国立感染症研究所

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律(平成20年法律30号)は、2008(平成20)年5月2日に公布され、5月12日から施行されている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/16.html)。

近年、トリの間ではトリに対して高病原性のA/H5N1亜型インフルエンザウイルス(以下H5N1)による鳥インフルエンザがアジア(本号7ページ)から欧州、アフリカまで拡大しており、さらに東南アジアを中心にトリからヒトへ感染する事例が発生している(2008年6月19日現在15カ国385例、本号5ページ)。 このH5N1がヒトからヒトへ感染する能力を持つウイルスに遺伝子変異し、新型インフルエンザとして世界的に流行することが危惧されている。こうした状況 をふまえ、新型インフルエンザが発生した場合の被害を最小限に食い止めるために、発生前後に必要な対策を迅速かつ確実に実施するための法整備が必要とな り、今回、感染症法および検疫法の改正が行われた。本特集では、感染症法と検疫法の主な改正内容に加え、本年から実施されている感染症法と予防接種法に基 づく麻疹対策強化について述べる。

<感染症法>
1.対象疾病分類等の見直し
これまでインフルエンザ(H5N1)を指定感染症に指定していた「インフルエンザ(H五N一)を指定感染症として定める等の政令」(2006年6月12日 施行)が廃止され、鳥インフルエンザ(H5N1)が二類感染症に追加されるとともに、新型インフルエンザの発生に備え、新たに「新型インフルエンザ」およ び「再興型インフルエンザ」からなる「新型インフルエンザ等感染症」という分類が創設された(表1)。

(1) 「新型インフルエンザ等感染症」の追加:「新型インフルエンザ」および「再興型インフルエンザ」は、全国的かつ急速なまん延(パン デミック)により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあるため、既存の感染症対策を超えた対応が必要であり、現行の一類感染症から五類感染 症までの感染症の類型のいずれかに位置づけるだけでは十分な対応が取れないことから、新たな類型が設けられた。

「新型インフルエンザ」は、新たにヒトからヒトに感染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザであって、一般に国民が免疫を獲 得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの、「再興型イン フルエンザ」は、アジアインフルエンザのような、かつて世界的規模で流行したインフルエンザであり、その後流行することなく長期間が経過しているものとし て厚生労働大臣が定めるものが再興したものであって、一般に現在の国民の大部分が免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延によ り国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものと定義された。

また、新型インフルエンザ等感染症の疑似症患者および無症状病原体保有者については、患者とみなし、法を適用することとされた。

(2) 「新型インフルエンザ等感染症」創設に伴う類型の整理:鳥インフルエンザ(H5N1)は、トリからヒトへの感染で致死率の高い重篤 な感染症であり、H5N1は、ヒトからヒトへ感染が拡大するヒト型に変異する可能性が想定されている。さらに現時点では家族内など限定的ではあるが、ヒト からヒトへの感染事例も報告されていることなどから、患者および疑似症患者を入院させることで他者への感染を防ぐため、入院措置が可能な二類感染症に位置 づけられた。

なお、四類感染症として位置づけられている「鳥インフルエンザ」から鳥インフルエンザ(H5N1)を除くとともに、五類感染症である「インフルエンザ」から鳥インフルエンザのほか、新型インフルエンザ等感染症を除くことが明示された。

(3) 病原体分類の位置づけ:新型インフルエンザ等感染症の病原体は、ヒトに対する病原性および生命・健康に対する影響がH5N1やH2N2と同等であると考えられることから、H5N1やH2N2と同様、4種病原体として位置づけられ、取り扱いの施設基準、保管等の基準が適用される(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/03.html)。

2.新型インフルエンザ等感染症に対する措置表2
(1) 既存の措置への新型インフルエンザ等感染症の追加:新型インフルエンザのまん延防止策として実施する必要があるとされている現行の 感染症法上の措置については、新型インフルエンザ等感染症においても適用できるようにされた。なお、現在の科学的知見では必要性の認められないものについ ては、発生後に必要に応じ政令を定めることにより準用が可能であるとされ、かつ、準用対象の措置が、建物への立入制限・封鎖や交通の制限など人権制限を伴 うものもあることから、政令を定める際には厚生科学審議会感染症分科会に諮った上でなければならないとされた。

(2) 新型インフルエンザ等感染症に係る規定の新設:新型インフルエンザ等感染症については、強い感染力が想定されること、発生直後から まん延防止策を実施することが必要であることなどから、都道府県知事と検疫所との連携の強化、発生および措置等についての情報公表、感染していると疑うに 足りる正当な理由のある者に対する健康状態の報告要請、外出の自粛等の協力要請、関係自治体が実施した措置の経過報告等の規定が創設された。

