国立感染症研究所

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<速報>エンテロウイルス感染症疑い患者からのパレコウイルス検出の増加―大阪府―

(掲載日 2014/8/12) (IASR Vol. 35 p. 221-222: 2014年9月号)

感染症発生動向調査事業による病原体定点から大阪府立公衆衛生研究所に搬入された手足口病・ヘルパンギーナ・無菌性髄膜炎等の患者由来検体から比較的高頻度にパレコウイルス(HPeV)を検出したので報告する。

平成26年度は4月から7月24日現在までに、当所には手足口病と診断された患者に由来する8検体、ヘルパンギーナ60検体、無菌性髄膜炎23検体、その他のエンテロウイルス感染症疑い5検体、計96検体(咽頭拭い液;53、うがい液;18、髄液;13、糞便;8、鼻汁;2、唾液;1、尿;1検体)が搬入された。

全ての検体に対し、エンテロウイルスVP4-2領域を標的としたRT-semi-nested PCR1)を実施した。核酸検査で88症例96検体中52検体49症例からエンテロウイルスが検出され、陰性であった38症例44検体に対し、HPeVに対するRT-real time PCR2)を実施した。HPeVが陽性となった検体に対してHPeV の5’UTR領域に対するRT-PCR3)を行い、増幅産物に対するダイレクトシークエンスにて遺伝子型別を実施した。

疾患別にウイルス検出率を解析すると、手足口病では50%(4/8症例)からHPeVが検出された。これら4症例のうち3例は手足の水疱が不明瞭であったと報告されている。その他、Coxsackievirus A 4 (CA4)が1症例から検出されている。ヘルパンギーナでは72%(43/60症例)にCA2, CA4, CA5等が検出されたが、7%(4/60症例)からHPeVが検出された。無菌性髄膜炎では25%(4/16症例)でEchovirus (Echo)18, Echo30が検出され、13%(2/16症例)からHPeVが検出された。その他のエンテロウイルス感染症疑いでは、25%(1/4症例)からHPeVが検出された。この症例は生後6日から突然の発熱で発症し、全身の発赤、高サイトカイン血症と診断された。

HPeVの遺伝子型を解析すると、増幅可能であった12検体中8検体全てがHPeV 3型であった。検出動向を月別にみると、HPeVは4月からすでに検出され始め、他のエンテロウイルス種と同様6~7月に急増した(図1)。4月にHPeVが検出されたのは無菌性髄膜炎と診断された生後1か月の患者由来の髄液からであり、5月はヘルパンギーナと診断された1歳の患者の咽頭拭い検体からであった。また、平成24年度および25年度にエンテロウイルス感染症と診断され、エンテロウイルスが陰性であった検体、それぞれ約200検体および約70検体についてHPeVの検索を実施したところ、両年度ともに、各1名の患者から検出されたのみであった。

平成26年シーズンにおいて、エンテロウイルス感染症疑いの患者でHPeVの検出が増加した(患者の年齢の中央値は1歳9か月、範囲;生後9日から4歳5か月)。また、HPeVが検出された検体の内訳(12症例14検体)は、咽頭拭い液から8検体、髄液から3検体、糞便から2検体、唾液から1検体と様々な検体から検出されており、患者の症状も多様である。今シーズンは、エンテロウイルス感染症を疑う患者検体に対してもエンテロウイルスが陰性であった場合はHPeV感染を念頭において検査を実施する必要があるかもしれない。また、HPeV 3型の検出事例では重症事例や死亡事例の報告4,5)があることから、今シーズンのHPeV感染症の発生動向に注目する必要があると考える。

 
参考文献
  1. 石古 博昭, 他, 臨床とウイルス27: 283-293, 1999
  2. W. Allan Nix, et al., J Clin Microbiol 46: 2519-2524, 2008
  3. Ngan Thi Kim Pham, et al., J Clin Microbiol 48: 115-119, 2010
  4. Joseph J Volpe, Ann Neurol 64: 232-236, 2008
  5. Gerald Sedmak, et al., Clin Infect Dis 50: 357-361, 2010

 

大阪府立公衆衛生研究所 中田恵子 山崎謙治 駒野 淳 加瀬哲男

 

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