国立感染症研究所

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無菌性髄膜炎患者からのコクサッキーウイルスB群の検出状況―千葉県

(IASR Vol. 38 p.39-40: 2017年2月号)

コクサッキーウイルスB群(以下CB)を原因とする無菌性髄膜炎は, 夏から秋に患者の増加がみられる。千葉県では2016年8月以降, 無菌性髄膜炎と診断された患者検体の搬入が相次ぎ, 患者髄液の多くからCBが検出された。今回, CBの検出状況と患者情報を併せて報告する。

 対象は, 2016年8月25日~10月25日に当所へ搬入された無菌性髄膜炎患者18名の髄液, 咽頭ぬぐい液, 便とした。

CBの検査は, エンテロウイルス属のVP1領域の遺伝子を増幅するCODEHOPのプライマーを使用し1), conventional RT-PCRを行った。PCR陽性検体については, ダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定し, 近隣結合法に基づく分子系統樹解析(404bp)により, 血清型を同定した。なお, 分子系統樹解析は, 感染症流行予測調査事業ポリオ環境水サーベイランスに準じた県北央部の流入下水調査で検出されたCBの遺伝子も併せて行い, 患者から検出されたCBの遺伝子と比較検討した。

18名のうち12名の髄液からCBの遺伝子が検出された。血清型の内訳は, CB5が8名, CB3が3名, CB4が1名であった()。CBの遺伝子が検出されなかった6名のうち, 1名からパレコウイルスの遺伝子が検出され, 5名からは無菌性髄膜炎の主な原因ウイルスの遺伝子は検出されなかった。

CBの遺伝子が検出された患者は, 日齢10日~3か月齢であり, すべて乳児であった。患者発症日は8月9日(第32週)~9月17日(第37週)に集中した。主な居住地は, 県北東部であった。

無菌性髄膜炎の罹患年齢は, 幼児および学童期が中心であると報告されている2)。特にCB5による無菌性髄膜炎は, 0歳をピークに低年齢で多いとされており3), 今回のCBの遺伝子が検出された患者も, 日齢10日を含む極めて低年齢層であることが特徴であった。また, 無菌性髄膜炎の流行時期は, エンテロウイルス属の流行状況を反映し, 夏から秋にかけて患者の増加がみられると報告されている2)。今回の患者発症時期も8月中旬~9月中旬であった。

一方, 流入下水からのCBの検出は, 5月以降増加し, 7, 8月にはCB5およびCB3が全体を占めた(図1)。患者と流入下水から検出されたCBの遺伝子すべてにおいて, VP1領域404bpで, 94%以上の配列が一致した(図2)。

5月2日発症の患者髄液および5月採取の流入下水からCB5の遺伝子が検出されたことによって, この時期にはすでにCB5が県内に存在していたことが明らかとなった。さらに, 5月以降, CB5による無菌性髄膜炎患者の発生数は増加し, 流入下水からのCB5の検出割合は上昇した。

以上のことから, 流入下水のウイルスの検索は, 疾患の原因となるウイルスの流行状況を把握する上で有用な指標になることが示唆された。

CBの検出数は前年に比較して多いものの, 感染症発生動向調査事業における無菌性髄膜炎の届出数は例年とほぼ同等であった。今回は, 基幹定点医療機関以外の医師が患者の急増を察知し, 相談を受けた保健所が積極的疫学調査の必要を認め, 当所でのウイルス検査が実施された。このことがCBの流行把握につながった。

流行状況を正確に把握するためには, 感染症発生動向調査事業での病原体検索を確実に実施することはもちろん, 医療機関と保健所, 衛生研究所等のネットワークを密にし, 情報共有することが重要であると考えられた。

 

参考文献
  1. Nix WA, et al., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006
  2. 国立感染症研究所ホームページ, 無菌性髄膜炎, 2014年5月
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/520-viral-megingitis.html
  3. IASR 30: 1-3, 2009

千葉県衛生研究所ウイルス研究室
 西嶋陽奈 堀田千恵美 平良雅克 秋田真美子 篠崎邦子 小川知子

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