国立感染症研究所

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シカ肉を介したウェステルマン肺吸虫症の感染リスク

(IASR Vol. 37 p. 36: 2016年2月号)

肺吸虫症の感染源として淡水産カニとイノシシ肉が重要であるが、患者の食歴からシカ肉が感染源と推定された肺吸虫症例も認められる1)。シカは草食動物であることから、淡水産カニを摂取して肺吸虫に感染し、イノシシと同様に肺吸虫の幼虫を筋肉に蓄積するのか、確認が必要と考えられた。そこで狩猟により捕獲され、食用として処理されたニホンジカの肉を鹿児島県の施設から冷蔵で入手し、既報に従い精査して、肺吸虫幼虫の検出を試みた。

検査材料は、2014年8月~2015年3月までに捕獲されたシカ96頭分の体幹部筋肉で、検査の対象とした肉の重量は1頭当たり100~1,360g(平均486g)であった.このうちの1検体(400g)から、肺吸虫の幼虫2隻が検出された。虫体はいずれも体長が1~2mmで、検出時には生理食塩水中で伸縮しながら活発に運動した。これらの虫体は遺伝子解析の結果、ウェステルマン肺吸虫の3倍体型と同定された。

今回の調査により、シカもウェステルマン肺吸虫に感染し、その肉はイノシシ肉と同様に肺吸虫症の感染源となることが、寄生虫学的に証明された。シカ肉を特に生で喫食すれば、ウェステルマン肺吸虫に感染して、発咳や喀痰などの呼吸器症状を発症する危険性がある。

検査に用いたシカ肉の提供施設では、通常は出荷前に肉を冷凍しており(-27℃、24時間以上)、筋肉に寄生する肺吸虫の幼虫は感染性を消失すると考えられた2)。このような冷凍あるいは加熱(中心温度75℃、1分間)が、シカ肉およびイノシシ肉を介した肺吸虫感染の予防に有効との周知が必要である。

参考文献
  1. Nagayasu E, et al., Intern Med 54: 179-186, 2015
  2. Sugiyama H, et al., JJID 68: 536-537, 2015

国立感染症研究所寄生動物部
   杉山 広 柴田勝優 荒川京子 森嶋康之 山﨑 浩
麻布大学生命・環境科学部 川上 泰
鹿児島県環境保健センター 御供田睦代

 

 

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