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IASR最新号 特集記事

IASR 457(3), 2024【特集】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症 1999年4月~2022年12月

  メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症 1999年4月~2022年12月 (IASR Vol. 45 p33-34: 2024年3月号) (2024年3月27日黄色部分加筆、横線部分削除)   黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は, ヒトや動物の皮膚, 粘膜...

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ヒストプラスマ症

疫学

Histoplasma属菌による感染症であり、主な原因菌種はHistoplasma capsulatumHistoplasma duboisiiの2種である。Histoplasma属菌は二形性真菌であり、自然環境内では菌糸形、感染した宿主内では酵母形となる。本菌は土壌中に生息しており、コウモリや鳥の糞などに特に多く、汚染地域における土木建築工事やコウモリの生息する洞窟探検などによる集団発生がしばしば報告されている。本邦での報告例は、2018年末までに約100例程度である。南極大陸を除く世界各地の土壌から分離される真菌であり、特に渓谷領域との関連性が深い。

  1. H. capsulatumによるカプスラツム型肺ヒストプラスマ症は北米・中南米・東南アジア・中国・オーストラリア・インドなど世界中の熱帯、亜熱帯地域を中心として発生している。特に米国中央部のミシシッピー川流域(ミシシッピー渓谷〜オハイオ渓谷)を中心に報告例が多く、米国では毎年50万人程度が感染する米国最大の真菌性風土病である。近年では中国の特に揚子江沿い、インドからも多数の症例報告が出ている。主な感染経路は経気道感染であり、分生子を含むコウモリやトリの糞、汚染された土壌などが感染源となりうる。病型は宿主側の免疫状態によって様々であるが、固形臓器移植やHIV患者、免疫抑制薬使用中の患者などの細胞性免疫不全状態においては、進行性播種性の病態を呈し、致死的となりうる。
  2. H. duboisiiによるズボアジィ型ヒストプラスマ症は中央アフリカを中心としてアフリカ大陸で主に報告され、ナイジェリア、ウガンダ、セネガル、コンゴ民主共和国などで報告例がある。臨床的な特徴として、皮膚(結節・潰瘍・乾癬様病変・冷膿瘍など)や骨(頭蓋骨・肋骨・脊椎病変)が主体であり、肺病変は呈さない。

臨床症状

Histoplasma属に曝露したヒトの大半 (90%以上) は無症状あるいはごく軽度のインフルエンザ様の症状を呈するのみで自然軽快し、医療機関に受診せず、ヒストプラスマ症と認識されないことも多い。しかしながら、宿主側の免疫状態により、曝露したヒトの一部では、下記の型に分類される臨床症状を呈することがある。

急性肺ヒストプラスマ症 (Acute pulmonary histoplasmosis)

主として免疫正常な宿主に生じる。潜伏期は7〜21日程度であり、大半の患者は14日目までに何らかの症状を呈する。症状としては発熱、悪寒、咳嗽、頭痛、胸痛などを生じ、また、多量の真菌に曝露された場合には重症化し、人工呼吸管理が必要になることもある。通常は自然軽快するため治療は不要であり、多くの症状は発症後10日以内には軽快するが、多量の真菌に曝露された場合には数週間に渡り症状が持続することもある。治療する場合には、軽症〜中等症例ではイトラコナゾール内服、重症例ではリポソーマル・アムホテリシンB静注が推奨される。

慢性肺ヒストプラスマ症 (Chronic pulmonary histoplasmosis)

疫学的には、慢性の呼吸器疾患を有する男性患者に発症することが多いと報告されている。症状として、微熱、慢性湿性咳嗽、体重減少、呼吸困難などを呈し、結核に類似するが、血痰は稀である。画像上も空洞形成が認められることがあり、結核との鑑別がしばしば困難となる。治療は臨床的な反応を見ながら、イトラコナゾール内服を少なくとも12ヵ月継続する。

播種性ヒストプラスマ症 (Disseminated histoplasmosis)

播種性ヒストプラスマ症のリスク因子としては、高齢者、HIV患者、血液悪性疾患、固形臓器/造血幹細胞移植、免疫抑制薬の使用、TNF-α阻害薬など、細胞性免疫不全が主として挙げられる。病型として急性型、亜急性型、慢性型に分けられる。症状としては発熱、体重減少、食思不振に加え、肝脾腫、リンパ節腫大、皮膚・粘膜病変などを形成するが、慢性型では症状に乏しいことも多く、倦怠感のみで発熱などの症状を欠くことも多い。重症例では敗血症性ショックや多臓器不全、播種性血管内凝固、腎不全、急性呼吸不全などを呈する。また、亜急性型では多彩な病態を呈することが特徴的であり、消化管病変や心内膜炎、髄膜炎や頭蓋内巣病変、副腎病変などを認める症例もある。治療としてリポソーマル・アムホテリシンBが第一選択であり、その後少なくとも12ヵ月間はイトラコナゾール内服を継続することが望ましい。慢性型の場合はイトラコナゾール内服治療を少なくとも12ヵ月継続する。

