国立感染症研究所

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気管支喘息発作の急増とエンテロウイルスD68型陽性―鶴岡市

(掲載日 2015/11/5) (IASR Vol. 36 p. 248-249: 2015年12月号

当院では2015年9月に上気道炎症状に伴う喘息発作の患者が急増し、入院患者数は例年の6.5倍であった。は2011~2014年に「喘息性気管支炎」、「気管支喘息発作」、「気管支喘息重積発作」のために入院した患者数の平均と2015年の上記疾患で入院した患者数を比較したものであり、2015年9月の入院患者数が著明に多いことが分かる。入院患者はいずれも気管支喘息中発作もしくは大発作であり、入院時に著明な陥没呼吸を認める場合や、プロカテロール吸入やメチルプレドニゾロン点滴投与を行っていても呼吸状態が増悪する場合にはイソプロテレノール持続吸入を行った。例年と比較して、入院患者全体の中でのイソプロテレノール持続吸入を要する症例の割合が優位に多かった(p<0.01)。

例年よりも重症化が多いことから、当院では9月に「喘息性気管支炎」、「気管支喘息発作」、「気管支喘息重積発作」のために入院した患者65名のうち28名から咽頭ぬぐい液を採取し、山形県衛生研究所でウイルス分離培養およびPCRをしていただいた。28名中10名でエンテロウイルスD68型(EV-D68)が陽性となり、10月にも気管支喘息発作の患者で1名陽性となり、当院では合計11名で気管支喘息発作の患者にEV-D68の感染が証明された(2015年10月31日現在)。 

EV-D68陽性の11名は、男児8名・女児3名で、平均年齢3.4歳、平均入院日数6.8日、ステロイド全身投与期間5.4日、イソプロテレノール持続吸入導入27%であり、例年と比較してイソプロテレノール持続吸入導入を要する割合が高い傾向にある結果となった。挿管を要する症例はなかったものの、例年よりも重症度が高い傾向にあった。

EV-D68陽性患者ではいずれも鼻汁・咳嗽といった症状があり、身体所見上咽頭発赤があり、典型的な急性上気道炎の診断となっており、病歴や身体所見のみからEV-D68を診断するのは困難であった。また、多くが保育園や幼稚園で急性上気道炎のシックコンタクトを認め、集団保育における感染の伝播が考えられ、米国で2014年にEV-D68が流行した際にはEV-D68感染を伴う呼吸器疾患患者の平均年齢が7歳であった1)が、集団保育での流行により平均年齢が低かった可能性が考えられた。

都道府県別診断名別EV-D68分離・検出報告状況2)では、山形県にて他県よりも多数のEV-D68が検出されているものの、急性弛緩性麻痺を来した症例の報告は報告時点で無い。他県では急性弛緩性麻痺を来した症例の中にEV-D68が陽性であった症例もあり3),流行株の比較が必要である。また、EV-D68は2014年に米国における呼吸器疾患の流行との関連が報告されており4)、米国の流行株との比較も必要である。

 
参考文献
  1. Schuster JE, et al., Severe enterovirus 68 respiratory illness in children requiring intensive care management, J Clin Virol, 2015
  2. IASR, 都道府県別診断名別エンテロウイルス68分離・検出報告状況
    https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data110j.pdf
  3. IASR, 豊福ら, IASR 36: 226-227, 2015
  4. CDC, http://www.cdc.gov/non-polio-enterovirus/about/EV-D68.html
 
鶴岡市立荘内病院小児科
  幾瀬 樹 丸山 馨 布施理子 坂井知倫 黒沢大樹 楡井 淳 齋藤なか 吉田 宏
山形県衛生研究所 水田克己
 

 

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