3.新感染症にかかる規定の新設
新感染症は、その時点で未知なものであり、なおかつ罹患時の症状が重篤な感染症であることから、新型インフルエンザ等感染症と同様の対策が必要となる可能 性がある。そのため、新感染症が発生したと認めたときは、国は速やかに、発生地域を公表するとともに、症状、病原体検査方法、診断および治療、ならびに感 染の防止の方法、実施する措置、その他の発生の予防またはそのまん延の防止に必要な情報を逐次公表しなければならないとされた。また、同様に当該感染症に かかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に対して健康状態の報告の要請、外出自粛等の協力要請を行うことができる、とされた。

<検疫法>
1.新型インフルエンザ等感染症の検疫感染症への位置づけ
新型インフルエンザのまん延防止策の初期段階として、検疫における水際対策は非常に重要とされている(本号4ページ)。そうしたことから、新型インフルエンザ等感染症については、隔離、停留等を実施できる検疫感染症とするとともに、新型インフルエンザ等感染症の疑似症患者についても患者とみなして、この法律を適用することとされた。

2.新型インフルエンザ等感染症の隔離先および停留先
新型インフルエンザ等感染症については、感染症の専門家が感染防止設備の整った医療機関で治療を実施することが必要であるため、感染症法上の入院先でもある、特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関または第二種感染症指定医療機関が隔離先とされた。

一方、停留先については、新型インフルエンザの想定される感染力の強さから、停留対象者の数も膨大になると想定されることや、医療資源には限りがあり、実 際に何らかの病気に罹患している者等必要な者に使用されるべきであることを踏まえ、停留先施設は、医療機関に限らず、個室が整備され、仮に発症した場合に まん延防止措置をとることが可能な宿泊施設であり検疫所長が適当と認めるものや、船舶を停留先施設とすることが可能とされた。

3.健康監視
検疫所長は、新型インフルエンザ等感染症の病原体に感染したおそれのある者を確認した時点で、都道府県知事に通知しなければならないこととされ、都道府県知事がその後の健康監視を行うことにより、患者発生に対し迅速な対応ができるようにされた。

<麻疹排除に向けての対策強化>
2012年の麻疹排除を目指して(IASR 28: 239-240, 2007)、 2007年12月に感染症法に基づく「麻疹に関する特定感染症予防指針」が告示され、感染症発生動向調査において五類感染症の定点報告であった麻疹と風疹 は、2008年1月1日より全医師に届出が義務付けられる全数報告に変更された。当面、麻疹患者は臨床診断例、検査診断による修飾麻疹を含み、風疹患者も 臨床診断例を含む(報告基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html参照)。また、2008年4月1日より5年間の時限付きで、3期(中学1年生)および4期(高校3年生相当年齢の者)に、予防接種法に基づく定期接種(原則として麻疹風疹混合ワクチン)が開始され、1〜4期すべてで接種率95%以上を達成することが目標とされている(本号11ページ)。

<参考> 感染症法に基づく届出疾病 (2008年5月12日一部改正施行)

<通知> 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14条第2項に基づく届出の基準等の一部改正について

(Vol.29 p 53-55:2008年2月号)

健感発第1228002号
平成19年12月28日
都道府県
 各   政令市   衛生主管部(局)長  殿
特別区
厚生労働省健康局結核感染症課長

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令(平成19年厚生労働省令第159号)が平成19年12月28日公布 され、平成20年1月1日に施行されること等に伴い「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14条第2項に基づく届 出の基準等について」(平成18年3月8日健感発第0308001号)の一部を下記のとおり改正し、同日から適用する。

別紙第6(略) 五類感染症の7 後天性免疫不全症候群中「(4)届出に必要な要件」を「(4)届出に必要な要件(サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準(厚生労働省エイ ズ動向委員会、2007)抜粋)」に改め、(4)のイの指標疾患のうち、Aの5の「(カリニ)」を削る。

別紙第6(略) 五類感染症中、「24 風しん」、「26 麻しん(成人麻しんを除く)」及び「39 成人麻しん」の項を削除し、「14 バンコマイシン耐性腸球菌感染症」の次に次の2項を加える。

 

<参考>  感染症法に基づく届出疾病    (2008年1月1日一部改正施行)


