国立感染症研究所

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麻疹ウイルス遺伝子検査において結果が検体採取状況等に影響されたと思われる事例について

(IASR Vol. 33 p. 309-310: 2012年11月号)

 

長野県では、麻疹の発生届が提出された症例および麻疹疑い症例は、全症例について遺伝子検査を実施している。今回、同一患者であっても医療機関での検体採取状況等の違いにより、民間検査機関と当所での遺伝子検査の結果が異なったと思われる事例を経験したので報告する。

患者は、1歳1カ月男児で2012年5月28日にワクチン(MR)接種後、6月3日に40℃の発熱、咽頭炎、下痢嘔吐の胃腸炎症状を呈し、6月8日に発疹、リンパ節腫脹、肺炎を認めたことから、麻疹を疑い同日医療機関へ入院した。当該患者は、入院1週間前にワクチン接種を受けていたことから、ワクチンの副反応の可能性も考えられたため、麻疹疑い症例として当所にPCR検査依頼があった。

6月8日午後、入院病棟で採取された咽頭ぬぐい液(ウイルス保存液)が、同日当所に搬入され、検査まで4℃冷蔵保存し、6月11日にRT-nested PCR法により麻疹ウイルス遺伝子検査を試みたが、H遺伝子、N遺伝子とも検出されなかった。

しかし、6月8日午前、同医療機関は外来で別途採取された咽頭ぬぐい液(ウイルス保存液がなかったため、生理食塩水で代用)を、民間検査機関にも麻疹ウイルス遺伝子検査を依頼していた。民間検査機関は、6月9日に検体を受領、検査まで冷凍保存(温度不明)し、6月11日にGodec MSらの方法1) により麻疹ウイルスF遺伝子を検出していた。検体採取および検査経過をに示す。

なお、その後医療機関から当所に管轄保健所経由で、検出されたウイルス株がワクチン由来か否かの判定の依頼があったため、当所では民間検査機関から6月19日に抽出RNA の提供を受け、RT-nested PCR法により麻疹ウイルス遺伝子検査を行ったところ、6月21日にH、N両遺伝子が検出された。さらに、検出したN遺伝子の増幅産物は、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、遺伝子解析を実施したところ、ワクチン株の遺伝子型であるA型に分類され、ワクチン株と100%一致したことから、検出ウイルス株はワクチン由来であることが判明した。

当所のウイルスの遺伝子検査においては、常に陽性コントロール、陰性コントロールを検体とともにRNA抽出から検出までの検査手順を踏んでおり、今回の検査において検査の信頼性は確保されていた。同一患者で同日採取された検体であっても、今回当所と民間検査機関で検査結果が相違したのは、採取状況の違いが大きく影響した可能性が推察された事例であった。ウイルス保存液では4℃の冷蔵保存で1週間程度は遺伝子の劣化に影響するものではない2) と考えられるが、病原体検出マニュアル(http://www0.nih.go.jp/niid/reference/measle-manual-2.pdf)では、咽頭ぬぐい液をウイルス保存液で保存する場合、48時間以内に検査に供する場合は4℃保冷保存、それ以外の場合は-80℃凍結保存することとされている。今後、検体を採取する医療機関のみならず、我々検査機関においても、検体の採取から検出までの過程の中で、状況により検査結果に影響する可能性があることを充分認識しておく必要があると思われる。

なお、情報提供していただいた医療機関、抽出RNAを提供頂いた民間検査機関に感謝致します。

 

参考文献
1) Godec MS,et al.,J Med Virol 30: 237-244,1990
2)田代眞人、他、編集、ウイルス感染症の検査・診断スタンダード

 

長野県環境保全研究所
内山友里恵 中沢春幸 小林広記 嶋崎真実 宮坂たつ子 藤田 暁

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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