診断

Histoplasma属菌はBSL3(バイオセーフティーレベル3)に分類されている病原体であり、感染力が極めて強く取扱には十分な注意が必要である。検査室内で臨床検査技師や研究者が感染する事故が起こる可能性が高い。ヒストプラスマ症が疑われた場合は、専門の施設(千葉大学真菌医学研究センター臨床感染症分野もしくは国立感染症研究所真菌部)に対応について相談することが望ましい。

分離培養

喀痰・気管支肺胞洗浄液・肺生検標本などの検体をポテトデキストロース培地に塗布し、25℃で最低4週間培養する。寒天培地は通常の平板培地ではなく、フィルターキャップ付の斜面培地を作製する。培養陽性となれば、遺伝子解析により菌種同定を行う。あわせて、鏡検により大分生子の形成を確認する(図1)。

図1 H. capsulatumの大分生子

 

 

菌株の遺伝子同定

まず、菌体から煮沸によりDNAを抽出する。ribosomal RNA(rRNA)遺伝子間に存在するinternal transcribed spacer (ITS)領域、またはrRNA遺伝子中のlarge subunit D1/D2領域を増幅するプライマーにてPCRを行い、増幅産物が得られた場合には、この産物について塩基配列解析を行ったのち、国際的に公表されているデータベース(MycoBankなど)を参照して菌種を同定する。

病理組織学的検査

グロコット染色により、小型の酵母様真菌が観察できる。

免疫学的診断法

抗体検査は市販化されたキットは入手困難であり、ほとんど行われない。IMMY社の抗原検査キットにより、尿検体 (および参考値であるが血清検体) を用いて抗原検査を行う。

令和6年1月18日

阿部雅広、名木 稔、梅山 隆、宮﨑義継

(国立感染症研究所 真菌部)

国内でよくみられる侵襲性真菌症

~カンジダ症~

 

2019年の「真菌症週間」について

“真菌感染症への気付き”を推進する週です。この取り組みは米国疾病予防管理センター(CDC)の呼びかけにより、各国各地域で問題となる真菌症の認知度をあげ、重症の真菌感染症の患者さんの救命につなげることを目的としています。

Fungal Disease Awareness Week

 

2019年の真菌症週間は9月23日~27日で、日本ではカンジダ症を取り上げます。表在性真菌症である口腔咽頭カンジダ症は、エイズ指標疾患のなかでも国内ではニューモシスチス肺炎についで二番目に多い疾患で、エイズ診断のきっかけとしても重要です。また、深在性真菌症のカンジダ血症は国内で最も頻度の高い侵襲性真菌症で、年間1万例前後の発症と推定されています。

 

本稿の初版は2019年9月に作成されたものですが、その後C. aurisの知見が集積したことを踏まえ、2023年12月に本稿の内容を改訂しております。


 

 

1. 症状

カンジダ属による感染症は大きく分けて表在性カンジダ症と深在性カンジダ症とがある。

表在性カンジダ症の代表的な疾患としては、口腔咽頭カンジダ症 (鷲口瘡)、外陰部腟カンジダ症、カンジダ皮膚炎などが挙げられる。口腔咽頭カンジダ症では、粘膜に白苔が認められ、口腔異常感、味覚異常や疼痛などが自覚される。外陰部腟カンジダ症は無症状例もあるが、有症状例では外陰部掻痒感、白色帯下、排尿痛などが症状として現れる。カンジダ皮膚炎は皮膚の慢性的な浸軟によって生じるカンジダ菌体成分に対する過敏反応によるものであり、限局的な掻痒感または有痛性の紅斑を呈すると報告される1

一方、深在性カンジダ症はより重篤な病態であり、カンジダ属の深部臓器・組織への侵襲および全身への播種による複数臓器病変を形成する。最も典型的な深在性カンジダ症の表現型はカンジダ属血流感染症 (カンジダ血症) であり、、適切な治療がなされれば播種性病変が顕在化することは少ないが、時に肝臓、脾臓、腎臓、心臓(内膜)、眼, 骨、中枢神経系などへの播種が生じうる重篤な病態である。。カンジダ血症に続発する頻度の高い合併症としてカンジダ眼内炎があり、その合併率は報告により様々であるが、15~25%程度に合併するとされる2, 3。わが国におけるカンジダ眼内炎の疫学研究では、その合併率は19.5% (疑い例含む) と報告される4

 

2. 病原体

最も分離頻度の高い原因菌種はCandida albicansであり、ついでCandida glabrataCandida parapsilosisCandida tropicalisなどがある5, 6。この4菌種が原因菌種の90%程度を占めると報告されるが、そのほか、Candida kruseiCandida guilliermondiiCandida lusitaniaeなどが原因菌種であるカンジダ症も近年増加傾向にある7C. glabrataC. kruseiは、アゾール系薬に低感受性を示す株が多く、治療の際には注意を要する。また、近年では米国などにおいてCandida aurisによる院内アウトブレイク例が相次いで報告されており、ヒト皮膚および環境中への長期間の定着、高率に認められる抗真菌薬耐性株など、他のカンジダ属とは異なる特徴を有していることから、本菌種への注目が世界的に高まっている8, 9

