国立感染症研究所

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三重県内における日本脳炎患者の発生

(IASR Vol. 35 p. 14: 2014年1月号)

 

2013年9月、三重県内で日本脳炎患者の発生をみたので、その概要について報告する。

症例は三重県在住の70代女性で海外渡航歴はない。日本脳炎ワクチン接種歴は不明。2013年9月初旬頃より38℃前後の発熱を認め、食欲不振があった。発症後7日目に朝からより一層の高熱感を感じており、夕方に痙攣を伴い倒れていたため救急車にて伊勢赤十字病院に搬送された。搬送時の症状は発熱(42℃)、意識障害があり、入院措置となった。入院時の血液所見はWBC 12,600/μLであり、分画では好中球89.6%と高値、リンパ球5.9%と低値を示していた。CRPは0.66mg/dL、CKは2,994 IU/L、LDHは380 IU/Lといずれも高値であった。髄液検査においては細胞数1,176/μL、糖量86mg/dL、総蛋白量146mg/dLと、これら項目が高値を示していた。MRIによる検査では大脳・脳幹に異常信号域の多発を認めた。以上の所見から日本脳炎等を疑い三重県保健環境研究所に検体(血液、血清、髄液)が搬入された。

三重県保健環境研究所において国立感染症研究所(感染研)病原体検出マニュアルに基づきRT-PCR法による日本脳炎ウイルス遺伝子の検出を実施したところ、髄液よりNested PCRで約330bpの増幅産物が確認された。また、感染研より供与されたIgM-Capture ELISAキットを用いた抗体検出により、髄液中および血清中から抗日本脳炎ウイルスIgMが検出された。確認のため感染研において実施された同法でも髄液中および血清中から抗日本脳炎ウイルスIgMが検出され、日本脳炎と診断された。患者は11月時点でも依然として意識障害等が継続した状態である。

日本脳炎はコガタアカイエカ等を介したヒトとブタの人獣共通感染症である。1954年以降、不活化ワクチンの普及により患者数は激減し、また、ヒトにおけるウイルス感染後の発病率が1,000人に約1人程度と低率であることから、現在の日本国内では年間数例の患者発生に留まっているものの、発症すると致死率は約30%と非常に高く、また、生存例のほぼ半数に重篤な後遺症が残るとされる。今回の症例については、患者居住地域近隣に養豚場は存在しておらず、ウイルス保有蚊がこの地域に多く存在していたとは考えにくい。また、当該地域は日本紅斑熱の患者発生が認められているため、当該患者も日常からマダニ咬傷等に十分注意し、肌の露出等が無いようにしていたとのことであるが、8月下旬に彼岸用のシキミ等採取に軽装で入山しており、その時に蚊刺咬をうけた可能性も考えられた。なお、三重県で実施している日本脳炎流行予測調査事業では9月に肉用豚の抗日本脳炎抗体が検出されており、ウイルス保有蚊が現在も三重県内に存在していることが示されている。日本国内においては近年の日本脳炎患者数は年間数例と少ない傾向にあるものの、発症した場合の致死率および後遺症の発生率等を考えると、ワクチンによる疾病予防、特に抗体保有率の低下が著しい50代への追加接種も検討すべきと思われる。ワクチン接種勧奨差し控えの影響を受けた小児への対策については、2010(平成22)年度から順次積極的勧奨が再開され、抗体保有率が上昇してきている。また、コガタアカイエカ等、蚊に対する刺咬を防ぎ日本脳炎ウイルス曝露の機会を減らす対策も必要と考えられる。

 

三重県保健環境研究所 赤地重宏 楠原 一 矢野拓弥 小林隆司 西中隆道
伊勢保健所 豊永重詞 寺添千恵子 大西由夏 鈴木まき
伊勢赤十字病院 坂部茂俊
国立感染症研究所 高崎智彦

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