国立感染症研究所

 

IASR-logo

小児科定点疾患としてのA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の動向(2011年~2016年第21週)

(掲載日 2016/07/26)

(改訂日 2016/07/29)

はじめに
 A群溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus)は、ヒトでの化膿性疾患の原因菌としてよくみられるグラム陽性菌で、菌の侵入部位や組織によって多彩な臨床症状を引き起こす。A群溶血性レンサ球菌感染症には急性咽頭炎、扁桃炎、蜂窩織炎等の急性化膿性疾患
や敗血症があり、特殊な病型として劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)等がある。さらに菌の直接の作用でなく免疫学的機序を介したリウマチ熱等の合併症を起こすこともあるため、合併症の予防には適切な抗菌薬投与による予防が重要である。

 本稿では、感染症法に基づく感染症発生動向調査において、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関が週単位で届出を行う5類感染症の一つであるA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の近年の動向について述べる。なお、同症の届出基準は患者(確定例)として、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ発熱、咽頭発赤、苺舌の必要な臨床症状をすべて満たすか、すべて満たさずとも必要な検査所見(咽頭ぬぐい液を検査材料とした菌の培養・同定による病原体の検出、あるいは迅速診断キットによる病原体の抗原の検出、あるいは血清を検査材料としたASO法またはASK法による抗体のペア血清での陽転または有意の上昇)を満たすことなどとなっている。詳細については以下のURLを参照されたい(厚生労働省、感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について, http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-17.html )。

発生動向
 2011年第1週~2016年第21週までのA群溶血性レンサ球菌咽頭炎患者報告の推移を定点当たり患者報告数としてに示す。年間患者報告数は、2011~2015年は各264,043、276,090、253,089、303,160、399,536で、2016年は第21週現在176,568である。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の報告数は、2014年後半から例年に比べ増加傾向にあり、2015年に入りその傾向は一層著明なものとなった(1)。その後も報告数は例年より高めに推移している。

 また、第1週~第21週までの累積報告数の状況を各年で比較すると、2016年の累積報告数(全国176,568、定点当たり累積数55.99)については過去10年間で最多であり、2015年同時期での定点当たり累積報告数53.85をさらに上回った。

 地理的な分布については、2015年第1週~第53週までの定点当たり累積報告数が多かった上位10道県は、鳥取県(284.58)、山形県(230.79)、静岡県(203.34)、北海道(189.73)、石川県(176.83)、鹿児島県(176.83)、山口県(175.04)、新潟県(172. 80)、福岡県(172.69)、岩手県(165.56)の順であり、2016年第1週~第21週についてもほぼ同様の傾向を認めていた。

 小児科の定点より報告されている2011年第1週~2016年第21週までの累積報告数の年齢別の割合は、5~9歳868,671(51.5%)、1~4歳543,748(32.2%)、10~14歳177,631(10.5%)、20歳以上72,963(4.3%)、15~19歳14,064(0.8%)、1歳未満10,902(0.6%)の順となっており、うち5歳児が247,690(14.7%)と最も多かった。上記年齢分布に報告年ごとの相違はなかった。

おわりに
 2014~2016年にかけての小児科定点医療機関におけるA群溶血性レンサ球菌咽頭炎患者報告数の増加は、前回の報告同様に真の増加を示している可能性があり、引き続きA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の動向を注視し、増加傾向を認める際には適宜その情報を還元することが重要である。

 

参考文献
  1. IASR 36: 149-150, 2015 

 国立感染症研究所

  実地疫学専門家養成コース(FETP)
  感染症疫学センター

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version