カンジダ属は、わが国における菌血症の主要な病原体の一つであることが、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業 (Japan Nosocomial Infections Surveillance : JANIS)の成果として示されている。菌血症における分離頻度が高いことに加え、カンジダ血症の致死率が30~50%程度と高いことからは、カンジダ属は黄色ブドウ球菌等と同様、極めて注視すべき血流感染症の原因微生物である。JANISのデータによると、C. albicansは全血液分離菌の2%を占めることが示されているが、C. albicans以外の菌種(non-albicans Candida) が同程度以上の割合で分離されることを考慮すれば、血液培養陽性例の4~5%からカンジダ属が検出されていると推定される10

Candida albicans

 

 

3. 検査

カンジダ症の確定診断には、病変部からの培養検査が重要である。特にカンジダ血症の診断においては血液培養が最も重要である。また、カンジダ血症と診断された場合には眼底検査を行い、眼内炎の有無を確認することが推奨される11。顕微鏡検査、病理組織学的検査によって真菌の存在や侵襲の有無は確定できるため、真菌症としての確定診断は可能であるが、菌種同定は形態学的には困難である。また、カンジダ属はヒトの口腔内・腸管などの粘膜および皮膚などに広く常在することも知られており、培養検査で検出された場合でも、検体の種類によっては原因菌と断定できない場合があり注意を要する。補助診断として、非特異的ではあるが血清β-D-グルカン測定が有用である12。しかしながら、β-D-グルカン検査は多くの深在性真菌症で陽性となること、また偽陽性も報告されていることなどから、臨床経過が疾患に適合するかの判断が必要である。

 

4. 治療

カンジダ血症の治療においては,抗真菌薬の有効性を評価した上での適切な抗真菌薬投与、中心静脈カテーテルの抜去、血液培養陰性化後最低2週間の抗真菌薬継続 (眼内炎合併例はより長期の治療が必要となる) などが重要である11, 13, 14。エキノキャンディン系やアゾール系抗真菌薬が第一選択薬となっているが、原因菌種によって治療薬を使い分ける必要がある。例えばC. glabrataC. kruseiのようなアゾール耐性あるいは低感受性菌の場合にはエキノキャンディン系抗真菌薬が使用される。一方、眼内炎合併例の場合は、エキノキャンディン系抗真菌薬の有効性は一般的に低いと報告されており、重症度および原因菌種に応じてアゾール系またはポリエン系抗真菌薬での治療が推奨される。

 

5. Candida aurisについて  

C. aurisは2009年に耳漏より分離され、新規のカンジダ属として帝京大学の槇村・山口らにより初めて報告された菌種である15。報告当初は耳漏からの分離株 (非侵襲性株) であったが、その後短期間に複数の国から血流感染症の報告 (侵襲性株) が相次いでなされ現在ではemerging pathogen (新興病原微生物) の一つとして位置付けられるようになった16-20。わが国においてはこれまで非侵襲性の報告しかなかったが、2020年に国内初となるC. auris血流感染症により死亡した症例 (Clade I <South Asian Clade>:フィリピンで集中治療歴を有する患者)が発生し、2023年に報告された21。国内での発生を受け、令和5年5月1日、厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡「多剤耐性で重篤な感染症を引き起こす恐れのあるカンジダ・アウリス(Candida auris) について(情報提供及び依頼)」により、C. aurisに関する情報提供を各自治体へ依頼し、国内でのC. auris感染症の発生状況の把握を図っている22

C. aurisは、1) 抗真菌薬に耐性を示す株の割合が高い、2) 環境中での長期間生存およびヒトへの長期間の定着が示されており、院内 (集中治療室など) で医療機器を介したアウトブレイク事例が複数報告されている、という2点において、現在注視すべき真菌の一つに挙げられている。

抗真菌薬耐性の観点から複数国の分離株の薬剤感受性を調査した研究では、93%の分離株がフルコナゾール耐性、35%がアムホテリシンB耐性、また41%が2種類以上の抗真菌薬に耐性という結果であり、さらには3系統の抗真菌薬すべてに耐性を示す菌株も報告されている17C. auris感染症に対する治療戦略の確立は重要な課題の一つである。

C. aurisのヒトへの定着は、鼻腔、鼠径部、腋窩、直腸など様々な身体部位に生じ、初回検出時より3ヵ月以上経過しても検出されうると報告される8, 19。ヒトへの定着の危険因子には、C. auris保菌者・その周囲の環境との接触が含まれ、C. auris保菌までに要する時間はわずか数時間とする研究報告もあり、ヒトへの定着は、汚染された環境などから容易に生じうると推察される19, 23。短期間での定着、多剤耐性の可能性および侵襲性感染症発症時の高い致死率を鑑みると、院内におけるC. aurisに対する感染対策が極めて重要となる。欧米のガイドラインでは、患者の隔離 (Isolation)、手指消毒と接触予防策 (Hand hygiene and Contact precautions)、感染患者に使用した備品・環境の清掃・消毒 (Cleaning and Disinfection) の重要性が挙げられている24-27C. aurisは、人の手を介した直接的な接触感染や、環境表面を介した間接的な接触感染により伝播することから、特に手指衛生が重要と考えられている。また、C. auris感染症患者・保菌者から曝露を受けた可能性がある者に対しては、腋窩・鼠径部のスクリーニング検査が推奨されており、保菌の有無を確認することがアウトブレイク防止に重要と考えられる28, 29。また、

