国立感染症研究所

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Legionella pneumophila 血清群9の症例について

(IASR Vol. 36 p. 14- 15: 2015年1月号)

レジオネラ症を疑う患者の臨床検体から分離されることが稀なLegionella pneumophila 血清群(SG)9を検出したので、その概要を報告する。

患者は69歳の男性で、陳旧性肺結核、高血圧、心房細動の既往歴があった。2014年7月中旬から寒気、熱感などの風邪様症状を呈し、発病3日後には起き上がることが困難となるまで症状が悪化したため、その翌日に中野市内の病院を受診し、即日入院となった。病院ではレジオネラ症を疑い、尿中抗原検査(IC法)および喀痰の分離培養検査を実施したところ、IC法では陰性であったが、入院から7日後に培養法でレジオネラ属菌が検出されたことから、同日保健所に感染症法による届出がされた。後日病院で分離された菌株は当所に搬入され、確認検査を実施したところ、L. pneumophila SG9であることが確認された。

なお患者は、診断時には発熱、咳嗽、呼吸困難など肺炎の症状を呈していたが、予後は良好で、診断から11日後に退院した。また、同居家族に発症者は認められなかった。

管轄保健所は、当該患者が発症以前、ほぼ毎日のように自宅近隣の共同浴場を使用していたことから共同浴場での感染を疑い、当該浴場の浴槽水2検体、源泉2検体の計4検体を採水し、同日当所に搬入し検査を開始した。その結果、50~408 CFU/100 mlのL. pneumophila が分離されたが、いずれもSG3、4、5、6、15で、SG9は検出されず、感染源の特定には至らなかった。

患者分離株は国立感染症研究所へ送付し、sequence-based typing(SBT)法による型別を実施したところ、新規の遺伝子型であることが判明し、EWGLI SBTデータベースにシークエンスタイプST1808で登録された。2014年10月20日現在、EWGLI SBTデータベースに登録されているSG9の国内臨床分離株は本例を除き4株で、それらのSBT型はST512、ST535、ST1136、ST1283(ST535とST1283は7つの遺伝子配列のうち5つが一致)であり、本例分離株とは遺伝子型に類似性は認められなかった。また、世界的にも分離例は非常に稀で、同データベースに登録されているSG9は7株のみである(臨床分離株5,998株中、日本4株、カナダ、チェコ、オランダ各1株)。

尿中抗原検査試薬はL. pneumophila SG1のみを標的としており、そのため同法で陰性であった場合はレジオネラ症との診断に苦慮する症例も予想される。しかし、当該病院では、平常時からレジオネラ症を疑う患者の検査は尿中抗原検査に併せて分離培養検査も実施しており、今回こうした検査体制がレジオネラ症の診断、ひいては稀な血清群の検出につながったと思われた。今回の事例を通じ、レジオネラ症診断に汎用される尿中抗原検査試薬の特性を十分理解し、たとえ同検査で陰性であっても症例に応じ分離培養を実施することが重要であると示唆された。

長野県環境保全研究所
  笠原ひとみ 関口真紀 中沢春幸 藤田 暁
長野県北信保健福祉事務所(保健所)
  畔上由佳 高山 久          
長野県厚生農業協同組合連合会 北信総合病院
  千秋智重 関 年雅 池田元彦
国立感染症研究所細菌第一部
  前川純子 倉 文明

  

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