国立感染症研究所

感染症法の施行後、初めてとなった先の法改正[2003(平成15)年10月16日法律第145号]は、(i)緊急時における感染症対策の強化、ことに国 の役割の強化、(ii)動物由来感染症に対する対策の強化と整理、(iii)感染症法対象疾患および感染症類型の見直しを主とするものであり、特に動物由 来感染症対策については、「動物の輸入届出制度」を創設する等、大幅な対策強化を図るものであった。この法改正については、その後の国内でのトリインフル エンザの流行と感染者の発生や、国外におけるトリインフルエンザ、ウエストナイル熱、ニパウイルス感染症等の流行地域やヒトへの感染の拡大等を踏まえ、わ が国の感染症対策を推進するにあたって欠かせないものであったと考えられる。

厚生労働省では、法改正後、法律に規定された新たな動物由来感染症対策の実施のために、厚生科学審議会感染症分科会の意見[2004(平成16)年6月4 日]等を踏まえ、必要な政令、省令、および告示の改正を行い、また組織改正等の施策を進めている。ここではその概要を解説する。

1.輸入動物対策の強化

 (1)動物の輸入に関する届出制度の施行(法第56条の2)

新たな法規定の趣旨は、感染症の国内への侵入を防止する手段として、動物の「輸入禁止」、「輸入検疫」に加え、「届出書の提出および輸出国政府機関発行の 衛生証明書の添付を義務づける」ことによって、感染症をヒトに感染させるおそれがある動物等が感染症を発生し、まん延を起こすおそれがない場合に限り輸入 を認める、輸入動物の公衆衛生対策を行うことである。

新たに創設された届出制度の遂行に必要な規定については、厚生労働省令[2004(平成16)年9月15日厚生労働省令第128号]で以下のとおり定められた(ただし施行までに実験動物に関する一部の追加改正を予定)(参照)。

1)届出制度の施行:2005(平成17)年9月1日
2)届出動物:陸生のほ乳類に属する動物、げっ歯目に属する動物および死体、ウサギ目に属する動物および死体、鳥類に属する動物。すなわち展示、販売目的 のみならず、個人用ペット等、上記に該当するすべての動物が対象となる。なお、既に輸入禁止や検疫の対象となっている動物は、本制度の対象から除外される (省令第28条別表第1の第1欄)。
3)対象感染症:対象動物に応じて規定される(省令第28条別表第1の第2欄)。
4)届出書:記載事項は用途、原産国等の15項目(省令第29条、様式第3)。
5)衛生証明書:記載事項は届出動物等の種類・数量、発行機関等の8項目(省令第30、31条)。
6)必要な添付書類:届者の個人・法人を確認できる書類、航空運送状等(省令第29、告示第337号)。
7)届出受付機関:厚生労働省の27カ所の検疫所および支所(省令第29条)。
8)その他:制度の施行に必要な「厚生労働大臣が定めるげっ歯目の動物保管施設の基準」、「厚生労働大臣が指定する狂犬病の発生していない地域」、「厚生 労働大臣が指定する高病原性鳥インフルエンザが発生していない地域」等を新たに告示で規定(それぞれ、告示338号、339号、および340号)。

 (2)輸入禁止対象動物の拡充(法第54条)

新たな法規定では、動物由来感染症をヒトに感染させるおそれが高いものとして政令で定める動物であって、厚生労働省令、農林水産省令で定める地域から発送または当該地域を経由した動物を輸入禁止の対象と定めた。

法改正を踏まえ、既に輸入禁止対象とされていたイタチアナグマ、サル、タヌキ、ハクビシン、プレーリードッグ、コウモリ、ヤワゲネズミを追加した [2003(平成15)年10月22日政令第 459号]。なお、これらの政令で指定した動物のうちサル以外の動物については、厚生労働省令、農林水産省令で定める地域が「すべての地域」とされている [2003(平成15)年10月30日厚生労働省・農林水産省令第6号]。

 (3)輸入サルの安全対策強化(法第54条)

サルについては、ヒトに共通の感染症を媒介する可能性が高いことから、OIE基準を準拠し、ペット用のサルの輸入は認めないこととし、試験研究機関または 動物園(いずれも厚生労働大臣および農林水産大臣が指定したものに限る)において業として使用されるサルのみに輸入を限ることとし、2005(平成17) 年7月1日より規制を導入した[2005(平成17)年3月30日厚生労働省・農林水産省令第3号]。