C. aurisは乾燥・湿潤環境のいずれでも長期生存が確認され、また、プラスチック表面でも14日間程度生存しうることが報告されている26, 30, 31。この生存率はC. albicansよりも長期であり、環境汚染がより生じやすいことが示唆される。また、消毒薬に対する抵抗性も高く、クロルヘキシジングルコン酸塩、第四級アンモニウム塩などの低水準消毒薬については、効果は限定的であると報告されている 32, 33。環境表面の消毒においては、エタノール、次亜塩素酸ナトリウムなどの中水準以上の消毒薬が有効と報告されるが、推奨された濃度・接触時間を守ることが重要である24, 32, 33。また、患者・保菌者の退院後に適切に病室の最終清掃・消毒を行うことも重要であり、高濃度次亜塩素酸ナトリウムと蒸気化過酸化水素または紫外線の併用が高い効果を発揮するという報告もある8, 19, 34。保菌した患者周辺の物品の表面や、医療器具 (体温計・血圧計・パルスオキシメーター・聴診器など) の広範な環境汚染も報告されており、使用した医療器具の適切な洗浄と消毒、周辺環境の適切な清掃・消毒を実施することが院内感染対策上重要と考えられる29, 35, 36

これらの背景を受け、わが国でも「カンジダ・アウリス 診療の手引き」が作成・公開されており、対策が急がれている37

 

※ 2024年2月29日追記

国立感染症研究所真菌部では、C. auris特異的なリアルタイムPCR用プライマーを開発している。プライマーの配列は以下の通りである。

Candida-auris-5Fwd ACGTATGTCTCATCCCAATTCTCC
Candida-auris-5Rev ATCACGCACCACCCACTCTATTC

 

 
引用文献
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2019年9月第一版・2023年12月第二版改訂
(国立感染症研究所真菌部  名木 稔、 阿部雅広、 宮﨑義継)

真菌部 部長

宮﨑義継

ym

 

国内の真菌症
  真菌感染症には白癬のように誰にでも発症する場合と、免疫力の低下しているヒトに起こる場合があります。いずれの場合も肺、脳などに侵襲し重篤化する疾患があります。誰でも重篤化する真菌症としてコクシジオイデス症やクリプトコックス症などがありますが、国内で感染し発症するのはクリプトコックス症です。本症の播種型は平成26年に感染症法で全数把握疾患に規定され、現在、国内での動向や疾病の性質が明らかになりつつあり、とくに高齢者では致命率が高いことが解ってきました。

 一方、何らかの病気がある場合に起こる代表的な真菌症はカンジダ症とアスペルギルス症です。カンジダ症は、血液から菌が生える極めて重篤な状態といえる「菌血症」の原因微生物として国内トップ5に入る頻度でありながら致命率が10~30%程度と重篤な感染症です。アスペルギルス症は、白血球がほとんど無くなるくらい重症の免疫低下があるときに発症する、早期に診断と治療が必要な疾患です。アスペルギルス症と区別が難しいものにムーコル症があり有効な治療薬が1~2種類しかなく特に早期の診断治療が必要です。

新しい真菌症
  これまでに知られていなかった真菌症として、2020年ころから健常なヒトに発症するクラドフィアロフォラ・バンティアナが国内でみられるようになりました。また、2015年ころからはカンジダ属の中のカンジダ・アウリスが世界的に院内・施設内感染のアウトブレイクをおこし一部は薬剤耐性であるため、ヒト–ヒト感染をおこす重症感染症として世界的脅威と認識されています。

真菌部の取り組みについて
  真菌部では、新しい真菌症をふくめて生命の脅威となる侵襲性の真菌症を主な対象にしています。病気の重症化の原因を解明し、診断法と治療法に直結する研究を第一優先として推進しています。社会に直接還元できる活動では、平成28年度から侵襲性真菌症対策事業が開始され、大学病院等でも検査が困難な症例の真菌症の診断支援を(真菌同定検査依頼 https://www.niid.go.jp/niid/ja/fungi-kensa.html)、令和2年からは感染研全体で取り組んでいる新型コロナ感染症対策として臨床研究やCOVID-19検査指針の作成等を行っています。

 

スタッフ・専門分野

部長
宮﨑義継(医学博士)昭和63年長崎大学医学部卒、平成19年より現職
          ;感染症学.医真菌学.呼吸器病学.内科学
          資格等:感染症指導医、呼吸器専門医.認定内科医
主任研究官
石川 淳(品質保証研究センター・病原体ゲノム解析研究センター併任)
藤本嗣人
協力研究員
山越 智(国立国際医療研究センター)
岡本 圭祐(東京医科歯科大学医学部附属病院 小児科)
スタッフ
福田惠子  担当;計画数学、医真菌学、外部精度管理事業事務局
安江恭子  担当;経理、文書管理

