国立感染症研究所

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<速報>フィリピン渡航者からの麻疹ウイルス遺伝子型B3の検出―川崎市

(掲載日 2014/2/19)

 

現在、わが国では麻疹排除に向けた取り組みが進んでおり、川崎市においても麻疹含有ワクチン接種の推奨や検査診断の推進など総合的な対策が進められているところである。市内における麻疹の検査確定例は、2012年は0例、2013年は1例(遺伝子型D8)のみであった。しかしながら、2014年1月に届出のあった川崎市内在住者3例全例から麻疹ウイルス遺伝子型B3が検出され、いずれもフィリピン渡航歴があったため、概要を報告する。

症例1:生後9カ月の男児で、2013年12月15日~2014年1月1日までフィリピンに渡航していた。2014年1月8日に発熱、咳、鼻汁、1月12日に発疹を認め、1月14日に医療機関を受診し、咽頭ぬぐい液、尿および血液を採取され入院となった。同居の兄は2回の麻疹含有ワクチン接種歴があったが、兄以外の家族にワクチン接種歴や麻疹罹患歴が不明の濃厚接触者がいたにもかかわらず、二次感染者の発生はなかった。また、感染可能期間中に、入院医療機関以外の医療機関にも受診歴があったため、管轄の区役所保健福祉センターより当該医療機関への情報提供と注意喚起を行った。その後の調査では、院内感染例や周囲への拡大は確認されていない。

症例2:12歳の女児で、2013年12月20日~2014年1月4日までフィリピンに渡航していた。2014年1月12日に発熱、1月14日に発疹を認め、市内医療機関を受診した。児は2回の麻疹含有ワクチン接種歴があり、典型的な麻疹の発疹とは異なることから、当初は水痘と診断されていた。しかしながら経過中に色素沈着を認め、フィリピン滞在中に麻疹と診断された患者との濃厚接触があり、曝露から発症までの期間が潜伏期間と一致することから、麻疹疑い例として1月16日に咽頭ぬぐい液、尿および血液を採取された。管轄の区役所保健福祉センターが積極的疫学調査を実施したところ、児は発症の2日前まで登校しており、同学年にワクチン未接種者が2名いることが判明したが、家族を含む接触者から二次感染者の発生は認めなかった。

症例3:33歳の女性で、2013年12月23日~2014年1月11日までフィリピンに渡航していた。2014年1月12日より発熱、1月15日に発疹を認め、1月17日に医療機関を受診し1月22日に咽頭ぬぐい液および尿を採取された。同居の子どもはワクチン接種歴があったが、夫はワクチン接種歴、麻疹罹患歴とも不明であった。また、区役所保健福祉センターによる調査の結果、感染可能期間内に他区の医療機関を受診していたことが判明し、医療機関を管轄する保健福祉センターから、情報提供と接触者に対する注意喚起およびワクチン接種の啓発を行った。その後の調査では、接触者からの二次感染者の発生はなかった。

本症例は発症前日にフィリピンから帰国しており、機内や空港周辺ならびに空港からの利用交通機関等での感染拡大を懸念して、本市の感染症担当者より千葉県、国立感染症研究所(感染研)感染症疫学センターおよび厚生労働省(厚労省)健康局結核感染症課に情報提供を行った。

川崎市健康安全研究所において、上記3例から採取された検体を用いてRT-PCR法によるH遺伝子およびN遺伝子の増幅を試みた結果、すべての検体から麻疹ウイルスN遺伝子が検出された。N遺伝子のDNAシークエンス解析では3例の遺伝子配列は100%の相同性を示し、系統樹解析の結果、B3型のクラスターに属することが確認された(図1)。

B3型は近年、主にアフリカで流行がみられていた株であったが、2013年以降フィリピンでも大きな流行がみられ、フィリピン保健省によると、2013年1月1日~12月14日までに死亡例12例を含む1,848例の麻疹症例報告があった1)。またWHO西太平洋地域事務局によると、2013年のフィリピンにおける麻疹症例総数は死亡例26例を含む2,417例と報告されている2)。わが国においても、2014年2月5日現在、B3型は35件と他の型に比べ多く検出されている3)。また、2013年12月以降にB3型と診断された患者19例中、フィリピン渡航歴のあるものは16例にも上り、フィリピンでの感染リスクの大きさを示している。オーストラリアおよびニュージーランドにおいても、フィリピン、インドネシア、タイ、インド、スリランカ等アジア旅行の帰国者から麻疹患者が多数発生しており4)、西太平洋地域において遺伝子型が判明した麻疹症例のうちB3型の報告は、2012年はわずか8件であったにもかかわらず、2013年には137件と急増している2)

現在、フィリピンをはじめとするアジア、オセアニア地域で麻疹ウイルスに感染するリスクは非常に高くなっており、今後は海外渡航者による輸入麻疹例の増加、さらには国内での二次感染の可能性も危惧される。

今回の3事例においては、市内の各区役所保健福祉センターが協力して積極的な疫学調査を行い、本庁や健康安全研究所と情報共有しながら同時に対策にも着手することができた。さらに、感染研感染症疫学センター、厚労省健康局結核感染症課、成田空港のある千葉県など他機関との情報共有や連絡を密に行うことで、今後の対策にもつなげることができたと考える。

感染症の拡大に境界線はなく、強い感染力を持つ疾患の拡大防止対策には関係各所の連携が非常に重要である。今回の麻疹ウイルス遺伝子型B3のように全国的に感染者が確認される場合には、速やかに接触者の洗い出しや疫学調査を行い、その情報を自治体の枠を越えて各種関係機関と共有することで感染の拡大防止に努めることが必要である。

  

参考文献
1) Republic of the Philippines Department of Health, National Epidemiology Center, Weekly Disease Surveillance Report: 2013 Morbidity Week 50
http://nec.doh.gov.ph/images/dsr2013/weekdsr50.pdf
2) WHO Western Pacific Region Office (WPRO), Measles-Rubella Bulletin Vol 8 Issue 1 (January 2014) http://www.wpro.who.int/immunization/documents/MRBulletinVol8Issue01.pdf
3) IASR 麻疹ウイルス分離・検出状況 2013~2014年
http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-measles.html
4) Department of Health, Victoria, Australia, Measles in returned travellers - Philippines, Bali, Thailand, India and Sri Lanka
http://www.health.vic.gov.au/chiefhealthofficer/advisories/advisory-2014-01-measles-returnedtravellers.htm

 

川崎市健康安全研究所   
  石川真理子 中島閲子 松島勇紀 駒根綾子 清水英明 大嶋孝弘 丸山 絢   三﨑貴子 岩瀬耕一 岡部信彦  
川崎市川崎区役所保健福祉センター   
  小河内麻衣 占部真美子 瀧澤浩子 雨宮文明  
川崎市幸区役所保健福祉センター   
  村木芳夫 田巻いづみ 林 露子  
川崎市多摩区役所保健福祉センター   
  長妻由希子 大原千恵 吉岩宏樹 西村正道 林さわ子  
川崎市健康福祉局健康安全部健康危機管理担当   
  小泉祐子 平岡真理子 瀬戸成子

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