国立感染症研究所

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<速報>日本国内で感染した17例のデング熱症例

(掲載日 2014/9/19) (IASR Vol. 35 p. 241-242: 2014年10月号)

1940年代以降、国内で感染したデング熱症例は報告されていなかったが1)、2014年8月26日に約70年ぶりに東京都内で感染したと思われるデング熱症例が報告された。その後も東京都内を中心に海外渡航歴のないデング熱症例が報告され、2014年9月16日現在、124例となっている。国立国際医療研究センターでは、9月15日までに17例の国内感染例を診療しており、この17症例についての疫学的情報、臨床症状、検査所見について解析した。

患者の年齢は中央値33歳(6~64歳)、性別は男性9例、女性8例であった。発症日は最も早い患者で8月12日であった。発症日から受診日までの日数は中央値3日(0~24日)であった。17例の発症日をプロットした流行曲線を図1に示す。17例の患者すべてに3カ月以内の海外渡航歴はなく、代々木公園、新宿中央公園、明治神宮、神宮外苑のいずれかで感染したものと考えられた(図2)。これまでに14例が入院となり、3例が外来で経過観察となった。

 

臨床症状では発熱(17例: 100%)、頭痛(15例: 88.2%)、関節痛(7例: 41.2%)、筋肉痛(7例: 41.2%)の頻度が高かった。嘔気(4例: 23.5%)、嘔吐(2例: 11.8%)、下痢(0例: 0%)といった消化器症状や、咽頭痛(2例: 11.8%)、咳嗽(3例: 17.6%)、喀痰(1例: 5.9%)といった呼吸器症状は頻度が低かった。初診時に皮疹がみられたのは4例(23.5%;それぞれ発症から2日、6日、7日、8日目に初診)であったが、経過を通して皮疹が出現したのは14例(82.4%)であった。発熱期間が観察できた15例では、38℃以上の発熱がみられた期間は中央値7日間(4~11日間)であった。1例において腹痛、体液(胸水および腹水)貯留所見および肝機能障害(AST 914 IU/L、ALT 277 IU/L、LDH 2,189 IU/L)がみられたが、現在は軽快傾向である。なお、デング出血熱の定義を満たす重症症例はなかった。

初診時の検査所見は、白血球 2,600 /mm3(四分位範囲2,400-3,490); Ht 41.8%(38.3-42.7); Plt 11.5万/mm3(8.8-15.5); AST 35 IU/L(23-42); ALT 22 IU/L(14-28); LDH 227 IU/L(176-235); CRP 0.84 mg/dl(0.26-1.93)であった。初診時に白血球減少(<3,500 /mm3)、血小板減少(<15.0/mm3)がみられたのはそれぞれ13例(76.5%)、12例(70.6%)であったが、発熱期を過ぎてから受診した1例を除いたすべての患者で経過中に白血球減少・血小板減少が観察された。

デング熱の診断については、国立感染症研究所における遺伝子検査で診断された症例が4例、東京都健康安全研究センターにおけるNS1抗原検査(ELISA法)で診断されたものが1例、デング熱IgM抗体(ELISA法)で診断されたものが1例、国立国際医療研究センターで行った、イムノクロマトグラフィー法を用いてNS1抗原・IgM/IgGを同時に測定できるデング熱迅速検査キットSD BIOLINE Dengue Duo(Standerd Diagnostics社、韓国)で診断されたものが11例であった。遺伝子検査でウイルスが検出された4例のウイルスの血清型はすべてDENV-1であった。デング熱迅速検査キットで診断された11例すべてでNS1抗原が陽性となり、3例でデング熱IgM抗体が陽性となった。NS1抗原は発症から受診までの日数が0~7日の症例で陽性となり、IgM抗体は6~7日の症例で陽性となった。

デング熱の臨床症状は発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛といった非特異的な症状の頻度が高い2)ため、臨床症状だけでは診断は難しい。我々の診療した17例では、これまでに厚生労働省より発表されている代々木公園周辺、新宿中央公園、神宮外苑のいずれかでの明確な蚊の刺咬歴があり、診断の手がかりとなった。今後、感染地域は拡大する可能性はあるが、現在発表されているこれらの地域での曝露歴は診断に有用であると考えられる。デング熱では皮疹が特徴的な所見であるが、発熱期では皮疹がみられないことが多い。今回の17例のうち初診時に皮疹がみられたのは4例のみであり、このうち2例はすでに解熱していた。最終的には14例で皮疹が確認されており、頻度が高い所見ではあるが、解熱する前後に出現することが多いため、発熱期の診断の手がかりとはなり難い。

血液検査所見では、白血球減少と血小板減少がデング熱を疑う手がかりとなりうるが2, 3)、初診時には白血球・血小板が正常である患者もそれぞれ4例、5例あり、初診時にこれらの検査所見がないからといってデング熱を除外することはできない。今回の17例ではすべて経過中に白血球減少・血小板減少が観察されており、臨床症状や曝露歴からデング熱が疑わしいが初診時に検査所見でこれらの所見がみられない場合は、フォローアップを行い、これらの所見が出てこないか慎重に観察すべきである。

デング熱の診断は、本来遺伝子検査でウイルスを検出するか、ELISA法によるIgM抗体を検出することによってなされる。しかし、現状では国内デング熱症例が急増しており、患者が感染したと推定される場所の情報を考慮した上でイムノクロマトグラフィー法でのNS1抗原陽性をもってデング熱として届出が行われている。

デング熱は近年、日本国内での感染の報告がなかった感染症であるが、輸入感染症としてすでに年間200例以上が報告されていた既知の疾患であり、国内感染例であることで診療内容に違いはない。対症療法を行いながら重症化の徴候を見逃さないようにすることが重要である点も、輸入感染症としてのデング熱の診療と同様である。

 
引用文献
  1. Hotta S, Dengue vector mosquitoes in Japan: The role of Aedes albopictusand Aedes aegypti in the 1942-1944 dengue epidemics of Japanese Main Islands, Medical Entomology and Zoology. Vol 49 (4): 267-274, 1998
  2. Dengue: guidelines for diagnosis, treatment, prevention and control -- 2009 New edition
  3. Potts JA, Rothman AL, Clinical and laboratory features that distinguish dengue from other febrile illnesses in endemic populations, Trop Med Int Health 13: 1328-1340, 2008

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