国立感染症研究所

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難民の流入と関連した麻疹の流行、2011年8~9月―米国・カリフォルニア州

(IASR Vol. 34 p. 44: 2013年2月号)

 

麻疹は米国では2000年に広範な予防接種により排除されたが、流行国への渡航やワクチンを受けていない少数の者において単発の発生は起こっている。2011年8月26日、カリフォルニア州ロサンゼルスで1人のミャンマー難民から麻疹の疑い例が報告された。患者は8月24日にマレーシアのクアラルンプールからの飛行機で到着していた。同機には他に31人の難民が搭乗しており、彼らが向かった7つの州で広範な麻疹の調査と対策が取られた。カリフォルニア州だけで50人の当局関係者が 298人の接触者を調査した。インデックスケースに接触した3人が麻疹と診断され、うち2人は同乗者、1人は税関職員だった。二次感染例は認められなかった。診断が遅れたため、感染拡大防止のためにMMR ワクチンを用いることはできなかった。今回の事例から麻疹の予防接種率を高く維持する必要があること、米国でも特に海外からの渡航者について麻疹を警戒する必要があることが分かった。臨床医は麻疹疑い症例を迅速に隔離し、公衆衛生当局へ報告する必要がある。

患者A(インデックスケース)は地域の病院で麻疹と疑われた15歳の男児だった。予防接種歴は確認できず、8月21日より発熱、22日より発疹をきたしていたが、マレーシアの国際移住機関の医官へは申し出なかった。彼の兄は18日に発熱と発疹があったが、出発時に彼の家族(母親と13歳、16歳の兄弟2人)は全員症状はなかった。8月24日に一家はマレーシアを発ち同日にロサンゼルスに到着し、他の難民とともにモーテルへバスで運ばれた。翌朝、患者Aは地域の病院の救急部に救急搬送され、隔離されることなく8時間滞在した。その晩、別の病院へ救急搬送され、麻疹が疑われ隔離された。8月26日にロサンゼルス郡当局に通告がなされ、患者Aの家族もモーテル内で隔離するよう指示された。どちらの病院でも患者Aはデング熱が疑われていたが、血清検査、核酸増幅検査のいずれでも麻疹と診断された。患者Aの兄も血清学的に直近の感染と考えられた。患者Aは9月1日に軽快し、症状のなかった家族とともに、翌日予定通りウィスコンシンへ向かった。

当局は97人の接触者に対して、麻疹既往歴、免疫不全状態、搭乗歴、および麻疹様症状について接触推定日から21日間の潜伏期間中繰り返し調査した。同時に接触者は予防接種歴の書類の提出を求められ、提出がない場合には血清学的検査が行われた。97人のうち、届出の症例定義を満たした3人が検査陽性となった。ウイルス遺伝子型はすべてD9であり、マレーシアで広く流行しているものであった。

患者Bは8月24日の同じ便で患者Aより9列離れた席にいた、アメリカ生まれの12カ月の女児で、中継地の台湾(麻疹の流行は少ない)から搭乗した。患者Bは8月29日に最初のMMR ワクチン定期接種をロサンゼルス郡の自宅近くで受け、翌日に発熱、31日から発疹をきたした。9月9日に核酸増幅検査で麻疹が確定された。患者Bと接触した12人が調査を受けた。

患者Cは同じ便で同じく9列離れた席にいたインドネシア生まれの19カ月の女児で、予防接種歴はなかった。8月30日に患者Cの家族は接触歴から自宅隔離を指示されたものの、9月1日の調査では患者Cが発熱していることも、バスでネバダ州ラスベガスへ行くことも伝えなかった。患者Cと家族はラスベガスの二つのホテルに滞在し、9月3日にレンタカーでロサンゼルスへ戻ってきた。この日に患者Cは発疹を呈したが、翌日は教会に参列した。9月6日に家族はラスベガスへの旅行と患者Cの症状を当局へ報告したが、当局からの自宅待機の指示を無視して9月7日に小児科を受診した。9日に核酸増幅検査で麻疹と確定診断された。患者Cの感染は、遺伝子型D9が同じく流行しているインドネシアでおこった可能性があるが、患者Aからの感染と考える方が自然である。カリフォルニア州当局は患者Cの接触者79人を調査したが、ラスベガスでの接触者はネバダ州当局が行っており、本報告には含まれていない。

患者Dは25歳の男性で患者Aの到着時に税関と国境管理に服務していた。9月3日に発熱、6日に発疹が出現した。地域の救急部で麻疹を疑われ、9日に核酸増幅検査で確定された。予防接種歴は確認できず、9月13日の血清学的検査では麻疹のIgGおよびIgMは陽性だったが風疹のIgGは陰性で、MMR ワクチンを接種していないか、効果が不十分であったことが疑われた。患者Dは発熱し感染性があったにもかかわらず、9月2~4日にかけて出勤していた。接触者110人が調査された。また、患者Dが感染力がある間に、患者Dが税関手続きを行った旅行者に対して警告が出された。他に5人の税関職員が麻疹の前駆症状を呈したため、確定診断には至らなかったが出勤停止となった。

(CDC, MMWR, 61, No.21, 385-389, 2012)

 

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