国立感染症研究所

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岡山県における麻しん集団発生について

(IASR Vol. 33 p. 166-167: 2012年6月号)

 

はじめに
岡山県美作保健所管内では2012(平成24)年1~2月にかけ5例の麻しん患者が発生し、患者全員からD9型麻疹ウイルスが検出された。とくに、5例目はカタル期に200名を超える接触者があり、接触者調査と感染拡大防止に取り組み、3月22日に終息宣言を行った。その経過ならびに5例目の感染拡大防止対策について報告する。

麻疹の発生状況
1月1日にフィリピンから帰国した6歳女子(1例目)が1月11日に発熱し、A医院を受診。17日にPCR検査で麻疹陽性。1月19日に女児の双子の兄6歳(2例目)が発熱し、A医院を受診。帰宅後熱性けいれんによりB病院小児科に入院。20日にPCR検査で麻疹陽性。

2月4日に、B病院小児科入院中の13歳男児(3例目、1例目、2例目との明らかな接触は認められない)が発熱したため、6日から個室で対応。8日にコプリック斑が確認され、9日にPCR検査で麻疹陽性。

1月23日~2月1日までB病院に入院していた1歳4カ月の女児(4例目)が、2月4日に発熱。B病院を受診し、5日に再入院。7日に発疹、8日にコプリック斑が出現。10日にPCR検査で麻疹陽性。

4例目の女児が、2月3日に叔母44歳(5例目)と接触。叔母が2月14日発熱し、C医院を受診。インフルエンザキット検査で陰性、麻疹については、医師からは年齢を根拠に可能性を否定されたため、2月16、17日にグループワークを中心とした介護関係の研修会に参加。17日の研修終了後、B病院の感染症外来を受診し、発熱・咳・鼻汁・結膜充血・発疹のほかコプリック斑が出現しており、麻疹の臨床診断例として保健所に届出があった。18日PCR検査で麻疹陽性。19日にB病院感染症病棟に入院となった。

1例目から4例目まではワクチン接種歴無し。5例目はワクチン接種歴不明であった。

岡山県および当保健所の対応
2月14日に管内の医師会、病院協会宛に、管内での麻疹患者の発生を周知するとともに、麻疹患者の届出と検体提出について文書依頼した。B病院に対し感染症対策委員会を開催し、「医療機関での麻疹対応ガイドライン(第三版)」による感染拡大防止の徹底、接触者の予防接種歴の把握と未接種者への対応を依頼した。B病院は、院内接触者の予防接種歴の把握、未接種者への抗体検査、抗体価の低い人へのワクチン接種やγグロブリンの投与、小児科病棟の1歳未満児の入院制限や面会の制限、標準予防策の徹底、疑わしい患者については感染症外来、感染症病棟で対応することなどに取り組んだ。

5例目は4例目の接触者として、健康観察を行っていたところ、16日に発熱等の症状があるとの情報を得て、研修会への参加自粛を要請した。しかし、当該患者は、C医院の医師から麻疹を否定されたことや、資格取得に研修参加が必須であることから研修に参加した。

B病院からの届出を受けた17日から5例目の行動調査、接触者調査を実施した。その結果、13日(発症前日)、14日(発症日)はD施設に勤務(接触者:入所者および施設職員145人)、16、17日は研修会に参加(接触者:参加者および会場職員83人)していたほか、コンビニ・スーパーへの立ち寄り(接触者:同時刻に勤務中の職員18人)および近医(接触者:医療機関職員8人)を受診しており、把握した接触者は254人であった。

地域に感染が拡大する可能性があることから、17日にプレス発表を実施。研修参加者名簿を入手し翌18日にかけて電話連絡を行い、ワクチン接種歴等を確認し、接種の確実な人以外にワクチン接種を強く勧奨したほか、14日間の健康観察とその間の勤務を控えることを指導した。また、勤務先のD施設に対し、施設職員、入所者の名簿に基づき、ワクチン接種歴等の調査、ワクチン接種の勧奨、健康観察の依頼を行った(表1)。

研修参加者を対象に18日(土)、19日(日)にB病院に臨時のワクチン接種外来を設置し、46人(63.9%)に緊急ワクチン接種を実施した。20日にはワクチン未接種者26人を対象に、保健所で21人(80.8%)に抗体検査(PA法)を実施した(表2)。ワクチン接種が自己負担となること、接触後3日以内のワクチン接種が必要なことについて理解を得るため丁寧な説明が必要であった。

抗体検査の結果、抗体価64以下の4人には、医療機関への受診を勧奨した。その結果、3人が医療機関を受診し医師と相談し、1人はワクチン接種、2人はγグロブリン投与となった。1人は医療機関受診しなかった。

研修参加者に対し2週間の健康観察と勤務の自粛のお願いを本人とその所属施設に行った。また、予防接種、抗体検査とも受けなかった5人と抗体価64以下4人には発病の可能性が高いことを説明するとともに電話で毎日の健康状態を把握した。予防接種者には健康観察期間を3週間に、γグロブリン投与者については4週間に延長し、対象者およびその所属施設に文書で理解、協力を求めた。

5例目が確定した時点で、医師会、病院協会宛に再度麻しん患者の報告等を依頼し、サーベイランスの強化に努めた。その結果として3月22日の終息宣言までに疑い例8例の報告があったが、PCR検査結果はすべて陰性であった。

おわりに
今回の事例では、接触者は多かったが、接触者を早く特定できたことで感染拡大防止への対応を迅速に取ることができた。また、B病院との話し合いで週末に緊急ワクチン接種を行う体制を確保し、研修会参加者を対象に、緊急のワクチン接種を粘り強く勧奨し、接触者の約6割に緊急ワクチン接種を実施した。無料でなければ受けないという人も多かった。未接種者には、保健所で無料の抗体検査を実施し、抗体価の低い人を把握して保健指導を行った。今回の発病者は、ワクチン接種歴の無い人、接種歴不明の人であり、抗体価の低い人へ感染していることから、市町村と連携し、確実な2回のワクチン接種を勧める必要がある。また、住民や医療関係者の麻疹に対する認識が低く、正しい知識の啓発が必要である。麻疹接触者を対象とした健康観察、就業自粛の要請については、法的根拠がないためお願いとなったが、麻疹の迅速な封じ込めのためには感染症法上の位置付けの見直しも必要と思われた。

最後になりましたが、今回の麻しん対応にあたり、国立感染症研究所FETPチームに応援を要請したところ、速やかに来所してご指導いただいたことに感謝申し上げます。

 

岡山県美作保健所 井上博子 大谷美佐恵 發坂耕治
岡山県保健福祉部健康推進課 土橋酉紀

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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