国立感染症研究所

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野菜サラダを原因食品としたYersinia enterocolitica O8 による食中毒事例―東京都

(IASR Vol. 35 p. 17: 2014年1月号)

 

事例概要:2013年4月25日、某予備校から「管内の寮で4月19日~25日の間、約20名の寮生が発熱、腹痛等の症状を呈しており、3名が入院している」と東京都北区保健所に連絡があった。寮では給食業者が寮生に朝夕の食事を提供していた。直ちに食中毒および感染症の両面から調査を開始した。

調査の結果、寮生92名のうち52名(すべて男性)が発症していた(発症率56.5%)。主な症状は、腹痛、発熱、頭痛、下痢であった。症状別発症者数を表1に、日別発症者数を図1に示した。後述のとおり、原因食品と決定した4月17日夕食の喫食から算定した潜伏時間は、37~175.5時間であった。

発症者および調理従事者の検便を実施したところ、発症者26名中18名、調理従事者11名中2名からYersinia enterocolitica(血清型 O8)が検出された。北区保健所は、5月1日、発症者の共通食が寮の食事に限定されること、症状および潜伏期間が同菌のものと一致することから、寮の食事を原因とする食中毒と判断し、3日間(平成25年5月1日~5月3日)の営業停止処分とした。

原因食品については、検食(4月14日~20日)等を検査したところ、4月17日夕食の野菜サラダ(ポークハムカツの付合せ)から同菌が検出された。野菜サラダを賄いとして喫食した調理従事者2名の検便からも同菌が検出されたこと、また、施設調査から、豚肉を扱った器具を介して二次汚染された可能性が高いことから、野菜サラダを原因食品と決定した。

検査結果:糞便検体は、すべてCIN寒天での直接分離培養で検出した。7名の発症者について糞便中のY. enterocolitica菌数を測定した結果、103~104個/gであった。 

原因食品を特定するために検食73検体、原材料6検体、給茶器の水1検体について検査を実施した。各食品にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加え、4℃ 21日間培養後、培養液を対象に、ail 遺伝子(接着と侵入性に関与する病原因子の1つ)をターゲットとしたPCR法でスクリーニング試験を行った。その結果、1検体(野菜サラダ)が陽性となったため、この検体から集中的に菌の分離を試みた。

Y. enterocoliticaが検出された「野菜サラダ」の増菌培養液中には、CIN寒天に発育するYersinia以外の菌が非常に多く、Y. enterocoliticaの分離は非常に困難であった。増菌培養液に等量の0.8%KOH加生理食塩水を加え10秒間混和後に平板へ塗抹するアルカリ処理法は非常に有効であり、CIN寒天上に発育した集落から3集落を調べた結果、そのすべてがY. enterocoliticaであった。さらに、Y. enterocolitica O8群抗体を感作させた免疫磁気ビーズを作製し、培養液から集菌後にCIN寒天へ塗抹分離したところ、ほぼ純培養状にY. enterocoliticaの発育が認められ、釣菌した10集落すべてがY. enterocolitica O8であった。

今回の検査では、培養液から遺伝子検査でスクリーニング試験を行い、陽性であった検体に集中して目的菌の分離を行うことで、効率の良い検査を実施することができた。また、培養液中に夾雑菌が多い場合は、アルカリ処理や免疫磁気ビーズ法を用いた集菌法が非常に効果的であった。しかし、食品の増菌培養に3週間、菌の分離・同定を含めると約1カ月を要したことから、迅速な検査を実施するためには、さらに検討が必要であると考えられた。

 

東京都北区保健所 
  大地貴之 木幡幸恵 鈴木美智子 小澤めぐみ 福田智裕     
東京都健康安全研究センター
  小西典子 石塚理恵 横山敬子 齊木 大 赤瀬 悟 門間千枝 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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