14-2 風しん
(1)定義
風しんウイルスによる急性熱性発疹性疾患である。

(2)臨床的特徴
飛沫感染により感染し、潜伏期は通常2〜3週間である。 冬から春に流行する。症状は、小紅斑や紅色丘疹、リンパ節腫脹(全身、特に頚部、後頭部、耳介後部)、発熱を三主徴とする。リンパ節腫脹は発疹出現数日前 に出現し、3〜6週間で消退する。発熱は38〜39°Cで、3日程度続き、皮疹も3日程度で消退する。脳炎、血小板減少性紫斑病を合併することがある。

妊婦の風しんウイルス感染が、先天性風しん症候群の原因となることがある。

(3)届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から風しんが疑われ、かつ、(4)の届出に必要な要件を満たすと診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。

イ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から風しんが疑われ、かつ、(4)の届出に必要な要件を満たすと診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。

(4)届出のために必要な要件
ア 検査診断例
届出に必要な臨床症状の1つ以上を満たし、かつ、届出に必要な病原体診断のいずれかを満たすもの。

イ 臨床診断例
届出に必要な臨床症状の3つすべてを満たすもの。

届出に必要な臨床症状

ア 全身性の小紅斑や紅色丘疹
イ 発熱
ウ リンパ節腫脹

届出に必要な病原体診断

 検査方法   検査材料 
分離・同定による病原体の検出 咽頭拭い液、血液、髄液
検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出
抗体の検出 (IgM抗体の検出、ペア血清での抗体陽転又は抗体価の有意の
上昇)
血清

14-3 麻しん
(1)定義
麻しんウイルスによる急性熱性発疹性疾患である。

(2)臨床的特徴
潜伏期は通常10〜12日間であり、症状はカタル期(2〜4日)には38°C前後の発熱、咳、鼻汁、くしゃみ、結膜充血、眼脂、羞明などであり、熱が下降 した頃に頬粘膜にコプリック斑が出現する。発疹期(3〜4日)には一度下降した発熱が再び高熱となり(39〜40°C)、特有の発疹(小鮮紅色斑が暗紅色 丘疹、それらが融合し網目状になる)が出現する。発疹は耳後部、頚部、顔、体幹、上肢、下肢の順に広がる。

回復期(7〜9日)には解熱し、発疹は消退し、色素沈着を残す。肺炎、中耳炎、クループ、脳炎を合併する場合がある。麻しんウイルスに感染後、数年から十数年以上経過してSSPE(亜急性硬化性全脳炎)を発症する場合がある。

なお、上記症状を十分満たさず、一部症状のみの麻しん(修飾麻しん)もみられることがある。これはワクチンによる免疫が低下してきた者に見られることが多い。

(3)届出基準
ア 患者(確定例)
医師は、(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果、症状や所見から麻しんが疑われ、かつ、(4)の届出に必要な要件を満たすと診断した場合には、法第12条第 1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。

イ 感染症死亡者の死体
医師は、(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果、症状や所見から麻しんが疑われ、かつ、(4)の届出に必要な要件を満たすと診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を7日以内に行わなければならない。

(4)届出のために必要な要件
ア 麻しん(検査診断例)
届出に必要な臨床症状の3つすべてを満たし、かつ、届出に必要な病原体診断のいずれかを満たすもの。

イ 麻しん(臨床診断例)
届出に必要な臨床症状の3つすべてを満たすもの。

ウ 修飾麻しん(検査診断例)
届出に必要な臨床症状の1つ以上を満たし、かつ、届出に必要な病原体診断のいずれかを満たすもの。

届出に必要な臨床症状

ア 麻しんに特徴的な発疹
イ 発熱
ウ 咳嗽、鼻汁、結膜充血などのカタル症状

届出に必要な病原体診断

 検査方法   検査材料 
分離・同定による病原体の検出 咽頭拭い液、血液、髄液
検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出
抗体の検出 (IgM抗体の検出、ペア血清での抗体陽転又は抗体価の有意の
上昇)
血清

別記様式5-7の5-2の5)中、「(カリニ)」を削る。

別記様式5-10の11に次のように加える。
(3)母親の風しん含有ワクチン接種歴

 1回目   有(    歳)・ 無 ・ 不明
  ワクチンの種類(風しん単抗原・MR・MMR・不明)
  接種年月日( S・H      年     月     日・ 不明)
  製造会社/Lot番号(     /      ・ 不明)
 2回目   有(      歳)・ 無 ・ 不明
  ワクチンの種類(風しん単抗原・MR・MMR・不明)
  接種年月日( S・H      年     月     日 ・ 不明)
  製造会社/Lot番号(     /      ・ 不明)

別記様式に次の二様式を加える。
別記様式5-14-2 風しん発生届
別記様式5-14-3 麻しん発生届

別記様式7-1を次のように改める。

別記様式7-5を次のように改める。

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