令和6年4月1日
真菌部
宮﨑義継

真菌部第一室

酵母様真菌による表在性・深在性真菌症の病態・診断・治療に関する研究ならびに侵襲性真菌症疑い症例の診断支援として真菌検査業務を行なっている。

真菌同定検査の依頼はこちらからお願いいたします

主な対象疾病

●カンジダ症

●輸入真菌症

主な研究テーマ

●酵母様真菌の病原因子に関する研究

●深在性真菌症の診断・検査技術の開発

●新規抗真菌薬候補の評価・作用機序に関する研究

●酵母様真菌感染症と環境因子の関連性評価

●表在性真菌症の発症機序・病態に関与する因子の解析

メンバー構成

室長
阿部 雅広 −>researchmapへ
研究員
老木 紗予子
大谷 天人
小泉 亜未(感染症危機管理研究センター第六室 併任)
定本 聡太
協力研究員
越川 拓郎(聖マリアンナ医科大学 微生物学教室 助教)
実験補助員
中山 靖子

令和6年4月1日
真菌部
阿部 雅広

真菌部第二室

(糸状菌室)

Laboratory of Filamentous Mycoses

 

Aspergillus fumigatus

アスペルギルス症の原因菌の1つ

Cunninghamella bertholletiae

ムーコル症の原因菌の1つ

 

 

主な対象疾病

●アスペルギルス症

●ムーコル症

主な研究テーマ

●CRISPR/Cas9ゲノム編集技術による糸状菌の薬剤耐性機構に関する研究

●血清刺激によるアスペルギルスの生育機構に関する研究

●糸状菌のバイオフィルム形成に関する研究

●細胞内シグナル伝達による糸状菌の病原性発現機構に関する研究

●糸状菌と肺胞上皮細胞との相互作用に関する研究

●真菌感染によるアレルギーに関する研究

メンバー構成

室長
梅山 隆 −>researchmapへ
主任研究官
高塚 翔吾 −>researchmapへ
宮澤 拳 −>researchmapへ
研究員
堀口 崇典 
スタッフ
戸室弘子 

 

2024年4月1日
真菌部
梅山 隆

真菌部第三室

 

真菌感染に対する感染免疫機構に関する研究、および真菌感染を予防するワクチンや新しい治療法・診断法の開発を行っている。

主な研究テーマ

●呼吸器真菌感染症を制御する肺常在性記憶型T細胞の研究

●呼吸器真菌感染症を予防するワクチン開発

●病原性真菌に対する自然免疫応答に関する研究

●真菌の病原性因子の探索に関する研究

●真菌感染症に対する新しい治療法・診断法の開発

メンバー構成

室長(代理)
宮﨑 義継(真菌部長)
主任研究官
上野 圭吾
スタッフ
永森 晶子
本弓 奈穂子

 

令和5年5月10日
真菌部
宮﨑義継

高病原性クリプトコックス症(Cryptococcus gattiiによるクリプトコックス症)について

平成22年7月21日作成
平成26年9月1日更新
真菌部 

<疫学>
 クリプトコックス症の従来型の病原体であるC. neoformansは、全世界に分布し、ヒト感染症の感染源として鳥の糞との関係が指摘されている一方、今回報告するC. gattiiは、主にオーストラリアを中心とした熱帯・亜熱帯地区に分布し、ユーカリの樹に生息し、コアラの病原体として知られ、ヒトへの感染はまれとされてきた。しかしながら、近年、カナダ・ブリティッシュコロンビア(BC)州のバンクーバー島東海岸地方で集団発生が起こり、1999 年以降、健常人を含む100 名以上がC. gattii に感染し、死亡例も報告されている。バンクーバー島での1999 年から2007年までの平均発症率は100 万人当り25.1にものぼる1。また、当初はバンクーバー島だけの集団発生であったが、その後、バンクーバー市を含むBC 州の各地、および近接する米国ワシントン州やオレゴン州にも広がった2。さらに、2010年には発生地域への明らかな渡航歴のない日本人での発症例が報告され3、発生地域の世界的な拡大傾向が憂慮されている。その感染拡大の原因として、1)バンクーバー島で検出されたC. gattii の胞子は、植物由来の胞子より小さく、そのために容易に感染が拡大した可能性、2)Cryptococcus の同性間交配( same-sex mating )が起こり、その特性を変化させた可能性4、3)温暖化等の地球環境変化に伴う生息地域拡大の可能性、などが議論されている。
 
<原因真菌>
 C. gattiiは、遺伝子タイプとして、大きく4つに分類され(VGI~IV)、今回、拡大傾向にある株はVGIIである4-7。バンクーバー島で集団発生した株は、さらに、主要株VGIIaと少数株VGIIbなどに分類される。また、VGIIaは、病原性が高いことも示唆されている4。本邦における第一号の株は、バンクーバー島で集団発生したVGIIaと同一の株であることが確認され、何らかの形で日本に運び込まれた可能性も考えられる3。また、米国オレゴン州を中心に新たな遺伝子パターンVGIIc型のC. gattiiによるクリプトコックス症の発生も確認され、今後の動向が注目されている5,6

