_16.pdf)。

感染症発生動向調査(風疹/CRS):風疹, CRSはいずれも感染症法上全数把握対象の5類感染症であり, 診断後7日以内に最寄りの保健所へ届出が義務づけられているが, 「風しんに関する特定感染症予防指針」 により, 風疹については, 迅速な行政対応のために, 可能な限り24時間以内の届出が求められている。

成人男性を中心とした2012~2013年の風疹流行以降の患者報告数は, 2012年2,386例, 2013年14,344例, 2014年319例, 2015年は163例である。年齢群別にみると(図2-2), 麻疹と同様に10代の割合が減少した。流行の大きかった2012年, 2013年には成人がそれぞれ83.4%, 87.8%を占めた。予防接種歴は, 接種歴不明が多く, 接種歴2回の割合は少なかった(図3-2)。2015年の1年間でみると(2016年3月7日現在暫定値), 未接種36(22.1%), うち定期接種対象年齢に達していない0歳4(未接種者の11.1%), 接種歴不明89(54.6%), 接種歴1回30(18.4%), 接種歴2回8(4.9%)であった。CRSは2012年4例, 2013年32例, 2014年9例, 2015年0例で, 2014年第40週の症例を最後に以後1例も報告されていない(図1-2)。

ウイルス分離・検出状況:2015年は全国の地方衛生研究所で24株の麻疹ウイルスが分離・検出された。D8型が11株, H1型が5株, D9型, B3型はそれぞれ4株であった。麻疹ウイルスが分離・検出された24例中渡航歴がある15例の渡航先は, インドネシア(B3型1件, D8型4件, D9型1件), マレーシア(D8型1件, D9型1件), カタール(D8型2件), インド(D8型1件), 中国(H1型2件), モンゴル(H1型2件)であった(本号9ページ)。2015年に分離・検出された風疹ウイルスは21株で, 2B型10株, 1E型4株, 型不明7株である。

感染症流行予測調査:2015年度は23都道府県で麻疹(n=6,601), 17都府県で風疹(n=5,361)の感受性調査が実施された。麻疹抗体価の測定はゼラチン粒子凝集(PA)法で, 風疹抗体価の測定は赤血球凝集抑制 (HI)法で行われた(本号14ページ)。2014年度の調査同様, 麻疹は2歳以上のすべての年齢群で95%以上の抗体保有率(抗体価≧1:16)を示した。一方, 風疹は2歳以上30代前半まで男女ともほとんどの年齢群で90%以上の抗体保有率(抗体価≧1:8)であったが, 30代後半~50代前半の年齢層の抗体保有率は女性で97%, 男性では78%で, 2012~2014年度の調査とほぼ同様の結果であった(図4-1, 4-2)。

ワクチン接種率:2006年度から麻しん風しん混合(MR)ワクチンを用いた2回接種が定期の予防接種に導入されたため, 風疹含有ワクチンの接種率は麻疹とほぼ同率である。第1期(1歳児を対象)は2010~2014年度まで5年連続して接種率95%以上であったが, 第2期(小学校就学前の1年間の幼児を対象)の接種率は2014年度も2013年度と同じく93%で, 目標の95%に到達していない。

今後の対策:麻疹・風疹ともに, 1歳になったらすぐにMRワクチンの接種を受け, 小学校入学前1年間に2回目のMRワクチンの接種を受ける。各学校では, 保護者から母子健康手帳などを見て具体的な予防接種の接種年月日または罹患年齢などを含めた確実な情報を報告してもらい, 入学前の書類提出時または入学後早期に2回の予防接種歴を記録で確認する。2年次以降については, 定期健康診断に先立って行われる保健調査の機会等を活用して, 2回の予防接種歴あるいは罹患歴を確認することが望ましい(学校における麻しん対策ガイドライン: http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/guideline/school_200805.pdf)。また, 成人等が風疹抗体価測定で抗体陰性あるいは低抗体価であった場合は, 速やかに予防接種を受けておくことが重要である(本号17ページ)。なお, 妊娠中はMRワクチンの接種を受けることはできないので, 妊婦健診で抗体陰性あるいは低い抗体価であることがわかった場合は, 出産後早期に予防接種を受けておくことが大切である(本号22ページ)。海外から麻疹あるいは風疹ウイルスが持ち込まれた場合の感染拡大予防策として, 定期予防接種率を第1期, 第2期ともに対象者の95%以上が完了しているようにしておくことが重要である。麻疹あるいは風疹に感受性のある渡航者は, 海外での流行状況に応じて渡航前に予防接種を受けることが推奨される。地域において適切な感染拡大予防策を講じるためには, 1例でも麻疹患者が発生したら迅速な積極的疫学調査の実施に務めることが必要である(本号67ページ)。現在, 麻疹, 風疹ともに患者の中では成人が多数を占めるので, 職場での対策が重要になっている(本号1920ページ)。風疹の排除の状態をより確実に評価するためには, 麻疹同様に(本号10, 1113ページ), 全例の風疹検査診断を原則とする調査体制の構築が必要である。

 

 

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