国立感染症研究所

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日帰り入浴施設におけるレジオネラ症集団発生事例と衛生管理上の対策―神奈川県

(IASR Vol. 37 p. 140-141: 2016年7月号)

はじめに

2015(平成27)年6月に7件(神奈川県6件, その他1件)のレジオネラ症発生届があり, 神奈川県内の日帰り入浴施設のみが患者全員に共通する利用施設であった。また, 患者から採取した喀痰と当該施設の浴槽水から同じ遺伝子型のレジオネラ属菌が検出されたため, 当該施設を原因施設と判断して, 公衆浴場法に基づく営業停止命令を行った。

患者の状況

レジオネラ症発生届は, 6月1日~17日に届出され, 患者7名が施設を利用した時期は, 5月20日~26日に集中していた。患者はすべて男性(40代~70代, 平均年齢は66.3歳)で, 主な症状は発熱, 咳嗽, 肺炎, 潜伏期間は2日~10日で, 2名を除き糖尿病などのレジオネラ症に罹りやすいとされている基礎疾患があった。

患者の多くは2週間程度で回復したが, 2名は1カ月を超える入院となり, うち肝臓に基礎疾患があった1名は一時重篤な状態であった。

施設の状況と改善指導

当該施設は, 2003(平成15)年10月に公衆浴場法の許可を取得し, 温泉[ナトリウム-塩化物強塩冷鉱泉(pH7)]または井水を使用する男女各9浴槽(うち露天各5, 気泡発生装置各2)を有し, 平日約800人, 休日約1,400人が利用する施設である。今回の届出を受けて6月3日から実施した立ち入り検査および後日営業者から提出された報告書から, 次の問題があることが判明した。

(1)温泉水供給系統で, 除鉄・除マンガンろ過装置および前・中間塩素処理用塩素注入装置が故障しており, 汲み上げられた温泉水は未処理・未消毒のまま, 温泉処理槽から各浴槽に供給されていた。なお, 温泉処理槽内の温泉は, 加温されておらず25~30℃であった。

(2)レジオネラ属菌が検出された浴槽水のろ過装置のろ材の交換が, 5年以上行われていなかった。

(3)各浴槽水の遊離残留塩素濃度は, 始業前の9時30分~23時30分まで2時間ごとに測定し, 塩素注入量の調整結果と一緒に記録されていたが, レジオネラ属菌が検出された浴槽では他の浴槽と異なり, 0.2mg/Lがほぼ変動なく続く記載が多くみられた。しかし, 施設管理者は特に問題視せずに検討等も行われていなかった。

(4)レジオネラ属菌は, 年に4回の店休日の配管洗浄後に採水した検体を, 関西方面の検査機関に送付して検査していたが, 検体送付時に保冷措置等は行わず, 採水から検査開始までに12時間以上を要していた。なお, これまでの自主検査でレジオネラ属菌は, 不検出であった。

レジオネラ属菌の検出状況

男性用浴槽水7検体の行政検査を行ったところ, 露天浴槽水2検体からそれぞれ80, 110 cfu/100 mLのLegionella pneumophilaが検出された。また, 浴槽等のふき取り36検体の行政検査を実施したところ, 湯口等からLAMP法により10検体でレジオネラ属菌DNAが検出され, 培養法により5検体でL. pneumophilaが検出されたため, 指導の参考とした。

患者喀痰4検体からL. pneumophila血清群(SG)1, SG13が分離され, 喀痰および浴槽水から分離された検体についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行ったところ, 泳動パターンが一致したことから(), 患者および浴槽水の遺伝子レベルでの疫学的な関連が確認された。

営業停止命令

患者および浴槽水由来のL. pneumophilaの複数の菌株について遺伝子パターンが一致したこと, 患者が利用した入浴施設で全員に共通するものが当該施設のみであり, 特定の時期の利用後のレジオネラ症の潜伏期間内に発症していることを根拠に当該施設を感染源と判断し, 6月18日に営業停止命令処分を行った。なお, 営業停止命令期間中に早期にすべて改善された場合など, 営業者に余計な不利益を与えてしまうことを考え, 営業停止の期間は, 日数を定めず 「管理体制の見直しおよび浴槽水でのレジオネラ属菌の不検出を確認するまで」 とした。

8月6日に改善等が確認できたことから, 営業停止期間は49日となった。

衛生管理上の対策

指導の結果, 次の内容について対策等が図られた。

(1)ハード面において, 露天浴槽の気泡発生装置の撤去, 各種ろ材の交換, 消毒用塩素注入装置の増設および水槽・配管等の洗浄消毒を実施した。

(2)文書類において, 自主管理手引書, 水質管理マニュアル等を改訂・整備し, 誰でも分かる内容とした。

(3)ソフト面において, 従業員に対してレジオネラ症の理解や水質管理マニュアルの徹底を研修等で図るとともに, 管理に関する本部管理機能の強化を図った。また, 迅速な水質検査ができるように県内の検査機関へ変更し, 重要度の高い機器点検等を外部委託化することとした。

まとめ

今回の事例は, 施設側の衛生管理が不十分であったことが原因であるが, 環境衛生監視員は立ち入り検査時に構造設備, 衛生管理状況や水質検査の検体の採取・搬入方法等の把握まで確実に行い, 微妙な危険性の兆候を見逃さず, 状況に応じて適切な指導を行い, 営業者にレジオネラ症の危険性を啓発していくことが必要である。

当該営業者は, 今回の事案で入浴施設における衛生管理の重要性を再認識し, 細かなマニュアルの整備, 従業員教育の徹底等の改善が図られたが, 再発防止のためには, この適切な維持管理体制が継続されるように指導していくことが非常に重要である。

神奈川県小田原保健福祉事務所
 山崎康宏 吉嶋 郁 佐野 晃 小笠原規之 長岡 正
神奈川県衛生研究所
 大屋日登美 相川勝弘 日比和美 黒木俊郎 岡部英男

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