国立感染症研究所

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<速報>最近の広域株によるA型肝炎患者の増加と通知法のリアルタイムPCRによる偽陰性に対する注意について

(掲載日 2014/5/22) (IASR Vol. 35 p. 154-156: 2014年6月号)

はじめに:A型肝炎はA型肝炎ウイルス(hepatitis A virus, HAV)の感染による急性肝炎で、感染者の便中に排泄されたウイルスが主な感染源となり、感染者との接触や水、食品等を介して経口的に感染する。日本を含む先進諸国では衛生環境の改善、特に上下水道の整備に伴いA型肝炎の大規模な集団発生はみられなくなってきている。しかしながら、A型肝炎の発生数の減少により抗HAV抗体陽性者が減少したため、HAVへの感受性者が人口の大多数となってきており、海外では汚染された輸入食材によるアウトブレイクが報告されている。日本でも、何らかのきっかけでA型肝炎の流行が発生する可能性がある。

患者は感染後約1カ月間の潜伏期間を経て、38℃以上の発熱、著しい倦怠感、頭痛、食欲不振、筋肉痛、腹痛などの感冒様症状、その後、黄疸、肝腫脹、黒色尿、白色便などの特徴的な肝炎症状を呈する。HAVは発症2週間前~発症後数カ月まで長期間便中に排出され、特に発症前から伝搬する可能性がある。一般に予後良好で慢性化することはないが、回復までに数カ月かかることもある。5歳以下の小児は約90%が不顕性感染であるが、年齢とともに顕性感染の割合が増え、成人になると90%が発症し、うち60%は黄疸を示す。発症した場合、加齢とともに重症化(劇症肝炎・死亡)する傾向にある。

A型肝炎は2003年11月5日の感染症法改正に伴い、単独の疾患として感染症発生動向調査の4類感染症に分類され、現在は無症状病原体保有者を含む全診断症例の届出が義務づけられている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-03.html)。

患者の動向:2011~2013年の年間患者報告数は176、158、127例であったが、2014年は報告数が第5週から急増し、第18週現在、すでに305例に上っている(暫定値)。第15週までの274例中、83%にあたる227例が飲食物などを介する経口感染と推定されている。これまでに、カキやアサリなどの二枚貝を含む魚介類が原因として推定されている場合があるが、共通する感染源は見出されていない。男性160例(58%)、女性114例(42%)であり、例年と同様40~60代の男性の報告が比較的多かった。また、予備的な情報として、2014年はこれまでに10を超える家族内感染を疑わせる事例が散見されており、分析を進めている。初発例発病後、平均30日程度の間隔をあけて家族が発病、または検査で感染が確認された二次感染例が含まれる。うち数名は不顕性感染であり、現時点ではすべて5歳以下の小児であった。本邦では50歳以下のA型肝炎抗体保有者はほぼ0%であることから、患者発生時の二次感染防止に対する医療機関や公衆衛生機関からの衛生指導は重要である。また、一般的にA型肝炎ワクチンは感染後2週間以内の接種であれば発症防止または軽減の効果が期待される。

遺伝子解析:A型肝炎の流行状況を調査するため、厚生労働省は、2010年4月26日付通知(IASR 31: 140, 2010)により、各自治体宛にA型肝炎の発生届を受理した場合の分子疫学的解析を目的とする患者の糞便検体の確保と積極的疫学調査の実施を依頼している。国立感染症研究所は、全国の地方衛生研究所と共同で、2014年に発生した急性A型肝炎114例の患者検体からのHAVの構造/非構造junction領域の配列を決定し、分子疫学的解析を行った。その結果、genotype IAが83%、IBが3%、IIIAが15%であり、大部分を占めたIAのうちの84%は遺伝子解析を行った領域の配列がほぼ完全に同一であった。この株は宮城県から鹿児島県まで広範囲にわたり検出されているため、2014年IA(広域型)と呼ぶ。2014年のA型肝炎の流行は、その大部分がこのIA(広域型)によるものであることが明らかとなった。このIA(広域型)によるA型肝炎の報告は、第9週をピークとする一峰性であり、潜伏期間を考えると、1月下旬~2月上旬ごろに同一の感染源が全国に拡散して感染したものと推定される。

PCRによる遺伝子検出:今年の流行の大きな原因と考えられる2014年IA(広域型)は、通知法〔A型肝炎検査マニュアル(平成18年8月)https://www0.niid.go.jp/niid/reference/HA-manual.pdf〕のリアルタイムPCRでは検出ができないことが判明した。確認のためにリアルタイムPCRを用いると、本来陽性であるべき検体が陰性と判定される恐れがある。配列解析の結果、一方のプライマー(HAV-557)がアニールする部分に変異があるためであることが明らかとなった。そのため、リアルタイムPCRで2014年IA(広域型)を検出するためには、(HAV-557)の配列を変更することが必要となる(図1)。

広域株をはじめとするA型肝炎の今後の動向に注意が必要であり、HAVのウイルスゲノムをPCRにより確実に検出するためには、以下のどちらかの方法を用いる必要があることを強調したい(図2)。

 1)リアルタイムでなく、コンベンショナルなRT-PCRで検出を行う。
 2)リアルタイムのプライマーの一方(HAV-557)を、
   ACAGCCCTGACARTCAATYCACT から
   ACAGCCCTGACARTCAATYCMCT に変更する。

 

国立感染症研究所ウイルス第二部 石井孝司 清原知子 脇田隆字
国立感染症研究所感染症疫学センター 砂川富正 八幡裕一郎

 

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