<症状>
 潜伏期は、2~11ヶ月(中央値6~7ヶ月)と長く8、帰国後の感染症の際には、1年前にまで遡った渡航歴の聴取が必要である。
 従来型と同様、発熱などの感染症状に加え、呼吸器病変を反映した呼吸器症状(咳、呼吸困難、胸痛など)、および、中枢神経病変(脳髄膜炎)を反映した神経症状(頭痛、食思不振、項部硬直、嘔吐、記憶障害、性格の変化など)や体重減少、盗汗などが見られる1

<診断>
 上記の症状や、渡航歴、画像所見(胸部レントゲン・CT、頭部CT)などから本症を疑い、病理学的検査や培養検査を行う。
 培養検査や病理学的検査は、従来型と同様で、確定診断は呼吸器由来の検体や髄液の真菌培養や肺や臓器の病理組織学的検査で感染を証明する。病理組織学的にはC. gattiiC. neoformans の形態学的特徴はあるものの、両者を鑑別することは難しい。真菌の同定には、生化学的同定(API20C など)や血清型の決定が必要であるが、現在血清型の簡易キットが生産中止になっているため、遺伝子学的検査(rRNA遺伝子等の特異的配列)が重要である。
 グルクロノキシロマンナン抗原検査を検出する血清学的検査は、C. neoformansによるクリプトコックス症の診断に頻用され、感度・特異度、および迅速性に優れた非常に有用であるが、C. gattii にはやや反応しにくく、血清検査による診断に際しては、偽陰性の可能性を考慮する必要がある。

<予防法・治療法>
 従来型同様、ワクチンなどの確実な予防法は確立していない。流行している地域への渡航に際しては、渡航中および帰国後の体調管理に注意し、症状がみられる際には医師に相談し、早期に発見することが重要である。また、国内発生例の報告も考慮すると、渡航歴がない場合にも注意が必要である。
 治療法は、従来型と同様の抗真菌薬が有効である。

<感染源・感染経路>
 ある種の樹木や樹木の周囲の土壌を感染源として、空気中に舞い上がった浮遊真菌を吸い込むことでヒトに感染すると考えられているが、その感染源や感染経路に関しては完全には明らかとなっていない。ヒト間感染、動物間感染、動物-ヒト間感染はこれまでに報告されていない。

<危険因子等>
 従来型は健常者と免疫不全者に同程度に起こるが、免疫不全者では重症化しやすい。一方、高病原性の場合、より健常者に多く起こり重症化もし易い傾向がある。死亡率に関しては、高齢、中枢神経病変、基礎疾患の有無、およびVGIIbが、危険因子となりうることが指摘されている1。

参考文献
1. Galanis E, Macdougall L. Epidemiology of Cryptococcus gattii, British Columbia, Canada, 1999-2007. Emerg Infect Dis 16: 251-7, 2010.
2. Springer DJ, Chaturvedi V. Projecting global occurrence of Cryptococcus gattii. Emerg Infect Dis 16:14-20, 2010.
3. Okamoto K, Hatakeyama S, Itoyama S, Nukui Y, Yoshino Y, Kitazawa T, Yotsuyanagi H, Ikeda R, Sugita T, Koike K. Cryptococcus gattii Genotype VGIIa Infection in Man, Japan, 2007. Emerg Infect Dis 16:1155-7, 2010.
4. Fraser JA, Giles SS, Wenink EC, Geunes-Boyer SG, Wright JR, Diezman S, Allen A, Stajich JE, Dietrich FS, Perfect JR, Heitman J. Same-sex mating and the origin of the Vancouver Island Cryptococcus gattii outbreak. Nature 37: 1360-1364, 2005.
5. Byrnes III EJ, Bildfell RJ, Frank SA, Mitchell TG, Marr KA, Heitman J. Molecular evidence that the range of the Vancouver Island outbreak of Cryptococcus gattii infection has expanded into the Pacific Northwest in the United States. J Infect Dis 199: 1081-1086, 2009.
6. Byrnes III EJ, Li W, Lewit Y, Ma H, Voelz K, Ren P, Carter DA, Chaturvedi V, Bildfell RJ, May RC, Heitman J. Emergence and pathogenicity of highly virulent Cryptococcus gattii genotypes in the Northwest United States. PLoS Pathogens 6: e1000850, 2010.
7. Kidd SE, Hagen F, Tscharke RL, Huynh M, Bartlett KH, Fyfe M, MacDougall L, T. Boekhout, Kwon-Chung KJ, Meyer W. A rare genotype of Cryptococcus gattii caused the cryptococcosis outbreak on Vancouver Island (British Columbia, Canada). Proc Natl Acad Sci USA 101: 17258-17263, 2004.
8. MacDougall L, Fyfe M. Emergence of Cryptococcus gattii in a novel environment provides clues to its incubation period. J Clin Microbiol 44: 1851-1852, 2006.

