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エンテロウイルスD68型が検出された麻痺症状を呈する小児症例を含む2症例―青森県

(掲載日 2015/12/1)   (IASR Vol. 37 p. 12-13: 2016年1月号)

エンテロウイルスD68型(EV-D68)は、1962年に発見された気管支炎や肺炎等呼吸器症状を呈するウイルスである1)。日本では、2005~2009年までは毎年数例報告されていたが、2010年と2013年は100例を超える報告があった。2014年に広島県2)、2015年9月に東京都3)、2015年10月にさいたま市4)からEV-D68が検出された症例の報告があり、そのうち広島県とさいたま市では急性弛緩性脊髄炎症例から確認された。海外では2014年に米国ミズーリ州とイリノイ州でEV-D68による重症呼吸器疾患の流行が発生した5)。2015年9月に青森県で麻痺症状を呈した小児患者1名からEV-D68を検出した。また、8月中旬に呼吸器症状を呈した小児患者1名からEV-D68が分離・検出されたので併せて概要を報告する。

症例1:10歳7か月齢の男児、Guillain-Barré 症候群疑いで入院
2015年9月3日から咳嗽が出現し、4日から咳嗽・喘鳴・発熱(38.2℃)があり、かかりつけ医を受診した。6日左膝の違和感・腰部痛が出現し、7日にかかりつけ医を再受診し、プロカテロール吸入にて帰宅した。8日から左下肢の痺れ、脱力が出現し、かかりつけ医を再々受診後、紹介された病院を受診し、Guillain-Barré症候群疑いのため入院となった。Hopkins症候群疑い・髄膜炎疑いで10日に髄液・血清、13日に咽頭ぬぐい液・直腸ぬぐい液を採取し、当センターに検査依頼があった。それら検体について、エンテロウイルスとライノウイルスに共通する5’ NCRからVP4/2領域を増幅するプライマーセット(OL68-1、EVP2、EVP4)により遺伝子を増幅し、増幅産物のDNAダイレクトシークエンス法、BLASTによる相同性検索を行った。その結果、咽頭ぬぐい液からEV-D68が検出・同定された。髄液、血清、直腸ぬぐい液はいずれも陰性であった。また、エンテロウイルスのVP1領域を増幅するCODEHOP PCR法6)による遺伝子増幅を行ったが、咽頭ぬぐい液、髄液、血清、直腸ぬぐい液はいずれも陰性であった。4種類の臨床検体について、培養細胞(RD-A、HEp-2、Vero)を用いたウイルス分離を実施したが、いずれも陰性であった。

症例2:0歳3か月齢の女児、百日咳様症候群で医療機関を受診
2015年8月中旬頃に発症し、9月10日に症例1と同じ病院を受診し、上気道炎、気管支炎、遷延性咳嗽(発作性、百日咳様)がみられた。9月10日に採取した吸引鼻汁について、VP4/2領域を増幅するプライマーセット(OL68-1、EVP2、EVP4)により遺伝子を増幅し、増幅産物のDNAダイレクトシークエンス法、BLASTによる相同性検索を行った。その結果、EV-D68が検出・同定された。また、培養細胞(RD-A、HEp-2、Vero)を用いたウイルス分離を実施したところ、RD-A細胞からウイルスが分離された。分離ウイルスについて、VP4/2領域とVP1領域を増幅し、増幅産物のダイレクトシークエンス、BLASTによる相同性検索の結果からEV-D68と同定された。なお、併せて実施した呼吸器系ウイルス(RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヒトボカウイルス、ヒトパレコウイルス)を対象とした遺伝子検査からヒトパレコウイルス1型が検出され、他は陰性であった。

EV-D68株の系統樹解析:症例1、2について、VP4/2遺伝子領域を増幅したうち384bpについて相同性を確認したところ、97.6%であった。2症例の配列についてMEGA6を用いて系統樹解析した結果、2014年に中国やカナダで検出された株と同一のクラスターを形成した()。なお症例2においてVP1遺伝子領域の増幅がみられたので、VP4/2遺伝子領域の解析で用いた株の配列とともに系統樹解析を行ったところ、VP4/2領域の解析結果と同様、2014年に中国やカナダで検出された株とクラスターを形成した()。また、臨床症状によるクラスターの違いは認められなかった。

今回、我々が示した症例1については気管支喘息の既往があり、弛緩性麻痺症状を示した症例であった。日本ではEV-D68の流行像については多くの点が不明であるが、全国から報告されていることや米国国内の流行状況をみると、今後の動向には注意が必要である。

 
参考文献
  1. Ikeda T, et al., Microbiol Immunol 56: 139-143, 2012
  2. 島津幸恵, 他, エンテロウイルスD-68型が検出された小児・乳児の4症例―広島県, 病原微生物検出情報(IASR)35: 295-296, 2014
  3. 伊藤健太, 他, エンテロウイルスD68型が検出された小児4症例―東京都, 病原微生物検出情報(IASR)36: 193-195, 2015
  4. 豊福悦史, 他, エンテロウイルスD68型が検出された、急性弛緩性脊髄炎を含む8症例―さいたま市, 病原微生物検出情報(IASR)36: 226-227, 2015
  5. CDC, MMWR 63(36): 798-799, 2014
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6336a4.htm
  6. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 無菌性髄膜炎
 
青森県環境保健センター 筒井理華 武差愛美 坂 恭平  
八戸市立市民病院 藤田真司 鈴木 豊  
国立感染症研究所ウイルス第二部 吉田 弘
 

 

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