2.国内動物対策の強化

 (1)感染源動物の調査の拡充(法第15条、63条の2)

改正法では、新たに、都道府県知事等(実施者は感染症対策に従事する自治体職員)が、1〜4類感染症が発生した場合等において、(i)動物の所有者、管理 者と関係者に質問または必要な積極的疫学調査を行う権限があること(15条1項)、(ii)都道府県等の区域を越えるなど広域的に感染症が拡大するおそれ があり、緊急の必要があると認める場合においては、国から都道府県に対し必要な調査が指示できること(63条の2)、(iii)国自らも調査を行うことが できること(15条2項)、を明確に規定した。

これを踏まえ、積極的疫学調査に関する新たな規定が厚生労働省令に追加され、動物由来感染症に対する疫学調査にも適用されることとなった[2004(平成16)年9月15日省令第128号の第8条]。その概要は以下のとおりである。

1)積極的疫学調査を実施する場合:(i)1〜4類感染症の患者が発生し、または発生した疑いがある場合、(ii)国内になく国外でまん延している感染症 が発生するおそれがある場合、(iii)動物がヒトに感染させるおそれがある感染症が発生し、または発生するおそれがある場合。

2)積極的疫学調査の実施に際する対応:採取した検体、検査結果を記載した書類、その他の感染症の発生の状況、動向および原因を明らかにするために必要な物件の提出を求めること。

3)動物の所有者等の都道府県知事への報告:積極的疫学調査の迅速かつ的確な実施のために、動物等が感染症にかかっているまたはかかっている疑いがあると認めた場合は、速やかにその旨を最寄りの保健所に報告し、2)に規定する物件がある場合は添付すること。

4)都道府県知事の厚生労働大臣への報告:3)の報告が感染症対策で重要と認める場合は、厚生労働大臣に報告し、必要な物件を添付すること。

 (2)獣医師の届出対象疾患・動物の追加と届出事項の拡充(法第13条)

法改正により、獣医師の届出対象に4類感染症が追加されたことから、わが国に侵入した場合に重大な影響が予想される感染症であること、またヒトの予防対策 を直ちに検討する必要がある感染症であること等を、届出対象疾患の選定基準として政令改正を行い、(i)細菌性赤痢; サル、(ii)ウエストナイル熱; 鳥類、(iii)エキノコックス症; イヌ、の感染症および動物を届出対象に追加した[2004(平成16)年7月9日政令第231号]。

またこの政令改正と併せて、獣医師からの一層の情報収集を行うべく、省令改正により、従来は4項目であった届出事項を14項目に拡充した[2004(平成 16)年9月15日厚生労働省令第 128号]。さらに、届出義務の対象疾患について、「獣医師の届出基準」を定めた[2005(平成17)年6月20日健感発第062002号・結核感染症 課長通知]。

以上の獣医師を対象とした動物由来感染症対策の強化は、法改正により獣医師の責務規定が創設されたこと(法第5号の2)に関連し、獣医師に公衆衛生対策に対する一層の貢献を求めるものである。

 (3)その他

法律、政令、省令の改正を踏まえ、以下の告示の改正、ガイドラインの作成等が行われている。

1)告示「感染症の予防の総合的な推進を図るための基本的な指針」を改正し[2003(平成15)年12月19日厚生労働省告示第438号]、動物由来感染症対策について新たな項目(第11の4、等)を設けた。

2)ガイドラインの策定:政令改正による獣医師への届出対象疾患・動物の追加にともない、細菌性赤痢のサル、ウエストナイル熱の鳥類、エキノコックス症のイヌに関する診断・対応ガイドラインを策定した。

3.組織改正

感染症法の改正により動物由来感染症対策が強化されたことを踏まえ、担当課である健康局結核感染症課の組織改正を行った[2004(平成16)年4月1日 以降]。具体的には、従来の動物由来感染症の担当補佐および獣医衛生係長の1補佐・1係長体制を、動物由来感染症の担当補佐、専門官、指導係、管理係の1 補佐・1専門官・2係長体制に拡充し、業務の一層の推進を図っている。また、動物の輸入届出制度の施行に向けて、検疫所の新たな部署となる「輸入動物管理 室」を、東西2カ所の国際空港に設置した(成田空港検疫所および関西空港検疫所)。

国立感染症研究所・国際協力室(健康局結核感染症課併任) 中嶋建介

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