 
  

真菌部第四室

 

主な研究テーマ

●抗菌および抗真菌物質の探索に関する基盤研究  

●細菌・真菌ゲノム解析とその創薬への応用に関する研究

●非天然型生物活性物質の創製に関する研究

●薬剤耐性機構の解明とその創薬への応用に関する研究

メンバー構成

室長(代理)
宮﨑義継(真菌部長)
主任研究官
星野泰隆
村長保憲(安全管理研究センター 第二室併任)
研究員
篠原 孝幸

真菌部第四室が関係する研究リソース

ゲノムプロジェクト
Nocardia farcinica IFM 10152(病原性放線菌)
Streptomyces avermitilis(エバメクチン生産菌)
Streptomyces griseus IFO 13350(ストレプトマイシン生産菌)
Mycoplasma penetrans HF-2(日和見病原菌)
Symbiobacterium thermophilum(高GC微生物共生菌)
解析ツール
FramePlot (高GC細菌のORF探索)
2ndFind(二次代謝産物生産遺伝子探索)
その他
デジタル放線菌図鑑(日本放線菌学会)

令和6年4月1日
真菌部
宮﨑義継

<注 意 喚 起>

台風等の水害発生後に注意が必要な

免疫不全患者の侵襲性真菌感染症について

 

医療機関の方々へ:

台風等の水害発生後に、カビへの曝露によって病気になった患者を治療する場合は、侵襲性真菌感染症の可能性について留意してください。

 

背景

ヒト、特に免疫系が低下しているヒトは、環境中に生息する真菌に曝露後、数日から数週間で、侵襲性真菌感染症を発症する可能性があります。水害の結果、発生した屋内のカビへの曝露により、このリスクが高まる可能性があります。

これらの感染症は:

• 稀です。

• 通常はアスペルギルスが原因ですが、ムーコルなどの他のタイプのカビが原因となることもあります。

• 診断が困難です。

• しばしば致死的となります。

 

危険因子

発症リスクがあるのは次のような人です:

• 移植を受けた人(特に造血幹細胞移植)

• がん(特に白血病やリンパ腫などの血液悪性腫瘍)がある人

• がん治療(化学療法)中の人

• ステロイドおよび生物学的製剤などの、免疫系が弱くなる薬を使用中の人

 

徴候と症状

患者、カビの種類、罹患した身体の部位によって異なりますが、多くの場合以下が含まれます:

発熱、副鼻腔の症状、咳嗽、盗汗、呼吸困難、皮膚の暗色の痂皮・水疱・潰瘍、体重減少

患者がこれらの症状のいずれかおよび上記の危険因子のいずれかを持っている場合、真菌感染症の検査を検討してください。

 

診断と治療

侵襲性真菌感染症の診断には、複数の検査が必要です。これらの検査結果は、各患者の病歴等に応じて解釈する必要があります。

検査には次のものが含まれます:

• 肺感染症の検出によく使用される、患部の検体の培養(気管支肺胞洗浄[BAL]など)

• 真菌培養および病理組織の検体を得るための、感染が疑われる部位の生検

• 罹患部位の画像 (例:呼吸器症状に対する胸部CT)

• 主に免疫不全患者に用いられる血液検査(アスペルギルスガラクトマンナン抗原検査など)

早期治療の導入により死亡を防ぐことができます。 治療には抗真菌薬投与と、場合によっては緊急手術が含まれます。診断と治療の一助となりますので、感染症の専門家への相談をご検討ください。

 

予防のための情報

水害後などにカビへの曝露があった場合には、免疫不全患者にカビから身を守る方法について情報提供してください:

• カビは湿気がある場所で、通常は水害後24〜48時間以内に発生します。見えなくても、しばしば存在します。

• 免疫不全の人は、カビの生えた建物に入ったり、カビの掃除を手伝ったりしてはいけません。免疫が低下している人がカビの生えた建物に入ることを避けられない場合、患者は医師と相談し、建物内ではマスクを着用することを推奨しましょう。カビへの曝露から患者を完全に保護することはできませんが、そのリスクを減らすことはできる、ということを伝えましょう。

• 患者の家にカビが発生している場合、掃除や水の問題の解決は、健康な人に任せましょう。

• 健康な人もカビの掃除をしたり、カビの影響を受けた場所で時間を過ごしたりする時は、マスク、手袋、ブーツ、長ズボン、長袖などの完全な保護服を着用してください。マスクだけでは、カビに曝露されて病気になることを完全に防ぐことはできません。

 

 

~米国疾病管理予防センター(CDC)からの情報提供による~

参考URL:https://www.cdc.gov/mold/306718-A_FS_MoldInfectionsPostHurricaneandFlood-H.pdf

2019年11月
(国立感染症研究所真菌部  梅山 隆、 阿部雅広、 宮﨑義継)

Cryptococcus gattii感染症の取扱指針

 

宮﨑義継、渋谷和俊、杉田 隆、泉川公一、高倉俊二、石野敬子、金子幸弘、大野秀明

厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業

「地域流行型真菌症の疫学調査、診断治療法の開発に関する研究」

 平成23-25年度 総合研究報告書 p.99-100.2014 

 

1.背景

 健常者におこる深在性真菌症として、わが国ではクリプトコックス症の頻度が最も高い事が知られている。原因真菌としてCryptococcus neoformansが一般的であり、C. gattiiが原因とされた症例は、オセアニア等への旅行の際に感染したと推定されていた。1990年代の終盤にカナダのバンクーバー島でC. gattiiによる感染症が急増し、その後、バンクーバー島からブリテッシュコロンビア州本土、北米の西海岸へと徐々に拡大した。2010年に米国CDCは、米国においてもC. gattii感染症に関連した多くの死亡例があることを注意喚起した。わが国でも国内で2007年に治療を受けた患者のC. gattii感染症が発表され、北米で流行が確認されている株と同一の遺伝子型を有するC. gattii感染症と報告されている。本研究班において、国内の保存株や新規クリプトコックス症例の調査を行った結果、C. gattii感染症が国内で感染し発症したと考えられた症例があったため、C. gattii感染症を疑う場合の取り扱い指針の一案を作成した。ただし、本疾患は未だわが国における症例の蓄積が少ないため調査を継続し適宜改訂が必要である。

 

2.診断・検査

① 診断のきっかけ:脳髄膜炎に矛盾しない自他覚症状。呼吸器症状。肺に結節影や腫瘤影、浸潤影などの胸部異常陰影。中枢神経系に腫瘤様の異常陰影。

 

以下により、C. gattii感染症であることを診断する。

② 臨床診断:ア)血清あるいは脳脊髄液中のクリプトコックスグルクロノキシロマンナン抗原陽性で、臨床経過が適合する場合はクリプトコックス症と診断してよいが、C. neoformansあるいはC. gattiiのどちらが原因かは判断できない。現時点では、C. gattii感染症の簡便な臨床診断法はない(付1)。

③確定診断:ア)組織あるいは脳脊髄液などの無菌的検体、あるいは、病変部位の洗浄液(肺胞、あるいは気管支洗浄液)などから原因真菌を分離培養し、C. gattiiと同定された場合。イ)病理組織あるいは脳脊髄液において病理組織学的にクリプトコックスと判断される酵母が確認され、かつ、特異遺伝子が検出された場合。

C. gattiiの同定:原因菌が分離された場合は真菌学的に確認する。一般的な検査法については付2に示す。

 

3.治療(エビデンスレベルは症例報告や専門家の意見に基づくものである)

①中枢神経系C. gattii感染症:C. neoformansの治療に準じて、アムホテリシンBリポソーム製剤とフルシトシン併用が初期治療として適切と考えられる。脳浮腫やそれに伴う神経学的症状を認める場合にはステロイドの併用を行ってもよい。ただし、本レジメンに治療抵抗性の症例も報告されており、通常より長期間、高用量の抗真菌薬療法が必要とされる場合もある。治療抵抗性の場合は、脳圧亢進に対して持続的ドレナージやシャント術、限局した病変に対しては必要に応じて外科的切除も考慮される。

②肺C. gattii感染症:臨床診断例や確定診断例では、フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾールなどのアゾール系抗真菌薬を基礎疾患に応じて使用する。基礎疾患として免疫不全を有さない場合では12週程度を治療の目安とする。明らかな免疫不全を有する場合は24週程度を目安に治療を行い、基礎疾患など考慮して、維持、あるいは、中止を検討する。

 

付1. C. gattii感染症における莢膜抗原(クリプトコックスグルクロノキシロマンナン抗原)診断法

 一般的にはC. neoformans感染症と同様に、C. gattii感染症においても血清等の莢膜抗原診断法(セロダイレクト栄研クリプトコックス等)では陽性となる。但し、抗原価と病勢についての相関は不明である。

 

付2. C. gattiiの同定

 クリプトコックス属血清型の診断では、以前はCrypto-Checkキット(Iatron社)を用いて同定が可能であったが、2014年現在、本キットの販売はなく、鑑別用の培地を用いて簡易的に同定する方法か、分子生物学的に同定する方法が現実的である。

1)L-canavanine glycine bromothymol blue (CGB)培地を用いる方法

 Sabouraud dextrose agar、potato dextrose agarなどの培地に発育したクリプトコックス属について、フェノールオキシダーゼ試験陽性かつCGB培地で発育を認めれば、C. gattiiと簡易的に同定は可能である。CGB培地で菌の発育を認めた場合、培地の色が黄色からコバルトブルーに変化するので判別しやすい。最終同定には遺伝学的同定法が望まれる。CGB培地組成については以下の論文を参考にされたい。

・Kwon-Chung K, et al. Improved diagnostic medium for separation of Cryptococcus neoformans var. neoformans (serotype A and D) and Cryptococcus neoformans var. gattii (serotype B and C). J Clin Microbiol 15: 535-537, 1982.

2)分子生物学的同定法

一般的な真菌の遺伝子による同定法として、rRNA遺伝子のinternal transcribed spacer (ITS)領域、large subunitのD1/D2領域の相同性による同定法が用いられており、クリプトコックス属もこの方法で基本的には同定が可能である。実際には、上記2つの領域に加え、intergenic spacer (IGS)領域の塩基配列も検討する方がより確実と思われる。

・杉田隆ほか. 病原性酵母の分類と同定における最近の動向‐第5版The Yeasts, a taxonomic studyから‐. 真菌誌 52: 107-115, 2011.

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan